第10話:慎悟
夏休みも前半が過ぎたころ。。。
夕食を済ませ部屋でのんびりしていたら、携帯がなった。知らない番号。 出るか出ないか迷ったけど、出た。
『はい…。』
『もしも〜し』
ん…? 女?
『由希だけどぉ、梓ちゃんの携帯?』
『由希ちゃんかぁ。誰かと思った。』
『ごめんね。急に…梓ちゃんに伝えたいことあって敬に番号聞いたの』
敬に!?私は動揺を隠し
『伝えたいことって?』『〇〇工業高校の慎悟さんて人が私の中学のときの先輩で、毎朝電車で梓ちゃんと一緒なんだって。で、梓ちゃんに一目惚れしたらしく、連絡取りたいって私の彼氏に連絡あって…』
〇〇工業高校は、私の通う学校の隣の高校で、とても有名な不良高校である。
制服は普通の学ランでどこの学校か分からないって感じだか、すぐ分かる。
上の服は腰辺りまで短く、ズボンはダボダボ。髪は金髪、ピンク…さまざまだ。
だいたいこの高校に通う生徒はみんなと言っていいほど、こんな感じだ。
由希ちゃんは今の彼氏と中学のときから付き合っていて、彼氏もその学校に通う生徒らしい。
『どんな感じの人なの?』
由希ちゃんが何て敬に電話番号を聞いたのか気になったが聞かなかった。
『私達の2つ上で3年生で、めっちゃめっちゃカッコイイよ♪学校でもトップクラスだし』
由希ちゃんの言うトップクラスとは、不良でトップクラスと言うことだ。
『電話番号教えてもいいよ』
私は敬の事を忘れたかった。
敬に見せ付けたかった。
あんたのことなんか好きじゃなかった。
遊びだった。
と・・・
由希ちゃんと敬は仲が良い。きっとこの話しも敬の耳に入るだろう。
『ありがとう!これで私達(由希ちゃんとその彼氏)の顔も立ったよ。梓ちゃんには敬のときといい、こんな話しばっかでごめんね。じゃあ、携帯教えとくから、後は頑張ってね!』
『うん。じゃあね』
本当に由希ちゃんは私の仲人みたいだ。
由希ちゃんと電話を切って10分ぐらいして、携帯がなった。
知らない番号・・・きっとさっき言ってた慎悟さんて人だ。
『もしもし…』
『梓ちゃん?俺慎悟。由希から聞いてる?』
『はい、さっき電話で聞きました』
『あっ敬語とかいいから、タメ語で!』
『はい』
『あと、慎悟さんとか止めてね。由希とかは慎悟さんて言ってるけど、梓ちゃんは慎悟でいいよ』
『じゃあ、慎悟も梓ちゃんは止めて梓でいいよ』
不良=怖い人。
私の今までのイメージを覆した。
慎悟は普通の人に思えた。それどころか、無邪気で、バカな事言ったり、私と対等に接してくれた。
楽しくって慎悟との話しに夢中になった。
私は気を使うことなく、本当の自分を出せているように明るく話せた。
顔も知らない慎悟と話すのはもちろん今日が初めて。でも初めてじゃないみたいに、私は話すことが出来た。
慎悟のおかげだ。
すごく楽しい人。もっと話していたい。
慎悟と会ってみたい。
もう2時間以上話している。
『梓ごめん。もうこんな時間。長く付き合わせてごめんなっ。俺はいつでもいいから、梓が暇なとき連絡して』
『うん。また連絡する』
心地いい慎悟との余韻を残しながら眠りについた。
朝起き、昨日慎悟と電話したことを再確認するように昨日の慎悟の着信履歴を見た。
…いつでも電話してって言ってた。
今すぐ電話したい…。また慎悟の声聞きたい。話したい。
でも昨日の今日だし…
ただ慎悟の声が聞きたいだけ…。用事はない…。もし慎悟が話してくれないと会話がない…。
発信のボタン押せない。
慎悟からの電話を待とう。
慎悟と初めて話した日から3日が過ぎた。
毎日毎日、慎悟からの着信がないか携帯ばかり見ている。
4日目の朝、携帯がなった。
慎悟だぁ!
『もしもし♪』
待ってましたとばかりに出た。
『梓?あのさぁ…』
慎悟の声が暗い。
『どうかしたの?』
『どうかしたの?じゃねぇよ!』
…えっ?…起こってる?
『……。』
『俺いつでもいいから連絡してって言ったじゃん!梓なんで連絡してこねぇんだよ』
慎悟は怒りながら淋しそうだった。
『…ごめん…電話しようと思ったけど…。なに話していいか分からなかったし…』
『そんなの気にすんなよ!梓が電話しようと思ったときに電話したらいいんだよ!分かった?』
まるで子供に言い聞かすように言った。 それが嬉しかった。守られているようで。
そのときはもう慎悟の怒りはなかった。ホッとしたような感じだった。
『梓今日なんか予定ある?』
『何もないけど…』
『今から出てこれる?俺近くまで迎えにいくよ』
『大丈夫だよ。』
慎悟と会えるんだ。
2時間後に私の家の近くで待ち合わせをした。
近くといってもそう近くではない。私が男といるとこを近所の人に見られでもしたら大変!そんなことが親の耳に入ったら、夏休み中外に出してもらえなくなる。
母にはミホと遊ぶと言って家を出た。
いつもどうり夕方に帰ればバレない。
私は敬のときにいっぱい親に嘘をついた。
今はもう嘘を付くことに抵抗はなかった。
当たり前のように親を騙し家を出た。