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第36話: 突然

―茂貴と付き合い、3ヶ月が経つ。


寒さもピークに達し、今年も終わりに近づいている。

二学期も今日で最後…。


12月といえば、カップル最大のイベントがある。クリスマスだ。


真弓と恵里はクリスマスの予定を楽しそうに話している。


真弓は彼氏と遠出をして泊まりでイルミネーションを見に行くそうだ。


恵里は彼氏にクリスマスプレゼントを買いに連れて行ってもらうらしい。


『梓、クリスマスの予定は?』


真弓が笑顔で聞いてきた。


『もち彼氏と過ごすでしょ?』


恵里も笑顔を私に向ける。


『……うん』


笑顔の二人に笑顔で返した。

クリスマスが待ち遠しくてたまらない

…かの様に。



本当の私は、クリスマスなんて楽しみじゃない。

かと言って、嫌な訳でもない。



真弓や恵里と違って、…ただ私には、いつもと同じ日常だから。

茂貴とはクリスマスも一緒に過ごすだろう。

でもそれは、クリスマスだからじゃなく、いつも通りの事。


だから、クリスマスなんて関係ない。


遠出をすることも、買い物に行くこともない。

家で過ごすのだろう。

遠出をすれば、ガソリン代だってかかる。

宿泊料だっている。

勿論、買い物に行くにはお金がいる。


だから私達はいつも家で過ごしている。


『梓はきっとプレゼントも良いもの貰えるんだろうなぁ』


恵里が呟いた。


『だって梓の彼氏は社会人だもんね』


…私も最初はそう思ったよ。

働いていても、お金がない人だっているの。

茂貴がどれだけ働いたって、余るお金なんてないんだよ。


私は心の中で真弓と恵里に言った。




―茂貴と付き合って二ヶ月が過ぎた頃だった。


夜いつもの様に茂貴の家にいたら、一人のおじさんが何も言わず平気で部屋に入ってきた。

年の頃は40歳ぐらいだろう…。

髪の毛には少し白髪があり、見た感じは、生真面目なサラリーマンといった感じだ。


しかし、おじさんの登場に驚いたのは私だけ。


そのおじさんは茂貴のお兄さんだったから。


茂貴に外に行くよう言われ、私は家を出た。


茂貴の家は平屋の小さい家。

玄関を入って直ぐ左が茂貴の部屋。

右には小さいキッチン。

キッチンを通って、奥に部屋が2つあるらしい…。


茂貴の部屋以外の家の中は聞いただけで知らない。


部屋から出たものの、どうしたらいいか分からず、外に出た。

私は寒空の中、お兄さんが帰るのを待った。


少しでも寒さを感じない様に、身を丸め座っていた。


15分程し、お兄さんは家から出てきた。

私には目もくれず、前を通り過ぎ歩いて行った。


茂貴に呼ばれ、部屋に入ると、明らかに、お兄さんが来る前の茂貴とは別人になっていた。

表情は強張っていて、私の存在を忘れたかの様に、黙々と煙草を吸っている。


私はお兄さんと茂貴が一体何を話していたのかは知らない。


だから普通に話し掛ければいいのに、私は、その茂貴の放つ空気の重たさで、声を掛けることも出来ない。


茂貴の側に静かに座った。


『…俺って…駄目な奴だよ…』


茂貴は頭を抱え呟いた。


『…何が?』

その言葉しか出てこなかった。


『…別れよう』


…?

…何?

…どうして?

…私に言ってるの?


『……』

言葉を失ったというのはこういう事だ。

状況が全く把握出来ない。

何故急に……。



『…俺ら別れよう』

煙草を灰皿に押し付けるように消し、私を見る事なく、もう一度言った。


『…どうして?何で急にそんな事言うの?』


こんな別れってないよ…。

訳ぐらい教えてよ。

…私は必死な思いで問い掛けた。



『…俺は梓を幸せに出来ない。…俺じゃ駄目なんだ』


茂貴と目が合った。

茂貴の目にはうっすら涙が浮かんでいる。


『どうして?意味分かんないよ…』


茂貴は私から目を反らし、また煙草を吸い出した。

その姿は、何もかも吹っ切った様な…

もう私を消し去ろうとしている様に見える。



…お願い私を一人にしないで。

…捨てないで…


…茂貴は私のじゃなくなる。

…茂貴が私から離れて行っちゃう。


泣いたら茂貴を困らせるだけ…。

嫌われちゃう…。


だけど茂貴の横顔を見ると、涙が止まらない。


これ以上嫌われたくないから、涙を見せない様、茂貴に背を向けた。

その時、後ろに感じたのは、茂貴の温もりだった。


後ろから私を抱きしめていた。


この温もりが最後の別れだと…

最後の優しさだと…


言葉の代わりに、茂貴の温もりがそう言っている感じがした。


寂しさ。

悲しみ。

悔しさ。

無念さ。


全てが私を襲う。

声が出そうなくらい涙が出る。


『…梓…。俺のこと好き?』


さっきまでとは違い、茂貴の声は落ち着いていた。

『好き…だよ…。』

話す事も出来ないほど涙は出る。

でも、必死で答えた。


ここでちゃんと自分の気持ちを言わないと駄目だと思ったから。


『俺も、梓の事好き』


耳元で囁いた茂貴の言葉に戸惑いを隠せなかった。


『ならどうして!?どうして別れるの?』


茂貴の腕を離し、振り返った。


向き合った状況も一瞬。

今度は前から抱き締められた。


『好きだから別れるんだよ…。梓が大切だから』




『そんなの分かんないよ!』


茂貴を押し退けた。


お互い好きなのに別れなきゃいけない理由なんてあるの?


そんなの納得出来ない!

好きだから…大切だから別れる…。


それが私の幸せ?

好きな相手と別れる事が幸せな訳がない。

幸せを感じられない。


私は、気持ちをありのまま茂貴に打つけた。



これほど、自分の感情を露わにした事は初めてだった。


…友達にも

…茂貴にも


嫌われたくないから…。

常に

「良い人」

でいたかった。



でも…今は良い人でいられない。


茂貴を離したくないから。

今ある気持ちを伝えないと、きっと茂貴とは終わってしまう。


その危機感が私を露わにさせた。


―私の必死の思いが届いたのか、茂貴が訳を話し出した。

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