第30話: 新しい道
『今日は達也のおごりだからじゃんじゃん食べて』
『おう!ならお言葉に甘えて!』
広香さんのノリに茂貴さんも乗った。
『お前らなぁ…』
達也さんは困っている。私は三人のやり取りがおかしくて笑った。
楽しい。
年が違う人達とこんなに楽しくいられるなんて初めて。
ご飯を食べているときも会話は続いた。私はおかしくって笑ってばかりいた。
一緒にいればいる程広香さんという人に魅了されていく。
高哉の危険を察知し、必死で飛んできた広香さん。
レディースで頭を務める広香さん。
達也さんといる広香さん。
強くも逞しくもあり、優しくもあり、女としての可愛らしい面もあり、素敵な女性。
菜奈ちゃんが広香さんに憧れると言った意味を1日で分かった。
『広香ももう紗童引退なんだよなぁ』
言い出したのは茂貴さんだ。
『そうだよ!私もそんな年になっちゃったよ』
広香さんは明るく言い払った。
『寂しいんじゃねぇの?』
茂貴さんが茶化す様にまた突っ込んだ。
『寂しかねぇよ!』
笑いながら言い返した。そして一息ついて言った。
『…これが紗童の決まり。…悔いはないよ』
真剣な表情。
でも寂しさはない。満足した表情。
…悔いはない…か。
私もそんな生き方がしたい。
自分の歩いてきた道を満足だと言える生き方がしたい。
『ところで梓。うちに入らない?』
『えっ?』
『紗童に入らないかって聞いてんの!』
『……』
返事が出来ない。
確かに広香さんには憧れる。けど..レディースとなると…。しかも紗童で入るの難しいんじゃ…?どうして私?
『無理に入れとは言わないよ!梓が決める事だし』
私は戸惑い、助け舟を求め達也さんと茂貴さんの顔を伺った。
二人とも何も言わない。それどころか二人で違う話しを始めた。私は諦め広香さんに目を戻した。
『…噂で聞いたんですけど…。紗童は入るの難しいって。…何故私なんですか』
『え〜っ!誰が言ってんのそんな事!』広香さんは驚いていた。
『噂で…。違うんですか』
『…違うとは言い切れないかも。チームに入れるにはそれなりに人を選ぶよ!』
『私…喧嘩とかは…』
『はははは。』
広香さんは腹を抱えて笑い出した。
『そんな事考えてたの?喧嘩なんかは自分次第。するかしないかは自分で決める事』
『それでいいんですか?』
『当たり前じゃん!それはレディースだからじゃなく、今の梓でも有り得ることだと思うよ!友達や彼氏と楽しくしてる時は喧嘩なんてしようと思わないでしょ?でも大切な友達がイジメられてたり、彼氏にちょっかい出す奴がいたら、ムカつくし、文句言ってやりたいって思うでしょ?レディースでもそう言う感覚だよ!』
『そうですよね』
『そう!私は逆に訳もなく喧嘩したり弱い奴をイジメてる奴を軽蔑するよ』
やっぱり広香さんはしっかりしてる人だ。
私が今まで描いていたレディースのイメージを一気に覆された。
『梓はずっと高哉の側にいてくれてたんでしょ?高哉の事を思っててくれたんだよね…。』
広香さんの言葉に胸が痛くなった。
確かに初めは高哉を一人にさせたくないと思った。そう思い合っていた。
でも今はどうだろう。
私達は薬物に溺れてそんな事忘れてしまっている。
それにシャブに手を出した高哉を遠退け自分を守ろうとした。
『…でも』
『人は強くない!』
広香さんは私の言葉を遮った。
『梓はあんな高哉だけど側にいてあげてくれた。姉の私もしてやれなかったのに…』
『それはっ』
『どんな理由だろうと』
それは高哉がシンナーを持っていたから…。
広香さんはお見通しの様に言った。
『それがどんな理由だろうと梓も高哉もお互いを居場所にしてたはず。私は高哉の居場所を作ってくれた梓に感謝してるよ』
『でも高哉はあんな事になって…』
『あれは高哉が自らした事だろ?梓のせいじゃない。自分を攻めるんじゃないよ!ワイワイ仲良くするシンナーとは訳が違うだ。梓は手を出さなくて正確だったよ。勿論シンナーだってよくない!紗童は一切薬物禁止!あんな物に逃げたって自分を滅ぼすだけ…』
話しているときの広香さんの表情は強張っている。
広香さんは煙草をくわえ一息ついた。
『だから、私はそんな梓が気に入った訳。めちゃめちゃ自分の事情持ちだしてるけど、一瞬でも弟の居場所を作ってくれた梓が気に入ったから。チームに入ってほしいと思う。それに梓も高哉がああなって居場所を無くしたと思う。私の思い込みだったらごめんな』
私は首を横に降った。
確かに私は唯一の居場所がなくなったから。
『高哉の代わりと言ったらなんだけど、チームに入ることで梓の居場所になればいいと思う。でも無理にとは言わないよ。梓が決める事』
『…よろしくお願いします』
『それって紗童に入っていいって事?』
『…はい』
『梓が正式に紗童のメンバーになったから!』
向にいる達也さんと茂貴さんに言った。
『そっかぁ。梓ちゃんも等々紗童のメンバーになったかぁ』
『等々って今日初めて会ったばっかじゃん』
達也さんのノリに茂貴さんが突っ込んだ。
そのお陰で、場の雰囲気は和んだ。
『じゃあ早速、翔子と佳奈に報告するよ。みんなには来週の金曜日の集会で報告するから』
『はい』
―私は紗童に入ることを決めた。
広香さんはその場で、副総の翔子さんと特攻の佳奈さんに電話で報告をし、私の紗童入りは決定した。