第27話: 汚染
高哉と私は支え合うといった関係ではなくなった。
今ではそんな事、ただの奇麗事だったかのようにも思う。
・・チャラチャラ
携帯が鳴った。
『はい』
『梓!いい物手に入ったから、今からおいでよ』
『ちょうど今から行こうとしてたとこ』
『じゃあ待ってるからなっ!早く来いよ!』
…何だろ?
高哉が来いだなんて催促の電話初めて。
いい物って言ってたし…?
まっ!行けば分かるかっ!
『梓!やっと来たか!待ちくたびれたよ!』
『いったいどうしたの?』
『これだよ!これ!』
高哉が手を差し伸べて持っているものを私に見せた。
高哉が持っていたものは、
「パイプ」
だった。
テレビの中で昔の人が煙草を吸うときのパイプみたい。
『これ何?』
『これで吸うんだよ』
『何を?』
『葉っぱだよ!』
『葉っぱ?』
『マリファナ!』
『えっ!?』
マリファナ…
名前は聞いた事ある。
吸っちゃいけない事も知ってる。
『さっき先輩が持ってきてくれたんだ!やろうぜ!』
『うん!』
私には断る理由がなかった。
それに私には、好奇心があったから…。
『これ..どうやってするの?』
『確か...こうして...こうやって...』
一人ぶつぶつ言いながら、高哉は準備を始めた。
ジッパー付きの小さいビニール袋を取り出した。
中にはお茶の葉を細かくしたような物が入っていて、高哉はその葉をパイプに詰めた。
パイプの先に口を付け、葉の入ったところにライターで火を付け、一気に吸い込んだ。
『どんな感じなの?』
『……』
高哉は何も言わず、持っていたパイプを私に差し出した。
『煙草吸う感じと一緒でいいの?』
高哉は何も言わず、頷いた。
私はパイプに口を付けた。
『吸い込んだら少し肺で止めて』
私は頷いた。
…熱い!
吸った瞬間の感想。
・・ん?
私には葉っぱの良さが分からなかった。
この時の“良さ”とは、気分の高まっていく良さの事だ。
…私はシンナーの方が好きだなぁ…
それ以来、私が葉っぱに手を出すことはなかった。
一方で高哉は、葉っぱを気に入ったらしく、シンナーを吸ったり、葉っぱを吸ったり… 色々だった。
高哉曰く、その時の気分なんだって...。
私達は毎日...毎日シンナーを吸った。
家には一様毎日帰っているけど、親と顔を合わせない時間帯。親が寝た時間に。そして、まだ寝てる時間に家をでる。
でもちゃんと家に帰った証拠は残しておく。
…片付けられた台所のテーブルに飲みかけのコップを置いておいたり…。
親には会いたくない。
顔を見れば何かと文句を言う。
無視すればいいのだけれど、耳障りだ。
でも…やはり、シンナーの臭いをさせて親には会えないから…。
今の私の体は常にシンナーを欲しがっている。
私の脳は何よりもシンナーを優先している。
そんな私が唯一まともな考えが出来るのがここだ。
そう思っていても、シンナーを止めれない。止めようとも思わない。
―シンナー…。私達は一日と空けることはなかった。
高哉と語り合う事も今はない…。
きっとお互いを思いやる気持ちもなくなってしまったんだ…。
今は何よりも…誰よりも…シンナーに夢中だ。