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第29話: 暴走


街は祭りで大賑わい。

対向する歩く人が肩が触れずには歩けないほど、人が溢れている。

車も通行止めになって、交差点ごとに警察官が立っている。

・・さっきまでの怖さを忘れてしまうくらいの熱気。

…来て良かった。

そう思う反面、今日この楽しい祭りの日。その裏では、高哉はシャブに溺れている。

・・・暗い闇だ。


広香さんは、祭りの中心からすこし離れた公園にバイクを停めた。

外れた公園でも人は沢山いる。

公園は、若者でいっぱいだ。

特攻服を来た人。

髪の毛は金髪。

パッとみただけで、ヤンキーの溜まり場と思った。

私達が着いた頃には陽も落ち始めて、薄暗くなってきている。

今からの時間は街中のヤンキーが集まる時間。


もちろん見て分かる様に、広香さんもレディース(暴走族)だ。


広香さんはバイクを降りると、公園の中心に向かい歩いて行った。


『広香さん!おはようございます』


広香さんの姿を見た他のレディースの人達が深々と頭を下げて挨拶をしてる。


軽く挨拶を返し、広香さんは公園の真ん中へと歩いている。

私も後に続いた。

公園にいる人達(暴走族)の視線を感じる。

・・誰あいつ・・みたいな、暖かい視線ではなく..かと言って、冷たい視線でもない。

不思議がっている視線だ。

すれ違う人達が広香さんに挨拶をする一方で、その後必ず私をじっと見る。


広香さんが向かった先には、黒の集まりがいた。パッと見ただけでも30人はいる。


『おはようございます!』

広香さんが行くと、みんな一世に挨拶をした。


…これが広香さんのいるチーム?

でもみんな黒の特攻服だし…。広香さんは紫だし…。?


『広香遅いじゃん』

声のする方を見ると、黒集団の奥に広香さんと同じ紫の特攻服を来た人がいた。


『ごめんごめん。弟のとこ寄っててさぁ』


広香さんは黒集団の間を通り前へと進んだ。


私はここに来たことに後悔した。

ここにいても私の居場所はない…。

黒の特攻服を来た人が30人以上…。その中で、広香さんと、広香さんに声をかけた人と、もう一人は紫の特攻服…。

紫の三人はチームのトップだと分かった。

そんな広香さんがずっと私に構っててくれる訳がない…。

勿論知っている子もいないし、帰りたいよ・・・。


『梓!こっちこっち』


どうしたらいいのか分からず突っ立っている私に広香さんは呼んでくれた。


『誰?』

私が広香さんの元に行くなり、紫の特攻服を着た人が広香さんに聞いた。でもその人の目は私を凝視している。

・・怖い・・


『梓っていうの!弟のツレ。ちょっとした縁で今日連れてきたんだ』


広香さんに紹介され、私はペコっと頭を下げた。


『こっちが副総の翔子で、こっちが特攻の佳奈。で、私が総長の広香』


広香さん総長だったんだ………。


私に二人を紹介し終わると、後を振り返り、黒服の方に向いた。


『みんなー。こいつは梓っつうんだけど、私の知り合いで今日連れてきた!仲良くしてやって』


『はいっ!』


広香さんが私の紹介を終えると、副総の翔子さんが立ち上がり黒服達の前に出た。


『じゃあこれで揃ったから、22時まで自由にしなっ!チームの掟忘れんなよ!』

『はいっ!』


翔子さんのかけ声でみんな散らばりだした。

私は広香さんの隣にいるが、このまま広香さんと一緒にいていいのか分からず戸惑った。


『菜奈!』

広香さんが黒服の一人を呼び止めた。

『はい』

『梓と遊んでやって!お前と同い年だし』

『はい』


広香さんは私に気を使って、私と一緒にいてくれる子を紹介してくれた。


『じゃあ行こっか!』

菜奈ちゃんは明るく私を誘ってくれた。

『うん』


菜奈ちゃんはどちらかというと、広香さんの様な美人な感じではなく、可愛らしい感じの子だ。

広香さんと同じ、濃い口紅。キツいアイシャドウをしていても、どこか柔らかな感じの子。


…菜奈ちゃんで良かった。

『どこ行こっかぁ?梓ちゃんは祭り来たらいつも何する?』

『ん〜。かき氷食べて…』

『じゃあ、かき氷食べに行こ!』


私が話し終わる前に菜奈ちゃんは決めてしまった。でも全然嫌じゃない。


『うん』


私達はかき氷の屋台を見つけに歩いた。

さすがに特攻服で歩く菜奈ちゃんに周りの人達は避けるように歩いている。

こっちを見ようともしない。

菜奈ちゃんと一緒に歩く私にも同じ。

こんなに人が混雑しているのに、誰とも体が触れることなく歩ける。

目が合ってもすぐそらす。

私はこの空気が心地よかった。

…強くなったような…。


『あったよ!かき氷』


菜奈ちゃんは早速屋台を見つけた。


私達はかき氷を買い、道の脇に座り、歩く人を眺めながら食べた。


『ねぇねぇ。梓ちゃんは広香さんとどういう繋がりなの?』

突然私に聞いてきた。


『広香さんの弟と友達で…』


『高哉君の友達なんだ!』

『高哉のこと知ってるの?』

『見た事はないけど、名前は聞いた事あるよ。こういう世界にいると、大抵やんちゃしてる子の名前は耳に入るんだ!しかも広香さんの弟だし』


『そっかっ。菜奈ちゃんはレディース入ってどれくらいなの?』


『ちょうど一年かなぁ。広香さんに憧れてね!でもまさかこのチームに入れると思わなかった』


『難しいの?レディースに入るのって…』


『他のチームは結構簡単に入れるみたいだけど…。

紗童(シャドウ)

って聞いた事ない?』


知ってる!

もう何年て代々続いている県で最大で最強のレディース。


『聞いたことある』


『それがうちのチームなんだよね!広香さんで11代目なの。うちのチームは、ハンパ者は入れないんだ。最初に総長と副総の面接があって、またこれが厳しいの』


『へぇ。他のレディースは面接とかがないの?しかもハンパ者て?』


『ハンパ者っていうのは…』

菜奈ちゃんは困った様子だ。

『ハンパ者っていうのは!男にもツレにも喧嘩にも中途半端な奴だよ!男には一途で…。ツレは裏切らない…。って事。後、さっき副総が言ってた掟っていうのは、喧嘩ね。目が合ったら絶対そらすな!売られた喧嘩は買え!相手が誰だろうが逃げるな!って!』


『…へぇ』

正直怖い。


『レディースもさぁ。名目はケツ持ちのヤクザって感じで付いてるけど、実際はヤクザのシノギに作られたチームがここらは多くて...だから毎月会費がいったりするんだよ。だから誰彼構わずチームに入れたりする事がよくあるみたい。でもうちは一切そういうのはなし!』


『じゃあ紗童はケツ持ちは付いてないの?』


…ケツ持ち…

その名の通り、何かあった時はヤクザが尻拭いをしてくれる。

ケツ持ちのヤクザがいないってことは、潰される可能性高いんじゃないの?

断然ケツ持ちが付いてるチームのほうが強いじゃん!

なのに、県最強と言われてるのは何で?


私は何故か紗童が心配になった。


『ちゃんと紗童にもケツ持ち付いてるよ!』


でも、会費は入らないんでしょ?

良く意味がわからない。


私が不思議な顔をしていると、菜奈ちゃんは説明しだした。


『私が聞いた話しだと…。紗童初代のときはケツ持ちも何もなくチーム作って、四代目のときにケツ持ち付いたみたい。詳しくは知らないけど…。私が知ってる間では紗童がケツ持ち出した事はないなぁ。どんな事も総長の広香さんと、副総の翔子さんと、特攻の佳奈さんが片付けちゃうから…。あの三人は無敵だね!』



『凄いんだね』

『凄いよ!でも今年で広香さん達引退なんだよね。寂しいけど…。』

『引退?』

『紗童は18歳の3月で引退なんだ。高校生と一緒だね!これも代々変わることのない決まりなんだ』


笑って話してるけど…寂しい顔。

それだけ広香さん達は慕われてる証拠なんだ。


 私と菜奈ちゃんはかき氷を食べ終えても、どこに行くこともなく、話した。

紗童の事。

広香さんの事。


色々私に聞かせてくれた。


『そろそろ公園戻ろうか!』

『うん。今からは何するの?』

『今からはぁ…みんなで走るの』

菜奈ちゃんはワクワクしたように言った。


『私…帰ったほうがいいのかなぁ』

『なんで?あっ!でも一緒に走るのは無理か…。さすがに広香さんの知り合いでも、紗童のメンバーじゃないからなぁ。』

『……』

『公園戻ったら広香さんに聞いてあげる!…それと今日チームの事色々話したの広香さんには内緒ね。チーム以外の子に話したのバレると怒られちゃうから…。』

『うん!内緒ね!』

『いっそ梓ちゃんも紗童に入っちゃえばいいのに…』


レディースかぁ。

ちょっと抵抗あるけど、憧れちゃうなぁ。


私はその思いを口には出さなかった。


―再び公園に戻った―

今はもう辺りは真っ暗。

公園は熱気で溢れている。爆音のマフラーを吹かすバイク。

さっきより人数が増えている。


私服の私が浮いてる感じ…。

場違いな感じ…。



集団の前にいる広香さんの元に菜奈ちゃんが歩いていった。

『広香さん!梓ちゃんはどうするんですか?一緒には走れないですよねぇ…』


『梓―』


菜奈ちゃんに返事をせず、広香さんは私を呼んだ。


『梓は今からあの車に乗りな』

『えっ?』


広香さんは公園の外にある車を指差した。

『梓をバイクに乗せる訳にいかないから、私の男の車なんだけど、乗ってて!集会終わったら飯でもおごるよ』


『…はい』


私は広香さんに言われるまま車に向かうことにした。


『行くよっ!』

広香さんのかけ声に乗って十数台のバイクは爆音を響かせ公園を出て行った。


『…すいません』

恐る恐る車の窓をノックした。

フルスモークで中は見えない…。


『どうぞっ』

運転席の窓ガラスが開いた。


『…お邪魔します』

私は後部座席に乗った。


『こんばんは』

『…こんばんは』


助手席にも男の人が座っている。

二人とも見たからにヤンキーだ。どっちが広香さんの彼氏なんだろう…と思っていると、


俺達也(たつや)

運転席の人が言った。


『俺は茂貴(しげき)

助手席の人が言った。


『…梓です』


『梓ちゃん幾つ?』

運転席の人が言った。

『16歳です』


『若いねぇ。高一?』

『高二です。誕生日まだなんで…』

『梓ちゃん可愛いいねぇ。彼氏いるの?』

『いないです』

『じゃあ俺なんかどう?』

『ってお前広香に殺されるぞ!』

助手席の人が突っ込んだ。…って事は運転席の達也さんが広香さんの彼氏だ。


二人とも見た目は凄く怖そうで無口っぽい。その印象とは裏腹に二人とも凄くお喋り。ギャグを言ったり、色々な話しをして私を笑わせてくれる。

広香さんが帰ってくるまで、会話は途切れることはなかった。

・・達也さんと茂貴さんは、19歳になったばかりで、暴走族上がり。

達也さんと広香さんは達也さんが暴走族現役のときに知り合ったとか…。広香さんの一目惚れから始まったとか…。

「今じゃあ広香の尻にひかれっぱなし」

など…。聞かせてくれた。

2時間ほどして、また爆音が響きだした。


『戻ってきたか』

達也さんが言った直後、公園に次々とバイクが入り、物凄い爆音が響いている。

…耳が痛くなるほどの爆音が一世に静かになった。

公園に目をやると、みんなバイクを降り広香さんを前に並んでいた。


『あの広香が今じゃあ紗童の頭だもんなぁ…』

茂貴さんが呟いた。『あぁ。時が経つのは早いよなぁ…』

達也さんが言うと二人は笑い出した。


二人にしか分からない思いがきっとあるんだろう……。


公園から次々とバイクが出ていく。

すると達也さんの携帯が鳴った。


『はい。おう、分かった』

そう言うと電話を切り車を走らせた。


『広香は一旦バイクを置いてから来るから先に飯行ってよ』


私達はファミレスに入った。

席に着いたところで広香さんが来た。


『ごめ〜ん』


広香さんと私。向に達也さんと茂貴さん。

広香さんは特攻服姿で周りの目をひいていた。

普段なら有り得ないだろうけど、今日は祭りとあって、特攻服姿もそう珍しくない。

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