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  作者: 50まい
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『彼』とおまえとおれと8

「じゃ、せいっ!また明日ね!」




「おうっまたな!」




 裏返った声と一緒に慌てながら帰る犀を見送っていると、日紅ひべにの肩にぽんと手が置かれた。




「……お姉ちゃん」




 日紅の赤い顔を見て、姉は鬼の首をとったようににたりと笑った。




「ふーん?ほーついにそういうことになりましたか。いつからなの?」




「今日だよっ!もうっ!」




 日紅は姉の手を振り払ってずかずかと玄関に向かった。




「やっと犀くんの苦労が報われたわね。わたしあんたが恋愛なんて一切興味ありませんってぽけっとした顔でいるからぱっと出の変な男に引っ掛かったらどうしようって思ってたんだからね。そんなことになったらけなげな犀くんが不憫で不憫で…杞憂きゆうで終わってよかったわー」




 日紅はぴたりと足をとめた。




 クラスメイトといい、姉といい。




「…何でみんな知ってるの?」




「ん?犀くんがあんたを好きだってこと?そんなの、見てりゃわかるわよ」




「わかんないよ!」




「そもそも仲いい友達だなんて浮かれてんのはあんたぐらいだっつーの。いーい?夢見てるお子ちゃまな歳でもないんだから、男女の友情は一生だなんて思ってたら痛い目あうわよ」




「もうお姉ちゃんうるさい!」




「はれて犀くんと付き合うことになったんだから、あんたミコヤくんのことはどうするの?」




「犀の話でしょ?なんで巫哉が出てくるの。どうもしないよ。いつもどおり」




「だっかっら、あんたはおこちゃまだって言うの、よ!」




「痛い!」




 姉はばしんと日紅のおでこを叩いた。




「男女の友情なんてもんはね、成り立たないようにできてんのよ。男と女ってどうがんばっても違うものだから、意識しちゃうの。成り立っているように見えてるのは、どっちかが気持ちを隠しているからよ」




「極論だよ!」




「一般論よ。現に、あんたがずっと友達としてうまくいってるって思っていた犀くんも、あんたのこと女として見てたじゃない」




 日紅はぐっと言葉に詰まった。それは、つい先日まで日紅がずっと心の奥底で意識しないようにしていたことだった。




 日紅はそこから踏み出す覚悟をしたけれども。




 男女の友情が成立しないだなんて、それがこの世のもう定められてしまった条理だとしたらそんなの…悲しすぎる。




「ミコヤくんには犀くんと付き合うってもうそのこと言ったの?」




「付き合うとはいってないけど、巫哉には何でも話してるから…それっぽいことは言った…」




はーと姉はため息をついた。




「いい?ちゃんと、あんたの口から言いなさいよ?それが誠意ってやつなんだから」




「お姉ちゃん巫哉は別にあたしの事なんとも思ってないよ」




「うるさい。いいから言う通りにしなさい」




 むすりと黙った日紅を横目で見て、姉ははぁとまたため息をついて、その頭にぽんと手をおいた。




「まぁ、本人がなにも言ってないのにわたしがあれこれ言うことじゃないかもしれないけど。知らないってことが免罪符にならないこともあるし、日紅に後悔してほしくないからさ」




「…意味わかんない。……お姉ちゃんなんて、巫哉のことなんにも知らない癖に」




「そりゃあね。でも話聞いてる限り…ま、いっか。ほら、着替えてきな」




 ぽんと日紅の背中を押して姉は台所に行ってしまった。




 日紅はそのまま玄関で立ち尽くしていた。




 ぐるぐると色々な思いが頭を回る。




 お姉ちゃん。巫哉。桜ちゃん。犀。青山くん。




 …巫哉。




 巫哉にあいたい。巫哉にあってまたあの生意気そうな顔で、どうしたんだと、優しくって意地っ張りな巫哉にそう言ってもらったら、安心できる気がする。巫哉は日紅を裏切らない。巫哉だけは。




 だって、『彼』は変わらないから。犀は常に前を向き進んでゆく。日紅だって変わる決心をした。でも、それに恐れや不安がないわけでは、決してない。変化は怖い。それに付随する終わりが怖い。始まりと終わりはひとつだ。切り離して考えられるものではない。だから日紅は恐れる。変化を。




 だから日紅は求める。『彼』を。




 会ったら、巫哉に抱きついて、慌てる顔を見て、それを指さして笑って。




 日紅は2階に続く階段を駆け上がった。はやく、はやく。一瞬犀の顔がよぎったが、日紅の心にある大きな不安には勝てなかった。犀も、姉も、巫哉のことを気にするのがわからない。巫哉は日紅にとって男だとか女だとか、そんなもので区切れるものではないのだ。4000年以上を生きる人外のものという認識ですらない。巫哉は巫哉。たったひとり、日紅にとってかけがえのない相手なのだ。




 勢いよく日紅は部屋の窓を開けた。




「巫哉!」




 しかし窓の外に求める『彼』の姿はなかった。でも、日紅の声を聞けば出てきてくれるはずだ。




 はやく会いたい。はやくー…日紅の気ばかりぐ。




 暫く待った。




 日紅はそこできょとんとした。巫哉がいない。そんなことはないはずだ。今まで、一度たりともそんなことはなかったのだから。




「巫哉?」




 相も変わらず窓の外は薄暗闇を映している。




 どこかに出かけているのかもしれない。ぱたんと寂しく窓を閉じて日紅はのそのそと制服を着替え始めた。




 今、そばにいて欲しいのにな…。巫哉。

ちなみにこんなこと書いていますが私は男女の友情は成立すると思っている派です。

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