第21話: 入り口
高校生活二度目の夏休み・・・私は子供を失った…自らが決めた事…
・・この事を知ってるのは、私と母と亮とその親と真弓だけ…
『梓ちゃん、今日飲み会あるんだけど、来てくれない?』
―私は高校生になって、世間が広くなった。
仲が良い友達ではないが、知り合いは沢山出来た。
友達の友達…その友達…
横の繋がりで増えていった。
こんな誘いもしょっちゅうだ。
『いいよ』
家にいてもマイナス思考になるだけ。 出よう!
私を飲み会に誘ったのは〈典美〉。
高校は違うけど、ちょくちょくは会ってる。
まぁそのほとんどが、飲み会の誘い。
私達は高校生で勿論未成年。
でも、飲み会もするし、煙草でいつも部屋ムンムン。
私もいつからか煙草を吸うようになった。
でも、その場だけ。周りが吸ってたら吸う感じの付き合い程度・・・
―飲み会の待ち合わせの場所に向かった。
電車で向かうから、駅まで典美が迎えに来てくれることになってる。
『梓ちゃ〜ん!』
典美が原付にまたがりやって来た。
運転してるのは、今日一緒に飲み会をする男の子・・・
『こんばんは』
『こんばんは…』
私と男の子は軽く挨拶を交わし、私も原付にまたがり、三人乗りで、飲み会が行われる家へと向かった。
私が着いたときには、メンバーは揃っていた。
挨拶も早々に交わし
『はい。梓ちゃん』
ビールを手渡された。
『じゃあ、乾杯!』
かけ声と共にみんな一気に飲み出した。
私は戸惑った。
…おろしてまだ一週間…お酒飲んでもいいのかなぁ…
ここまできて、そんな事考えてた。
『梓ちゃん飲んでないじゃん!飲もうよ!』
この言葉も、私の状況を知らなければ仕方ない。
・・飲もう!今更自分を守る理由もない。今を楽しもう。
私は渡されたビールを一気に飲み干した。
亮の事も忘れよう。いつまでも、憎むのは止めよう。憎むほど自分が惨めだ。
親も… おろしたことも…
何もかも忘れるようにはしゃいだ。
夜中まで騒いで…お酒を飲んで…
無免許で原付に乗ったり…
今ある原付は2台。1台に三人乗っても台数が足りない。
今日は8人いるから、あと1台あれば、みんなで動ける。
『梓ちゃん原付乗れる?』
駅まで典美と一緒に迎えに来てくれた高哉が私に向かって聞いた。
『乗れるよ』
私は数回だけ乗った事があった。…慎悟と付き合ってたときに、教えてもらった。
『じゃあ付いてきて!原付パクりにいこ!俺マジ上手いぜパクる(盗む)の!』
高哉は自慢気に言った。
今ある2台の原付も高哉が盗んできたもの。
「原付なんてその辺にゴロゴロ転がってる(人様の)。買うのなんて馬鹿らしい」
だって・・
『いいよ!行こ!』
私と高哉は1台の原付に乗り、探しに行った。
高哉は原付を停めた。
『ここでいいよ!俺ずっと狙ってたのあるんだ。梓ちゃんは先に帰ってて、俺もすぐに行くから』
『分かった!じゃあ後でね』
私は来た道を戻った。
みんなが待つ家に戻った。原付を停めようとしたら、高哉が来た。
『高哉君早いじゃん!』
『だから俺上手いって言ったじゃん!梓ちゃんのも今度持ってきてあげるね』
『本当に?ありがと!』
私達はみんなの所に戻り、パクったばかりの原付を加え夜の闇に溶けて行った。
行く宛なんてない。
夜の街をただ走り…大声を出し騒ぎ…
私達は一睡もすることなくはしゃいだ。
…こんな感じ初めて。
今までに飲み会なんて腐るほどした。
でも、ここまで楽しくはしゃいだのは初めてだった。
今までの飲み会は、すぐに男と女意識し合ってた。
カッコイい男はいないか…。
会った瞬間からお互い目当ての相手を見つけ、友達は女同士でいるときには見せたことのない、甘い声を出し、甘い視線を送り、誘いを待つ。
男女大勢ですることが多いので、他の女の子がラブラブ光線を送り出したら、自分の気に入る男がいないからといって、帰る事は出来ない…。次第にカップルが出来てしまうから、余り物の相手をしなくてはならない。
目当ての男がいればいいけど、いなければ最悪な飲み会になる。天と地の飲み会だ。
今回は違う。状況が今までと違う。
4人いる男のうち3人は彼女もちで、隠すことなく言ってる。
勿論、今回の飲み会は内緒らしい・・・。
女4人も、私と典美以外の2人は彼氏もち。それもみんな知ってる。
今回はみんな男や女を目当てで集まった訳じゃないんだ…。
飲み会が始まりしばらくしてその空気が分かった。
みんな普段の憂さ晴らしをしたいだけ…
家にいれば口うるさい親から
私達は決して優等生ではない。学校に行けば先生にのけ者にされ
彼氏や彼女…友達との悩み…
普段の日常から少しでも逃げたいだけ…忘れたいだけ…
そんな気持ちが同じで集まってるんだ。
私は典美以外会うのは今日が初めて。
でもすぐに打ち解けれた。
男女の友達関係なんて成立しないと思ってた。
今日それが覆された日だった。
やっと、私は居場所を見つけた。
仲間を見つけた。
最高の出会いが出来た日だ。
―満足感に浸りながら、朝方みんな解散した。
…最高だと思った出会いが、下り坂の入り口とも知らずに…