表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/53

第34話: 茂貴の思い



週に一回…。行っても二回…の学校。


月に二回の紗童の集会。


それ以外の日は茂貴。

…それ以外の時間は茂貴と過ごす様になった。


―夏は終わりを迎え様としている。


私は毎日の日々に追われていた。


たまに行く学校。

たまにしか会わなくなった真弓と恵里。

たまにだから二人との時間を少しでも持ちたい。

…学校が終わり茂貴と会うまでの数時間、真弓と恵里と過ごした。

どこに行く訳でもない。

学校帰り近くの喫茶店に入りお喋りするだけ。


…それだけでいい。

私の存在を感じられるから。


真弓と恵里の中に私の存在を感じられる時間だから…。


紗童の集会が終われば、茂貴が迎えに来る。


集会後、広香さんと茂貴さんとご飯を食べに行くことがあるくらい。


紗童に入り、菜奈ちゃんと仲良くなったが、プライベートでは遊んだことがない。

菜奈ちゃんのためにあける時間の余裕は今の私にはない。



今の私には、これだけの関係しかない。

凄く小さな世界で生きている。


でも今の環境に不満はない。


たまにしか会わなくても、私を受け入れてくれる友達がいる…。


たまに真弓は

「もっと学校来なよ」

とか

「たまにはゆっくり私達とも遊ぼうよ」

とか言うけど、それは聞き流している。

その点恵里は私に対して何も言わない。

その場その場の私を受け入れてくれる。


広香さんと達也さんは私を可愛がってくれる。


茂貴は私を愛してくれている。


小さな世界だが、私のいる世界は大きな壁に守られ、世間の若者の間では、地位と名誉を与えてくれる場所。


…満足だ。


今の私には、これだけの関係しかない。

凄く小さな世界で生きている。


でも今の環境に不満はない。


たまにしか会わなくても、私を受け入れてくれる友達がいる…。


たまに真弓は

「もっと学校来なよ」

とか

「たまにはゆっくり私達とも遊ぼうよ」

とか言うけど、それは聞き流している。

その点恵里は私に対して何も言わない。

その場その場の私を受け入れてくれる。


広香さんと達也さんは私を可愛がってくれる。


茂貴は私を愛してくれている。


小さな世界だが、私のいる世界は広香さんや達也さんや茂貴によって、大きな壁で守られ、世間の若者の間では、地位と名誉を与えてくれる場所。


…満足だ。



―今日は茂貴が学校まで迎えに来てくれる日。

真弓と恵里とは学校を出たところで別れた。


いつもの様に茂貴の家に向かった。


私達はまだ付き合って1ヶ月とない。

毎日一緒に居るせいか、まだ付き合って1ヶ月と経っていないことにびっくりするくらい。



陽も暮れ、のんびり過ごしていると、達也さんが来た。


達也さんとはよく会っているが、茂貴の家で会うことは初めて。

しかも今日は一人だ。




『珍しいじゃん一人で…』

達也さんを見るなり茂貴が言った。


『今日は翔子と出かけるんだってよ』


…ちゃんと広香さんは自分の時間を持ってるんだ。


広香さんを羨ましいと感じた。


…私だって、真弓や恵里がいる。

ゆっくり遊ぶ時はないが、会うことはしてる。


そう自分で自分に言い聞かせた。



『それにしても良かったなぁ茂貴』

達也さんは煙草に火を付け部屋の真ん中に座った。


『何が?』


『梓ちゃんと付き合えてだよっ』


『あぁ…』


茂貴は素っ気ない。


『ってか、お前まだこんなの持ってんの?』

部屋の片隅に置いてある箱を指指した。


私もこの箱に違和感を感じていた。


茂貴の部屋は角にテレビが置いてあり、無造作に布団が敷いてあり、後は灰皿がある程度の何もないシンプルな部屋。


その片隅にピンクのプラスチックの箱が置いてある。

蓋が閉まっていて中は見えない。


最初は違和感を感じたが、今は気にならなくなっていた。



『ほっとけよっ』

達也さんの問いにも茂貴は素っ気ない。


『いつまでもこんなの置いてたら梓ちゃんも嫌だよなぁ?』

達也さんは私に目を向けた。


『えっ?』

急に話しを振られ言葉が見当たらない。

しかも、気にも止めなかった箱の話題。


『お前も早くケジメつけろよっ』


茂貴は達也さんを無視しテレビを見ている。


何故、達也さんはここまで箱の話しをするんだろう。


この箱が凄く気になってきた。

一体何が入ってるんだろう…。


茂貴の様子もいつもと違う。

今ここで聞かなきゃ聞けない……。

達也さんのいるこの場で聞かなきゃ。


そう直感した。


『この箱何なの?』

『…お前』

達也さんは茂貴を見た。


『俺バツイチなんだ…』

やっと口を開いた茂貴の言葉。


『…え?』


『俺結婚してたんだ。子供もいる』


私に背中を向けたまま座っている茂貴。


今茂貴はどんな顔をしてるの?


私はどうしたらいいの?

沈黙が続いた。

誰も話そうとしない。

その時達也さんの携帯が鳴った。


『おう。…分かった』


電話を切ると達也さんは立ち上がった。


『広香帰ってきたから、俺…帰るわ』


茂貴はまだ何も言わない。


帰らないで…。

今茂貴と二人きりにしないで…。


そんな思いを視線に込めて達也さんを見た。


私の思いも虚しく達也さんは部屋を出た。

『ちゃんと梓ちゃんに話せよ』

『今は梓ちゃんだけだから…』


そう私達に声を掛け出て行ってしまった。



『…あいつはよく喋るよなっ!本当』


茂貴が私に向き直った。


私は茂貴の目を見れない。


『…ごめんな。騙してた訳じゃないんだ』


『…もういいよ』


言い訳なんて聞きたくない。


『これが最後になってもいい。お願いだから聞いて…』


茂貴は私に頭を下げた。

私が返事をする前に茂貴は話し出した。


『半年前に別れたんだ。男作って出ていったよ。…子供は嫁が引き取った。これは子供が残して行ったおもちゃ箱…。ずっと忘れられなくて…引きずってた…』


茂貴の目を見れない。

涙が溢れてくる…。

この涙は、怒りからなのか、悲しさからなのか自分でも分からない。


今この場で涙を流したくはない。

私の気持ちとは裏腹に涙はどんどん溢れてくる。


『言うつもりだった。ちゃんと梓に言うつもりだったけど、言えなかった。…梓に嫌われたくなくて。…ごめん。俺…自分が思ってた以上に梓に惹かれていって、…今は誰よりも梓を愛してる。』


茂貴が私を愛してくれていることは嘘ではなかったんだ…。



『もういいよ…茂貴』


涙で震える声を絞り出した。


『やっぱ俺ら終わり?』


私は首を横に振った。


『じゃあ…』


今度は縦に振った。

…私は茂貴を許そうと決めた。


『…ありがとう』

茂貴は私を抱き締めた。

茂貴の暖かさを感じ、涙が止まらない。

茂貴の震える肩。

泣いているのだろうか。


今茂貴は私を思っていてくれている。

それでいい…。

それでいいんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ