第13話:再確認。疑惑。
私達は付き合ってからほぼ毎日というほど会った。
朝から慎悟の部屋でまったりしながら1日を過ごす。そんな毎日…。特にどこに出かける訳でもないが、それでも一緒にいることが幸せ。
帰りは毎日21時。帰ると母は毎日口うるさく怒鳴る。
私は母と顔を合わせることなく朝家を出て慎悟の家に向かう。
家に帰ると母の怒鳴り声を無視して部屋に直行。
もう馴れた。母の怒鳴り声も。
母の怒鳴り声を無視するだけで、こんな簡単に夜遊び出来る。何故今まで我慢してたんだろう。
家に帰ったらまず慎悟に電話。2人の決め事だ。
慎悟はメールをしない。メールだと気持ちが伝わり難いから嫌いなんだって。だから私もメールはしない。慎悟とはいつも電話。
そんなこだわりを持つ慎悟も好き。
今の私は慎悟なしではいられない。慎悟に夢中だ。
そんなある日いつものように朝、起きたての慎悟から電話が鳴る。…いつもどうりだ。
『もしもし』
『梓おはよう』
『おはよう。慎悟』
いつもの始まりの会話。この後、
「今日何か予定ある?」
「何もないよ」
「なら.おいで」
「分かった」
という感じで毎朝慎悟の家に向かう。
…今日は違った。
『俺今から飯食うわ』
『うん』
『じゃあな』
…え!?終わり?
『…うん。じゃあね』
今日は会わないの? 聞けなかった。
今日は何か用事があるんだろう。と思い込んだ。
―今日1日慎悟からの電話はなかった。最近毎日会ってたから、慎悟だって友達と遊びたいよね。でも寂しいよ…慎悟…
でも!また明日の朝,電話鳴って…いつものように会えるだろう。
朝いつも10時に慎悟から電話がある。昨日会えなかったから電話きたらすぐにでも飛んでいけるように、10時には用意を済ませ、慎悟の電話を待った。
電話は鳴らない。
まだ寝てるのかなぁ。起こすの悪いし、慎悟からの電話待とう!
いつまでも経っても慎悟からの電話はなかった。
絶対変だ!さすがに昨日の夜から今日の夜まで寝てるなんてありえない。
慎悟に嫌われたのかなぁ…でも2日前まで何ともなく仲良くしてたし…連絡できない訳でもあるのかなぁ…
不安…不安でどうしようもない。
慎悟が離れていっているようで…
慎悟がいなくなったら嫌だ。
慎悟がいなくなったら私どうしたらいいの?
慎悟…早く電話してよ!
私の目からは自然と涙がこぼれ落ちていた。
泣き疲れ知らない間に眠った。
次の朝、真っ先に携帯を見た。
…慎悟から電話はない。気が狂いそうだ。
私は慎悟に会えない寂しさに耐えられず、朝早いにも関わらず慎悟に電話していた。
『…はい…』
思いっきり寝起きの声。慎悟がいつも電話する2時間は早い。
『慎悟…』
『梓か,ってか,めちゃめちゃ早いじゃん!どうした?』
どうしたじゃないよ!寂しくて死にそうだよ!
『…』
恥ずかしくて言えない
言えないけど、分かって!私がどんな気持ちで電話したか分かって!
『…梓、話しある。今から来て』
初めて聞く暗く真剣な声。
嫌な予感。
でも、どんな話しだろうと慎悟に会いたい。
『分かった。』
すぐに向かった。
慎悟の部屋の窓ガラスを開け中に入る。慎悟の姿が見当たらない。
慎悟はまだベッドの中にいた。しかも寝てる・・・
私はベッドの側に行き慎悟の寝顔を見つめた。
会いたかった。
寂しかった。
慎悟といるとあっという間に過ぎる一日が、慎悟といないと凄く長い。
『…慎悟』
そっと呼んでみた。『ん〜…。あず…さ…か。早かったなぁ』
当たり前だよ!
会いたくて、会いたくてたまらなかったんだから…。
心の声を出せたらどんなに楽だろう。
でも、慎悟には伝わってる。口に出さなくても私の気持ち、きっと伝わってるはず… 伝わっててほしい。
慎悟は寝転びながらテレビを付けた。
私もベッドの下に座りテレビを眺めてた。 何か気まずい雰囲気のようで、テレビを見るしか出来ない。
『梓…』
『ん?』
いつもと違うのは分かっている。でも.気付いてないよう…私はいつもどうり…を装った。慎悟に背を向けたまま。
『梓!こっち向いて!』
私はベッドの上に乗り、慎悟も体を起こし向かいあった。
『梓はさぁ、今日どうして電話してきた?』
始まった。私の苦手な真面目な話し…
『なんでそんな事聞くの?』
慎悟は意気込むように大きく煙草を吸った。
『梓は俺のことどう思ってる?』
『どうしたの?急に』
私はまだ真面目な話をする準備が出来てない。
この雰囲気を変えれることなら、変えたい。
…私はまた逃げようとした。
『梓。真剣に答えて』
まずい。。。
私がここで逃げたら慎悟とは終わってしまう。慎悟と終わりたくない。
…頑張ろう
『…好きだよ』
『本当に?』
『本当だよ。だから.なんでそんな事聞くの?』
『いつも、電話して誘うの俺ばっかじゃん。梓から言ってくれたことないし、俺が誘うのに無理やり付き合ってくれてんのかなぁって、好きだって思ってんのは俺だけなんじゃないのって』
慎悟がそんな事考えてるの知らなかった。
私はいつも当たり前のように慎悟の電話を待って、慎悟の誘いを待って、断ることなく慎悟のもとに行っていた。
慎悟の事嫌なら、慎悟がどんなに誘ったて行かない。私が行くって事は慎悟の事を好きだから…
それで私の気持ちは伝わってると思ってた。
伝わっていなかったんだ。
私が思っているほど慎悟とは解り合えていないんだ
そう思ったら涙が出そう。
我慢した。こぼれないよう必死だった。
『好きだから慎悟のとこに来るの』
これ以上喋ったら涙がこぼれちゃう。
『俺さぁ…いつも言ってるけど、梓の事マジ好きなんだぁ。』
そう、慎悟は会うといつも
「好きだ」
と言ってくれる。
それに対して私はいつも微笑むだけ。
それて伝わってると思ってた。
口で言わなくても伝わってるって…
『俺、梓のこと好きになるほど不安で…俺ばっか好きなのかなぁって、…でも.俺そんな強くないから…自分だけ好きなのとか辛いから…だから今日梓の気持ちちゃんと聞きたいって思って…』
『…』
今喋ったら泣けちゃう。言葉が出ない。
『梓の気持ち、ちゃんと言ってくれないと俺わかんねぇよ。』
『慎悟のこと好き…大好きだよ…』
声が震える。
涙が勝手に溢れてくる。もう駄目。
私は慎悟に涙を見せないように下を向いた。でも私が泣いてるのはきっとバレてる…。こんな事で泣いちゃって…きっと慎悟に嫌われちゃう。でも涙が止まらない。
…?
慎悟が近い。
私は慎悟に抱き締められていた。
『やっと言ってくれた。俺も梓の事好き』
嬉しくて嬉しくて私の涙は量を増し溢れ続けた。
涙でぐちゃぐちゃになった私を慎悟は優しく拭ってくれた。
そして慎悟の顔が近づき、私は素直に受け入れた。
慎悟と初めてのキス。
私の人生で二度目のキス。
そのまま私達はゆっくりベッドに横になり、とても長いキスをした。
慎悟は壊れそうな物を触るように私の体に触れた。
嫌じゃなかった。敬の時とは違った。私の気持ちが違ったんだ。
ゆっくり私の服を脱がし、慎悟も器用に自分の服を脱いでいった。
お互いの体温を確かめ合うようにしばらくの間、裸で抱き合っていた。
恥ずかしかったけど、慎悟に抱かれる幸せを感じた。
慎悟の体あったかい。
慎悟のいい匂い。
このまま慎悟を離したくない。
しばらくすると慎悟は少し体を起こし
『梓初めてだよな』
耳元で囁いた。
私は頷いた。
慎悟の手が私を優しく撫で…
慎悟が私の中に来た。
私達は一つになった。お互いの気持ちを再確認するように…
正直、気持ちがいいものではなかった。
〈痛い〉だけだった。でも慎悟と一段落と近づけた感じが気持ち良かった。
終わってからも慎悟は優しく側にいてくれた。
…でも、慎悟の様子がおかしい。
『どうかしたの?』
終わった後にこんな事聞けるのは私が初めてだったからだろう。
『…梓、本当に初めて?』
『うん。初めてだよ』
『嘘言ってない?』
私は直感した。
敬のときに私は血が出た。もちろん二回なんか出ない…。
慎悟は疑ってるんだ。
でも本当に慎悟が初めての相手なのに…
『本当の事言って!俺、嘘付かれるほうが嫌だから』
さっきまでの幸せムードはどこへ行ったのか、またこんな話し…
本当の事って……。慎悟に敬との事なんか言えない。
慎悟に疑われてる事が悲しかった。一度緩んだ涙腺はまた涙を溢れ出させた。
『…本当だよ…慎悟が初めて…だ…よ…』
また涙は流れだした。
『分かった。分かったから…ごめんな』
私達は無理やり会話を変え雰囲気を変えようとした。
でも数時間前の幸せな感じにはもう戻らない。
慎悟は多分まだ私を疑ってる…
私は敬のことを思い出し、慎悟に後ろめたさを感じてる…
私達はお互い凝りを感じながら今日は早く別れた。
慎悟に抱かれた幸せよりも、慎悟を騙しているようで罪悪感でいっぱいのまま家に帰った。
今日は早く寝よう。
明日には忘れてるかもしれない…。