第11話:幸せ
私と慎悟の家は意外に近くだったことにびっくりした。歩いてでもそう遠くない。
だから待ち合わせ場所も簡単だった。
「〇〇を曲がった角で…」
みたいな感じだ。
慎悟が通っていた中学より私の行っていた中学のほうが、慎悟の家から近いが、学校の規定の範囲の決まりがあり中学は別だった。
待ち合わせ場所には金髪のモヒカンヘアーの男がいた。慎悟だろう。
私は慎悟の顔を知らない。でもあれは慎悟だ。慎悟はまだ私が近づいて行ってることに気付いていない。…どうやって話しかけよう。
こういう時、後から行くのは嫌なものだ。
『おぅ!梓〜』
私に気付き呼んでくれた。
その声とともに、私は3メーターぐらい走り慎悟に駆け寄った。
『ごめん。遅れて』
『気にすんな!』
ポンポンと私の頭を叩いた。
もう私は
「慎悟の事好きだ」
そう思った。
初めて会ったばかりなのに・・・。敬のときにしろ、私は惚れやすいのだろうか。
とりあえず、私達は近くの公園に行くことにした。
慎悟と並んで歩いている。慎悟はヒールを履いている私より頭半分くらい背が高い。 肌の色はどちらかというと白目。 奥二重の切れ長の目。 細くカットした眉。 由希ちゃんの言うとうりカッコイい。
歩きながら慎悟の横顔を眺めた。…こんな人の彼女になれたらいいだろうなぁ。
『梓…さっきから見すぎなんだけど…』
うっとりしていた私は我に返った。
『あっ。…ごめん』
『俺の顔、……変?』
『全然変じゃないよ!カッコイい』
思わず言ってしまった。
『またまた、そんな事言ってぇ』
ちょっと照れてた。
公園に着きベンチに座った。
今度は慎悟が私の顔をじっと見ている。前を向いていてもその視線は分かった。
今度は私が
『見すぎなんだけど』
慎悟の真似した。
『梓可愛いなぁって思って』
『何それぇ!さっきの仕返し?』
『まぢだよ!由希から聞いてない?俺、梓に一目惚れしたんだからさっ!…こんなこと言わせんな!バカ!』
恥ずかしくて返せなかった。でも嬉しくて顔が緩んだ。
さすがに夏休みの昼間の公園とあって、子供達が増えてきた。
『場所変えよっか』
『うん。』
『俺んち来る?』
『うん。』
公園から10分くらい歩いて慎悟の家に着いた。
1階建ての小さな家。
慎悟の後を続いてあるいた。慎悟は玄関には向かわず、家の横を通り裏へ歩いて行った。
(?)
家の真裏に来たとこで、床から天井までの長方形の窓を開け
『入って』
そこが慎悟の部屋らしい…。慎悟はいつも玄関からではなく部屋の窓から出入りをしているそうだ。 なので、窓の外には靴箱がある。
私は初めて見る光景にびっくりした。
と、ともに不良っぽさを感じた。
実際.玄関からより入りやすかった。
部屋はさっぱりとしていて綺麗だ。タバコと香水の匂いが混じった男の匂い。
慎悟は部屋に入るなりタバコをくわえた。でも私の顔を見てタバコを離した。
『吸っていい?』
『いいよ』
私に気を使ってくれたのだ。敬は何も言わずタバコを吸っていた。嫌じゃなかったけど、慎悟の気遣いが大人だと感じた。
慎悟はベッドに腰掛け
『こっちおいで』
突っ立っている私にタバコをくわえながら言った。 敬とのことを思い出し、躊躇した。
『なんもしないからおいで!』
また子供に話すように言った。
私は慎悟のこの喋り方が好き。子供扱いされてる感じだけど、そんな感じが好き。
慎悟の横に座った。
私はコルクボードに貼ってある写真を眺めていた。
『写真みる?』
『見たい!』
慎悟は押し入れからアルバムを出し私に手渡した。
ぶ厚いアルバム…この中にまだまだ私の知らない慎悟がいるんだと思うとドキドキした。
綺麗に貼ってある写真。
沢山の友達の写真があった。
学校で撮った写真。
先輩。後輩。との写真
慎悟はアルバムをめくるたびに説明してくれた。 その中でも一番よく慎悟と写っている人がいた。慎悟の親友で〈雅史〉という人だそうだ。慎悟と張るくらいカッコイい。
『雅史とは小学校から今の高校までずっと一緒で一番の親友でさぁ…』
雅史君の話しをする慎悟は本当楽しそう。
『梓にも今度紹介するわ』
『うん。ありがとう』
『でも梓、雅史に惚れるなよ!雅史男前だからなぁ』
『うん!』
なんか私達付き合ってるみたい。この時がいつまでも続いてほしい…。
今日初めて会ってお互い聞きたいことも沢山。私達の会話は止まなかった。
慎悟は私に沢山の質問をした。
私も慎悟に沢山の質問をした。
『ところで、梓はヤッたことある?』
『何を?』
『…エッチ』
私があまりにも自然に聞き返したので、少し言いずらそうだった。
『…ないよ…』
恥ずかしかった。
した事がないのが恥ずかしかった訳じゃなく、純粋にその質問に答えることが恥ずかしかった。
『そうなんだ』
何故か慎悟は嬉しそうだった。
慎悟には聞くまでもないと思い聞かなかった。
私達が夢中に話している間に外は薄暗くなっていた。
部屋の時計を見ると18時になろうとしていた。
まずい!もうこんな時間。今帰ればまだ怒られない。
…慎悟とまだいたい。
どうしよう。
後はどうなってもいい。今の慎悟との時間を終わらせたくない。
私は慎悟との時間を取った。
頭には母の起こった顔がよぎる。無理やり私はそんなこと拭い去った。
…慎悟と離れたくない。
私は慎悟にバレないように鞄に手を入れ携帯の電源を切った。母から電話がなるのを予測して。
『梓時間大丈夫?』
慎悟が聞いたそのとき時間は19時になろうとしていた。
私が大丈夫な時間はもうとっくに過ぎている。
『大丈夫だよ』
『ならまだ一緒にいて大丈夫?』
『うん』
慎悟は何気なく言っているのだろうが、慎悟の言葉が幸せ。
『…俺、梓のことマジ好きだわ。』
…今何て? …好き?って…?
『一目惚れで梓のこと好きになって、でも、ツレするのも,女にするのも,やっぱり人間中身じゃん。梓と1日いて思った。梓を俺の女にしたい』
これって告白だよね・・・?
私はめちゃめちゃ嬉しかった。
もちろん答えは全然OK。でもそれをどう言葉にしていいか分からない。
慎悟は私を見つめた。
私もそれに答えるように慎悟を見つめた。
『俺の女になって』
『うん』
返事が言えた。
『俺マジ言ってるんだけど、梓分かってる?』
急にチャラけた慎悟に戻った。
『私もマジ言ってるよぉ』
慎悟がチャラけたように言ってくれたから私も言い返せた。
こういう慎悟が好き。真面目に話したあと、空気を和ませるようにチャラける。
居心地が良かった。
『じゃあ,今から梓は俺の女.梓の男は俺な!…やっべぇ 俺マジうれしいわ』
…私もうれしい。自然と笑みがこぼれる。
『俺ばっか喜んでんじゃん!梓ももっと喜べよ!それとも俺の事好きじゃない?』
何言ってんの?大好きに決まってんじゃん! …なんて恥ずかしくて言えない。
『……。』
恥ずかしくて慎悟の目を反らした。…そのとき、慎悟の手が私の頭に回り私の頭が慎悟の胸にうずくまった。
『俺マジ梓の事好きだから』
『…私も好き』
やっと言えた。
慎悟の匂い。慎悟の体温を感じる。
このまま時間が止まっててほしい。
私は幸せの絶頂だった。