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第22話: 高哉の過去


飲み会以来私達は頻繁に集まるようになった。

といっても、私と典美と高哉の3人・・・

飲み会の8人揃うことはなかった。


飲み会の時にいた私と典美以外の女の子2人は彼氏もち。

高哉以外の男はみんな彼女もち。

普段の日常に戻れば、不満はありながらも、それぞれ元のサヤに戻っていく。


でも、私と典美と高哉は一緒にいた。

それぞれ用事が無いときは、高哉の家に自然といた。

私も、真弓や恵里と遊ぶ意外は高哉の家にいた。

典美がいなくても高哉の家に行くようになった。 典美も大抵高哉の家にいた。


まるで自分の家に帰るように私達は高哉の家に帰った。


3人でいても気楽だった。

一緒の空間にいるけど、みんなそれぞれの事をしてる。

携帯をいじってたり、テレビを見てたり、雑誌を読んだり・・・

用事が出来れば、それぞれ出かけていなくなる。

それでも、家にいるよりよかった。

家で一人でいると寂しさだけが押し寄せる。

誰かのそばにいないと不安で押しつぶされる。

世間から一人取り残されているようで…

一人でいるのが嫌だった。

典美も高哉も一緒なんだろう。


私達は、その寂しさを支えてくれる相手=彼氏、彼女、だったりする。


友達は、結局は彼氏のとこに戻っちゃう。

いくら一緒にいても、最後は彼氏の所に行っちゃう。…その後私は戻る場所がない。

彼氏の所に行く友達を見てると、寂しさが倍増する。


今の私達にはその相手がいない。

似たもの同士支え合うしかなかった。



私と典美が毎日高哉の家に入り浸っていても、高哉の親は何も言わない。


小さな家の庭に無数に放置してある原付を見ても何も言わない。


高哉の家は小さな長屋。 部屋に入るときも窓から。

たまに外で高哉の母と会っても私の方を見ない。

知らん顔。

挨拶もしたことない。


今日は、典美は来ていない。ふと気になって、高哉に聞いてみた。


私達はお互いの悩みを言い合いした事はない。

お互い何らかの事情があるのは分かってた。

あえて聞かない。

暗黙の了解だ。


でも、私は聞いた。

『私達いつもいるけど、高哉のお母さん何も言わないの?』


私は家にいる居場所がないから高哉のとこにいる。

でも高哉がその事で親に言われて、嫌な思いをしてたら、私達が一緒にいる意味がない。


『あぁ。あいつは何も言わないよ』


『そうなんだ』

それ以上は聞いちゃいけないって思った。

高哉がいいならいいや。

そう思った。…でも高哉は話しを続けた。


『あいつ本当の親じゃないから…俺のことなんてどうでもいいの』

『…そうなんだ』


これ以上は言えない。

でも高哉は続けた。


『俺が赤ちゃんのとき、親父とお袋が離婚して…お袋が男作って逃げたんだけどなっ。で、俺と姉貴を置いて家を出た訳。…これは、ばぁちゃんから聞いたんだけど』

私は軽く頷いた。

『それから..親父はあんま家に帰ってこなくてさっ。まぁ毎日飲み歩いてたんじゃねぇのかなぁ。だからほぼ俺と姉貴はばぁちゃんに育てられた感じかな…俺が小学4年の時に、今のあいつと再婚したんだ。話しによると、親父、あいつと結婚するときに、

「子供達は置いてく」

って言ってたみたいだけど、実際捨てれなかったみたい。親父の中にまだ親の心が残ってたみたいで…』


高哉は淡々と話を続けた。

そう見せていただけ…きっと心の中は寂しさを思い出してるはず・・・


『あいつは渋々俺らと暮らすことになって、でもさ!結婚したからって親父が家に落ち着くはずもなく、また帰ってこなくなったんだよ。…それで、あいつの怒りの矛先がまだ小さかった俺らに向けられて…』


そこまできて高哉は話すのを止めた。


『どうしたの?』

『まだ話す?これ以上話すと暗くなるよ?…まっ!もう暗くなってるか』

『高哉君がよかったら話し続けて』


ただ単に興味があった。

そんな環境の子が実際いるなんて…


『今で言う虐待?受けだしたんだ。あいつ気狂ってたから…ばぁちゃんも怖くてあいつに何も言えなかったんだ。俺が小4、姉貴が小5だったかなっ。親父とあいつの喧嘩が絶えなくなってさ、…最初は言葉で俺と姉貴を罵ったんだ。

「あんたらのせいよ」

って感じで…それがエスカレートして、ご飯食べさせて貰えなかったり、風呂にも入れなかったり…そう思えば、

「ご飯よ」

って出て来たのが、残飯だったり…普通野菜の捨てる部分が皿に盛られてんの!消費期限が過ぎたのとかさっ!でも、次いつ食べれるか分かんないからさぁ…がっついて食べたよ…』


−言葉が出なかった。胸が締め付けられた。

高哉は顔色一つ変えず話した。それどころか笑ってる。

その笑顔が辛い・・・

辛かっただろうね。

そんな簡単に片付けられない…



『姉貴が中学入ってもまだ虐待はあってさ。しかも、学校で姉貴がイジメにあうようになって…風呂も入ってないし、服は毎日一緒で臭いじゃん!それが始まりでさっ!幸い俺はイジメには合わなかったけど…辛かったと思うよ。家でも、学校でも…俺より姉貴の方があいつにひどい目に遭わされてて… 女同士ってのもあったのかなぁ…姉貴は学校に行かなくなって…家にも帰ってこなくて』


高哉は一息おいてまた話し始めた。


『こんな環境で育って、真っ直ぐ行くわけないじゃん。姉貴は中学で他校のヤンキーと付き合うようになって…そのままヤンキーまっしぐらって感じ!多分、一人でぶらついててナンパで知り合ったんだと思うけど・・勿論イジメもなくなったし』


『高哉君にお姉ちゃんいたの知らなかった…』毎日来てるのに姉の姿は家になかった。


『姉貴は中学もろくに行かないまま、この家出たんだ…その時付き合ってた人が19歳で、一緒に住むって…俺も一緒に誘われたけど断った。姉貴は俺より辛い目にあってたから、やっとの幸せ邪魔したくなかったし…ばぁちゃん置いて行けないじゃん!その頃はもう、あいつがどうにか出来る姉貴じゃなかったから…俺も反発するようになって、あいつの思い通りにはならなくなったし...逆に今度は成長してく俺らにビビるようになって、何もしなくなったんだけど…』

『どうしたの?』

『あいつの相手が俺と姉貴から…ばぁちゃんにいったんだ…姉貴も俺も家にほぼ帰ってなくて、気付かなかった…ばぁちゃん一人で耐えてたんだよ…』

『……』

『その事に気付いたときは姉貴は家を出る寸前でさっ!ばぁちゃんは姉貴に謝ったんだよ

「ごめんね。ごめんね。守ってあげられなくて」

って…俺らはさぁ、ばぁちゃん恨んだことなんて一度もなかったんだよ。逆に感謝してた。ばぁちゃんが親みたいだったから。姉貴との最後の別れんときに姉貴がばぁちゃんの変化に気付いてさ…ばぁちゃんの服をそっと捲ったんだ……。ばぁちゃん..体がアザだらけでさ..』


初めて高哉の表情が曇った・・・


『俺、姉貴の後ろに立ってたんだけど、何も言わず、あいつが居る台所に向かったんだ…あいつがばぁちゃんを…って、その時初めてきづいたんだ…自分が情けなくてさぁ。ばぁちゃん辛かっただろうって…俺はあいつのとこに歩きだしてた。あいつを殺そうって…そしたらさ,姉貴が凄い勢いで後ろから俺を押しのけてったんだ。俺もその後に続いて台所に入ったら、姉貴は包丁をあいつの喉元に当てて…

「てめぇ!ばぁちゃんに何してたんだよ!」

って、すげぇ勢いでさっ、あいつビビって何も言い返せなくて』


高哉はすっきりしたように笑った。

『「てめぇ今度ばぁちゃんに近付いたら殺すぞ!」

って…もうあいつ完全にビビっててさぁ、その後姉貴は俺に言ったんだ

「ごめんね。高哉。ばぁちゃん守ってあげて…」

って…

姉貴はばぁちゃんに何度も何度も泣いて謝ってた。で、姉貴は家を出たんだ。』


『…今お姉ちゃんは?』

『今はその頃の彼氏とは別の男と一緒に住んでる。俺もばぁちゃんも姉貴が一人で家を出た事恨んでなんかない…幸せになってほしいし…。今もたまに顔だすよ!』

『おばあちゃんは?』

おばあちゃんがいた事も知らなかった。

『…ばぁちゃんは姉貴が家を出て半年ぐらいして…死んだ。それから、あいつと俺とこの家で二人ってこと!姉貴があいつを怒鳴ってから、あいつは俺やばぁちゃんと話さなくなったんだ。お陰で…短い間だったけど、ばぁちゃんと昔に戻ったみたいに過ごせたし!だから俺が何しててもあいつは何も言わないって訳。親父も帰ってこないんだし、あいつ出て行けばいいのに..ずっといんの』


高哉は茶目っ気たっぷりに言った。


『何でおばさんはここにいるんだろう…』



『俺が思うに、まだ親父のこと好きなんだと思う。ここにいれば親父が帰ってくる・・・って思ってるんじゃねぇ?』


…まだ好きだからか…

おばさんも大変だったんだ… でも!おばさんのしてきた事は人として許せない。


『…高哉君は…もういいの?…おばさんの事許してる?』

『ん〜。一言で言えば許せない。でも、何年も親父を待ち続けてる事は凄いと思う。』

『それって、許してるのとは違うの?』

『違う!俺が受けてきた仕打ちは今は何も思わない…けど、ばぁちゃんを思い出すと、今でも、あいつを殺したいって思う…あいつを家族とは昔も今も認めてない..他人と暮らしてる感じかな』


高哉は幼い頃から凄く重いものを背負ってるんだ・・・

今笑って話してるのも、高哉の意地だと思った。


『梓ちゃんは?』

『ん?』

『俺ばっか話したじゃん!梓ちゃんも自分の事話してよ』

『…私かぁ』

『そうそう!二人で暴露大会!』

高哉は明るく言った。


『私は何もないよ...強いて言うならただ親がウザいだけ』


・・ごめん高哉。私まだ言えない。

…一番愛した慎悟の事

…子供の事

まだ言えない。

忘れたつもりでいたのに…

本当は、私は何も忘れてない。

無理やり胸の中の箱に仕舞い込んでるだけ・・・

出てこないように、無理やり蓋をしてる。

私の中の箱はもう一杯になって、少しの揺れでこぼれ出しそうになってる。


今、高哉に話したら…全てがめちゃくちゃにこぼれちゃう…

高哉は辛い過去を話してくれたのに…でも、もう少し待って…もう少し片付けたい。私の箱の中が全て過去になり、順番に出てくるまで…

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