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第40話: 決別1


 沙童の引退式も済み、梓もなんとか進級することが出来、三年になった。

高校生活も最後だ。

みんな進学するか就職するかの分かれ道の時でもあった。



『梓は進路どうするの?』


『しないよそんなの!恵里は?』


『私は進学かなぁ』

『そっかぁ恵里賢いもんね』


 恵里は私や真弓と学校帰りに遊びに行ったり、何よりも彼氏の為に学校さぼったりだけど、ちゃんと勉強はしていた。いつでもサボる私と違い、恵里は考えてサボる。


『あっ真弓』

恵里が真弓の登校に気付いた。


『真弓は進路どうするの?』


恵里の言葉に真弓は即答した。


『私は就職するよ!勉強はもうしたくないし』


真弓の意見に同感だ。

私も勉強はもうしたくない。


そう私と恵里と真弓は仲良く高校生最後の年はスタートした。


その矢先……。


私は朝方茂貴に家に送って貰った為、眠くて今日も学校を休んでいた時、昼に恵里からメールが来た。


《真弓ムカつく!もう友達無理!》


…え?喧嘩?

《何があったの?》

とりあえず理由を聞いてみた。


すると恵里からの返事は直ぐあった。


「男に惚けてて進学出来んの?」

恵里が怒った訳は真弓のこの言葉だったらしい。

そんな事、真弓が本気で言う訳はない。冗談で言っただけだって私は分かる。

真弓は私や恵里よりも友達を大切に思ってる子だから…。そして、恵里にはこういう冗談が通じないという事も私は知ってる。

今私が恵里に、真弓は冗談で言ったんだよ。と言っても恵里は私が真弓を庇ったと思うだけだろう。

だから、この場は恵里の話しを聞き、話しを合わせた。

その日の夜、真弓からも連絡があった。

真弓は何故恵里が怒ったのか分からず戸惑っていた。


私は恵里が怒った理由を伝え、

「その内恵里の機嫌も直るよ」

と、その場は真弓を慰めた。

実際、このことに関しては時間が解決してくれると思った。

恵里には言わなかったが、恵里が怒る理由はくだらない事だから。

 しかし、なかなか時間は二人の仲を解決してくれなかった。

恵里は断固として真弓と口をきこうとしなかった。



 学校内で目立つグループに属するが、十人程いたグループの子達は高二の夏に学校を辞め、残ったのは、

私、真弓、恵里だけとなった。

私達三人は、グループ内でも特に仲が良かった。

いつも三人一緒。

しかし、性格はまるっきりバラバラだ。



 真弓は友達思いのしっかり者の姉御肌。

友達が困っていれば何を放っておいても助けてくれる。

 私が中絶した時もそうだった。

彼氏と居る時間を削って、何日も私と一緒に居てくれた。

精神的に支えてくれた。

しかし、人見知りをする為なかなか友達の幅は広がらず、学校内でもグループ外の子とは話す事もない。



 恵里は、彼氏に一途な子。

彼氏がいないと生きていけない位男に依存する。

男と友達を天秤に掛けるまでもない。真弓とは逆に、何があっても第一に男を取る。

しかし、彼氏への一途っ振りは天下一品。

他の男には目も繰れず、自分の限界まで相手を思い続ける。

それに、恵里は人懐っこく、誰とでも話す。

しかし、恵里の中での友達。友達じゃない。という区切りがあるらしい。



 私は、その場その場で行動する。

真弓の様に、友達を大切に思う事もその時次第。

 私も男を優先するが、恵里の様に、純粋に相手を思い続けることも今はない。


 そんなバラバラな私達だけど友達だ。

 でも私は、友達なんてこんな物だと思う。

それぞれ性格が違い、趣味も考えも違う。

でも一緒に居て楽しい。落ち着く。その気持ちで友達が成り立つと思っている。


しかし一端歯車が合わなくなると、修復は難しい。


性格が似ていれば、相手の気持ちも分かり、解決策が思い当たったかもしれない。



**


『…明日も学校来てね』


真弓が縋るように私に言った。


『分かってるよ』


学校に行くと真弓と約束をした。


相変わらず恵里と真弓は口をきかない。

真弓は仲直りをしたいのだけれど、恵里にその気はなく、なかなか二人の気持ちが重ならない。


『梓!お昼行こ!』

恵里は私を誘いに来た。


『うん。真弓も行こ』


一人ポツンと座る真弓を誘った。


『…うん』



真弓は静かに席をたった。


真弓を誘うことに関して恵里は顔色一つ変えない。


恵里は、まるで真弓が見えてないかの様に振る舞うのだ。


端から見れば相変わらず仲良い三人に見えるだろうが、実際は違う。


会話をしているのは、私と恵里。

横に座る真弓は黙り込んでいる。

真弓に話しを振ることが出来ない様、恵里は私に向かい話し続ける。


 真弓が可哀想と思い、私は毎日学校へ通った。

 茂貴との付き合いは相変わらずだけど、それでも、どうにかして家に帰り、寝ずに学校へ行くこともあった。


 …明日も来てね…


真弓との約束通り。


『…ただいま』


  AM.6:00

茂貴に送ってもらい家路に着いた。


 前なら茂貴の家に泊まっていた処が、今は

「約束」

の為、週末以外泊まる事はない。


この生活に茂貴はかなり不満そうだが、出席日数が足りず卒業の為と嘘を付き、無理やりにでも帰っている。


学校へ行く本当の理由を言えば、きっと茂貴は

「俺より友達か?」

などと責め寄ると思うから、一番無難な嘘を付き続けている。


 …まだ学校行くまで時間もあるし寝よ。


『少し寝るから起こして』

母に頼みベッドに寝転がった。


寝付く瞬間も分からない程、眠りについたのは早かった。


『梓。梓!梓!』

母の声だ。

『…んん…』


『梓!真弓ちゃんから電話よ!』

 …真弓?

 まだ朝も早い筈。

 私の唯一の少ない睡眠を邪魔しないでよ!


眠りを妨げられ、機嫌を損ねたまま、眠り覚めぬまま電話に出た。

「はい」


口調で私の機嫌が悪いのが電話越しでも真弓に伝わっただろう。

「…あず…さ…」


電話の向こうで真弓は泣いていた。


「どうしたの?」


言葉とは裏腹に冷たい物言いになった。

いや。朝っぱらから起こされ、睡眠を邪魔された事で、真弓に怒りさえ覚える。

「梓…学校来ないの?」

「え!?」


 真弓何言ってんの?

 まだ時間じゃないじゃん!


そう思い、元々朝の弱い私は、真弓に掛ける一つ一つの言葉に苛立ちを隠しきれない。


「もう昼だよ」


真弓の言葉に私は時計に目をやった。


時計の針は確かに午後12時を回った処だった。


 まだ少ししか寝ていない感覚で朝だと錯覚していた。


私は寝過ごし、真弓との約束を破ってしまった。


しかし今の私は、真弓との約束よりも睡魔の方が断然上回っている。


「ごめん。今日は行けないや」


泣いている真弓に素っ気なく言い放った。

「どうして?約束したじゃん学校来るって…。今からでいいから来てよ」


 真弓は必死だった。

余程、私が居ない学校生活が辛く寂しいんだろう。

その必死さが、ウザイ。

 真弓の気持ちはわかる。

 約束を守らなかった私が悪い。

 でも1日位いいじゃん!

 今まで学校へ行くことが少なかった私が、真弓の為に毎日朝から通ってたんだよ。


 茂貴が不機嫌になり私は嫌な思いをしていて、私は茂貴に嘘を付いてまで真弓の為に毎日家に帰ってるんだよ。

 1日位いいじゃん。


今まで思いもしなかった事が次々に浮かんで、真弓をウザイく感じる。


「とりあえず今日は行かないから」


そう言い、私は一方的に電話を切った。

とても冷たい言い方だっただろう…。



 その日から真弓からの連絡は途絶えた。


そして、次の日真弓は学校を休んでいた。


次の日も次の日も…。

真弓の姿を見ることはなかった。


しばらくして真弓が学校を辞めた事を担任から知らされた。


 …こんな事になるなんて…


 真弓はいつも私の側に居てくれた。


―大好きだった慎悟と別れ、寂しくて自分が惨めでどうしようもなかった時。

―中絶して心が不安定だった時。


気付けば真弓は居てくれてた。

支えてくれた。

守ってくれた。



 頼るのはいつも私。

真弓は嫌な顔せず私に付き合ってくれた。

 そんな真弓が今回初めて私に頼ってきた。なのに、私は真弓をその時の気分だけで、冷たく投げ捨てた。


私は親友をいとも簡単に見捨てたのだ。


《恩を仇で返す》


今の私の姿だ。





『もう少しで卒業なのにね…勿体無い…』

教室の何処からか聞こえてくるヒソヒソ話し。

確かに卒業を目の前にして辞めるのは勿体無い。

だが、卒業までの数ヶ月間が耐えられない程、真弓の精神的ダメージは強かったんだと、今になって分かる。


もしもあの日。

あの電話の日に私が遅刻でも学校へ行っていれば、状況は違ったに違いない。


 私が真弓を退学に追い込んだのだ…。


「学校を卒業したら就職する」

と、放課後よく居残りし担任に相談してた真弓。


就職口もなくなってしまった。


 私が真弓の人生を変えてしまったんだ。

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