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第25話: 困惑

高哉と共にシンナーを吸った日から私達は分かち合えたかのように今まで話さなかった事も語るようになった。

私達…というより高哉が…だ。


いつもと同じように今日も高哉の部屋でお互い好きな事をしていた。


『梓さぁ。シンナー吸ったのあの時が初めて?』

『そうだよ。高哉は?』

『俺は違う…。初めてしたときは中3だった』


…初めてじゃなかったんだ…

確かにそうだよね・・・

気が滅入って=シンナー

だなんて一回も経験ないのに、しないよね。


『梓には本当のこと伝えとこうと思って…』

真剣な高哉・・・

『きっかけはなんだったの?』

『前に言ったと思うけど、その頃俺あんま家に帰ってなくてさ』

『おばさんの事があったときだよね?』

 高哉は義母に小さい時に虐待を受けて中学になりその反動で家に帰らなくなった。


『そう。その時連んでたのが中学ん時の先輩でさぁ。その人が、もう中毒になるほどシンナー吸ってたんだ…。最初はヤバい!って思ったんだけど… その頃、家の事とかで逃げ道ほしくて…。一緒にやっちゃったんだ』

『そうなんだ…。』

昔の高哉の状況だったら逃げたくなる気持ちもわかる。


『…一回で止めようと思った…でも辛くなるとまた手出してた… そのうち止めらんなくなってて…』

『それからずっとしてたの?』

『…うん』

『私と会ってからもしてた時あったの!?』

私は少し声を荒立てた。

そんな私に、高哉は焦り気味に言った。


『違うよ!梓と出会ってからはしてない』


ホッとした・・・

私と出会ってからもしていたなら、私はきっと怒っていた。

その怒りは、高哉がシンナーに手を出し、悪いことをしていたからじゃない。


私の知らない高哉がいるのが嫌だった。

私は高哉の全てを知っていたい。

高哉の好きなものや嫌いなもの…

良い高哉も悪い高哉も…

全て受け入れたい。

高哉という人間を把握しておきたいって思う。

でも、この気持ちは愛情じゃない。

―友情―

私は高哉に友情を感じている。だからこそ、全てを私に見せてほしい。汚い事も隠さないでほしい。

愛情なら許せる嘘も友情なら許せない。


『本当に?』

高哉の言葉を信じてるけど、確認した。


『本当だよ。でも梓と出会う前まではしてた…』私が次の言葉を言う前に高哉は話しを続けた。


『梓と会ってから、俺…梓に支えられてた。いつも一緒にいてくれて、俺…寂しさなんて忘れてた。だからシンナーなんかに手出さなくなったのかも…』


高哉がそう思っていてくれた事が嬉しかった。でも納得できない。

…じゃあ何故あのとき…


『ありがと。でも本当の支えにはなってなかったんだよね?』


遠回しに聞いてみた。

本当の支えになってなかったから、あの時高哉は、またシンナーに手を出したんだよね? …って。


『それは違う。俺の気持ちが弱すぎたんだ…。梓はマジで俺の支えになってくれてる』

『…私も高哉が支え』


私は高哉の支えでありたい。ずっと…。

高哉を支えるために強くなりたい。

そして私は高哉に支えてもらいたい。ずっと…。


言葉には出さなかったが、私達は誓い合った。。。



梓 16歳

高哉 16歳

私達は若かった。

分からなかった。

自分の事を支えられないのに、他人を支える事なんてできるはずがない・・・。

私達は弱かった。

真剣に誓ったはずのものが簡単に壊れるなんて…。


でも、間違いなくその一時…一瞬。私達の気持ちは真剣だった。


―夏休みも後半に差し掛かった―



今日は珍しく1日家にいた。時間は18時になり、少し日も落ちてきた。

たまには家でのんびりするのも悪くない。…その時・・・携帯が鳴った。


着信?・・・誰だろう?


私の携帯はあまり着信がない。

高哉も真弓も恵里も…みんなほぼメールだから。

この夏休み私はほとんど高哉といる。真弓も恵里はほぼ彼氏といるらしい…

せっかくの夏休みだからしょうがない…。

でも二人とはメールは毎日ってぐらいしてる。

だから…急なようがない限り電話が鳴ることはまずない。



携帯を開けた。

知らない番号・・・

いつもは、知らない番号からの着信は出ないようにしてる。

勝手に私の番号を他人に教える奴がいるからだ。

同じ年頃の男は女に敏感らしく、少しでも可愛いって噂を聞けば、その女の子会ってみたいらしく…。正確にはヤリたい。んだけど…。そういうので、ちょっとした知り合い程度の子は私に許可なく勝手に番号を教えてるみたい。

だから、知らない男から携帯にかかってくることがあるから、知らない番号は出ない。


けど、この電話はしつこい程鳴ってる。

恐る恐る出た。


『もしもし…』

『もしもし!梓ちゃん?』

『そうだけど…』

やっぱり…。また男か…。


『雅史だけど、覚えてる?』

…ん?雅史?ってあの? 慎悟の友達の雅史君?


『…雅史君?…どうして…?』

私はこの状況を理解出来ていない。

何故雅史君が電話してきたのか…

何故今頃になって…

そんな私の思いを余所に雅史君は話し出した。


『久しぶりだね。梓ちゃん元気してた?』

相変わらず優しい声… 懐かしい。

『元気してたよ。雅史君は元気?』


なんだかあの時に戻ったみたい…。


『梓ちゃんもう高校二年だよね?学校楽しい?』

『うん。楽しいよ』


何故、電話してきたのか。

私は聞きたい事も忘れて、私はあの時に戻ったように…そして、懐かしく雅史君との話は盛り上がった。

楽しかったあの時…

何もかも初めてで新鮮だったあの時…

タイムスリップしたように鮮明に蘇った。


『雅史君は今何してるの?働いてるの?それとも進学?』

『俺が進学出来るわけないっしょ!働いてるよ!汗水流してね』

『そうなんだぁ。頑張ってるんだね』


雅史君は直ぐに言葉を出さなかった。

一瞬、本当に一瞬の沈黙があり、何故かその一瞬の沈黙がぎこちない感じがした。

そして、私を現代に戻した。


『…慎悟も一緒だよ…慎悟も一緒に働いてる』

雅史君の声が変わった…。


『…そうなんだ。慎悟も頑張ってるんだね!』


慎悟はもう過去。

そう言わんばかりに明るく言った。

本当は、一瞬詰まりそうな声を押し出した。

…慎悟…

言いたくても言えなかった名前・・

雅史君の口からやっと出た名前。待ってた。


あの時から私は一時も慎悟を忘れた事はない。

でも辛いから…。

慎悟の事を過去にしよう…って私の中の箱に無理やり詰め込んである。

蓋を開けると二度と箱に納められない気がして、怖いから。

本当は過去になんかなってない。

慎悟といた時をいつも近くに感じてた。


『あれから一年ぐらい経つよなぁ…』

『そうだね!』

…そう。慎悟と出会ったのは、ちょうど一年前の夏休み。


『俺が電話したのびっくりしたでしょ!?』

『びっくりしたよぅ。なんで分かったの?番号』


雅史君は一息吐いて本題に入った。


『慎悟の部屋で見つけたんだ』

『何を?』

雅史君が何を言いたいのか分からない。

『梓ちゃんの電話番号』

『どういうこと?』

『俺さぁ。ずっと誤解解きたくって。梓ちゃんに電話したかったけど、番号わかんなくてさ。でも、最近慎悟の部屋で見つけたんだ。梓ちゃんの番号が書いてある紙を…』

『紙?』

『多分、あいつが梓ちゃんの電話番号を初めて聞いたときに、メモった物だと思うよ。あいつまだ捨てらんなくて持ってんの!』

『そうなんだ…。』


正直嬉しい。

でも、もう止めて!

私の中の箱が苦しがってる・・・。


『慎悟は今日俺が梓ちゃんに電話した事は知らない。でも、どうしても梓ちゃんに知っててほしくて、電話したんだ…』

『……』

聞くのが怖い。


『あの時さぁ…。梓ちゃんを部屋に残して、慎悟が部屋を出たとき… 慎悟電話してたでしょ?』

『…うん』

『あれ…慎悟の元カノの瑠美からだったんだよ…』

『…知ってるよ』

『やっぱり…。知ってたんだ』

『その人電話の向こうで泣いてた…』

あの時の記憶は今でも鮮明に覚えてる。

思い出せば出す程あの時の虚しさも蘇る。今でも虚しさを感じる。

『…うん。瑠美はどうしても慎悟と寄りを戻したかったみたいなんだ…。都合いいよなっ。慎悟と付き合ってたときは、他に男作って別れたのに…。その男が駄目だったらまた慎悟…って』

『でも、慎悟もまだ好きだったんでしょ?』


私はあえて慎悟を自分から遠ざけた。


『確かに慎悟はずっと瑠美を引きずってた…梓ちゃんと会うまではね!梓ちゃんと付き合ってからは、慎悟は梓ちゃんだけだったよ』


私の中の箱が疼き出した。

ずっと閉じ込めてた慎悟を好きという気持ちが、出てきちゃうよ。


『なら…ならどうして、あの時慎悟は行っちゃったの?』


もう平常心を保てなくなった。

本当は慎悟に問い詰めたかった事…。


『あの時、電話で瑠美が言ったんだって。

「助けて」

って。泣いてて訳も言わなくて…。ただ事じゃないと思って瑠美の元に向かったんだ…。けど本当は何もなかった。…慎悟が瑠美を引きずってた事、瑠美も知ってたんだ。だから慎悟と寄りを戻す事は簡単って思ってたみたいだけど…、慎悟が梓ちゃんと付き合った事を知った瑠美が、慎悟を取り戻そうとついた嘘だったんだ。あの時あいつはマジで梓ちゃんだけだったから…』

私は雅史君の言葉を遮った。


『でも!まだその人を思う気持ちがあったから、慎悟は出て行ったんでしょ!』

『違うよ!それは違う!あの時間違いなく慎悟は梓ちゃんだけを思ってた!…慎悟を庇う訳じゃないけど…。人ってさぁ。どんな別れ方をしても真剣に好きになった奴を嫌いにはなれないし、困ってたら助けたいって思うんだよ。特に慎悟はさ…。でもそれはまだ好きだからとか愛してるからとは違うんだよ。…慎悟が愛してたのは梓ちゃんだけだったよ』


『そんなの分かんないよ!どんな理由があれ、私は慎悟にいてほしかった!何より私を選んで欲しかった』


私の箱から押し込めてた気持ちが暴れだした。

慎悟を過去に出来ていたら、雅史君の言葉を素直に聞けたのかもしれない。

でも、まだ慎悟を過去に出来ていない。

慎悟と一緒に過ごした時が今でも最近の事の様に思うんだよ。


…まだ慎悟を愛してる。


『ごめん。俺梓ちゃんの気持ちも考えないで…。でも最後に言わせて。あの時、瑠美の嘘が分かって慎悟は直ぐに戻ったんだよ。でも梓ちゃんはいなかった。慎悟後悔してた。…今でも後悔してる。今でも…』


雅史君はその先を言うのを止めた。

私が泣いているのが分かったんだろう。

これ以上、私の心を乱すのは止めようと…。

…ごめん…雅史君はそう言い残し電話を切った。


―あの時、部屋で慎悟の帰りを待てていれば…

―あの時、意地でも慎悟にすがりついていれば…

今は違ったの?

慎悟と一緒にいれたの?


・・もう遅いよ。

もう遅い。後には戻れないんだから。


なのに、会いたいよ。

慎悟に会いたいよ。

私の中の箱が蓋をあけてしまった。

今直ぐにでも慎悟のもとに飛んで行きたい。

その気持ちを抑えられたのは、慎悟を愛してるから・・・

慎悟に愛してもらいたいから・・・


慎悟が愛したのは一年前の梓。今の梓は違うから…。

今の私をきっと愛してはくれない…。

慎悟にはあの時の梓でいたいから…。

だから会えない。


私は高哉に会いに行った。

今の自分をコントロール出来ないから…。


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