第35話: 理想の女
日曜日というのに私は昼間から家で一人。
昨日はいつものように、茂貴と一緒だった。
…日曜日は茂貴も仕事は休みで、土曜日の夜はゆっくり過ごせ、朝も一緒に目覚め、一日中一緒にいられる。
だから私は土曜日の夜からをいつも楽しみにしてる。
しかし、昨日は違った。
茂貴は仕事が終わりいつものように私を迎えに来た。
いつものように、茂貴の部屋でゆっくり過ごした。
私達は布団に寝転がり、部屋の明かりは付けずテレビの明かりだけで過ごした。
まだ時間は早いが、私は少し眠くなってきたので、仰向けになり目を閉じた。
その時、茂貴は私に覆い被さった。
今から何が始まるのかは分かる。
私達は大抵寝る前に体を重ねる…。
…まだ時間早くない…?
…そう思いながらも私は茂貴を受け入れる体勢をとった。
唇と唇が軽く触れ、舌と舌が絡まる。
そのまま私は服を脱がされ、茂貴の唇が私の首筋へ…胸へ…。……。
また茂貴は私の唇に戻り、唇を離すことなく、今度は私が茂貴を覆い被さった。
私は茂貴を愛撫し、また茂貴が私を愛撫し…。
茂貴はその行為の良さを私に教えてくれた人。
茂貴と会うまでの私は、SEXをあまり好まなかった。
…ただその場雰囲気や、付き合い程度でしていた。
茂貴を知ってから、私は毎日茂貴を欲しがっている。
私達は頂点に達し、ぐったりと横になった。
目を閉じ余韻に浸っていると、茂貴が布団から出た気配を感じ目を開けた。
茂貴は服を着初めていた。
いつもなら一緒に寝ているのに……。
その思いを抑え、私も起き上がり服を着た。
終えた後、男が服を着初めているのに、何時までも一人裸で浸っているのは虚しいから。
そう思ったのも、茂貴が何時もと違うことを感じていたから……。
二人共服を着て、煙草を吸い終えたとき……
『今日は送っていくよ…』
やはりきた。
その言葉。
…今日は茂貴と一緒に朝を迎えられない…
そう心のどこかで感じてた。
『……うん』
私の心の中はこんなに素直じゃない。
…帰りたくない。
…茂貴と居たい。
…どうして今日は帰すの?
…私の事嫌いになったの?
そう縋り付きたい気持ちを押さえた。
私が縋ったところで、ただ茂貴を困らせるだけ…。
ううん…。縋り付く女は醜い。
私はそう思う。
…醜い私を見られたくないから。
…嫌われたくないから。
でも、頷くだけで精一杯。
明るくいつも通りなんて出来ないよ。
帰りの車内で沈黙が続く。
私が感じている空気の重たさは、茂貴も同様に感じているだろう。
『…ごめんな』
茂貴が沈黙を破った。
『何が?』
一緒に居れないことを謝っているんだろう。
しかし、私は何も感じていない振りをした。
…それが大人だと思うから。
…それが理解ある格好いい女だと思うから。
『明日、子供と会うんだ…』
子供?
前の奥さんが引き取った子供?
『…うん』
私は暴れ出しそうな感情を押し殺した。
『月に一回、会わせてくれる約束なんだ』
『前の奥さんは?』
聞いてしまった…。
素直に頷けなかった。
慎悟のときを思い出したから…。
あの時真実は慎悟は前の彼女に戻ったりはしていなかった。
でもそれは後になって分かったこと…。
あの時の様な寂しい思いはもうしたくないから…。
後悔したくないから…。
『前の嫁も一緒…。でも!俺は子供に会いに行くだけ!前の嫁とはもう何もないし、何も思わない。信じてほしい。…今は梓が一番だから…』
『…うん』
素直に嬉しい。
これでちゃんと茂貴を送り出せる。
『明日の夜会おうな。迎えに行くから』
『…まだわかんない』
『そっか。でも帰ったら連絡するから』
茂貴が私を気遣って言ってくれたんだろう。
ありがとう茂貴。
でも私、少し反抗したかったんだ。
少し茂貴に心配かけたかった。
だから、こんな返事をしちゃったの。
ごめんね茂貴。
愛してるよ茂貴。
だから今日は日曜日なのに、一人茂貴の帰りを待っている。
寂しくなんてない。
不安なんて感じない。
茂貴がちゃんと戻ってくるって確信してるから。
何時茂貴が迎えにきてもいい様に既に準備は出来ている。
PM.4:00
携帯が鳴った。
茂貴だ。
「はい…」
待っていた茂貴からの電話。
嬉しくてたまらない電話。
でも私は冷静を装った。
茂貴は直ぐ迎えに来てくれた。
昨日も会ったはずなのに、茂貴と会えた喜びは半端ではなかった。
その感情を押さえているつもりでも、言葉が止まらなく出る。
茂貴と話したい。
茂貴を近くで感じたい。
『帰り早かったね』
『そうか?もっと早く帰るつもりだったんだけど…』
『そうなんだ』
その話を引っ張るのは止めた。
聞きたくないから。
前の奥さんの事も…
子供と何をしていたとか…
聞きたくないから。
『今日はもう会ってくれないかと思ったよ』
『どうして?』
『…昨日そんな感じだったから』
それは茂貴に意地悪したかっただけ…。本当は会いたくて、会いたくて、ずっと待ってた。
『そうかなぁ』
『そうだよ!もう梓怒って、遊びにでも行ったんじゃねぇかと心配したんだからなっ!』
眉間に皺を寄せ、ムキになっている。
…心配してくれてたんだ。
ありがとう茂貴。
『遊びに行こうと思ったけど、寝過ぎちゃって、行けなかったよ』
嘘。
ずっと待ってた。
茂貴に会いたくて、遊びになんて行けないよ。
本当の事は言わない。
「茂貴の帰りをずっと待ってた」
なんて、言えない。
だって、重いじゃん。
茂貴に重い女なんて思われたくないから。
茂貴には心の広い、理解のある女でいたいから。
茂貴が好きだから。
嫌われたくないから。
ずっと好きでいてほしいから。
その為だったら、気持ちを押し殺す事なんて、どうって事ない。
茂貴に愛される女でありたい。
それが偽りの私だとしても…。
辛いなんて思わない。
茂貴が結婚してたことも過去の事。
子供がいても仕方がない事。
全てを受け入れよう…。