表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 50まい
13/33

『彼』とあたしとあなたと7

「で、何?」




 日紅ひべにが卵焼きをつっついたところで、せいがそう切り出した。




「うーん、とね?犀、あんた付き合ってるコいないのよねぇ?」

 



「…いないけど」




「じゃあ好きなコは?」




「………」





 急に犀が黙った。




 日紅は焦った。まさか…いる?




「いるよ。好きなヤツ」




 日紅の心を読んだかのように犀が言う。その視線は彼の足もとに注がれていた。




「嘘ォ!?」




 どうしようと日紅は予想外の展開に驚いた。




 日紅の考えでは、(なんの根拠もないのだが)当然いないといわれて、じゃあ隣のクラスの桜ちゃんなんてどうと進める予定だったのにー…。




 とりあえず!




「誰!?」




「同じクラスのヤツ」




 日紅と犀は同じクラスだ。




 と、いうことはうちのクラスの女子…!?




 寝耳に水とはこういうことだ。




 なんということだ。なんで言ってくれなかったのだろう!それよりいつから!?高校で犀とはクラスがずっと一緒なのだ。




 日紅は犀ととても仲が良いと思っていた。それは日紅の勘違いではないと思うし、犀だって日紅のこと仲がいい女友達だと思ってくれていると、当然のようにそう思っていた。




 ずっと、一緒にいたのに!




「席は!?」




 日紅は犀に詰め寄った。




「俺とは遠い。確か前から2番目」




「前から2番目!」




 ドンピシャ!と日紅は叫んだ。




嘩楠かなんさんね!?」




 嘩楠百合かなんゆりと言えば、顔よし頭よし財力よしの、三拍子そろった学校のプリンセスだ。プリンスは言わずと知れたあの青山である。




 その二人と同じクラスになったから日紅は「今年のクラスは凄いぜ…じゅるり」と涎を拭いていたくらいなのだ。




 しくも、噂の嘩楠となんと日紅は隣の席どうしだ。だから嘩楠が噂と一寸違いっすんたがわぬ人だというのもようく知っている。




 桜ちゃん、ごめん見込みないわ、と日紅は頭の中で謝る。桜は確かに可愛らしいとは思うが、嘩楠とは比べようがない。はっきり言って月と何とやらだ。




 犀が好きになったのも、嘩楠さんなら十分納得だ。




「……」




 犀は一人で百面相する日紅をじっとみていた。そして、溜息をつく。




「違う」




「え?違うの?でも二列目はあと男しかーー…はっ!ま、ままままましゃか犀、あんたそういう趣」




「落ち着け。嘩楠以外が男だったらおまえは男か?」




「は?んなワケないでしょ。ちゃんと胸あるしいらん脂肪もぷくぷくおナカについてるわよ」




「どれ?お、本当だ」




「ギャーーーーーーーーーーーーッ!」




 ガゴッと日紅の拳と犀の頬骨がぶつかって凄い音を立てた。




「ーーーーッぅ…」




「何すんの!嫁入り前の女の子のお腹を触るなんてセクハラよセクハラ!訴えられても文句言えないレベルなんだからね!?」




「安心しろ。嫁の貰い手がなくなったら俺が貰ってやるから」




「そこまで落ちぶれちゃいないわようっ!」




「ま、おまえを貰おうなんていう男は一生出てくるわけないけどな」




「はい!?」




 日紅の眉がピンと上がった。




「犀!またそうい」




「俺が出てこさせやしないから」




「ー…は」




「日紅。おまえのそれってわざと?気づいているんだろ。なんでそんな知らない振りするの?」




「な、なにが…」




月夜つくよを、好き?」




「え、そ、それは勿論好きだけど…」




「じゃあ、俺は?」




 犀が日紅を見ている。視線を痛いほど感じる。日紅が視線をずらす。興奮して近づきすぎた犀の影が、自分の膝にかかっているのが見える。




「な、なに言ってるの、犀。犀のいいたいこと、わからない」




「おまえが好きだ」




 無意識のうちに犀の膝にのせていた日紅の手を、そっと、犀の手が覆う。日紅は思わずびくっと体を震わせた。




 だめ!違う、だめ。自然にしなきゃ。だってこんなのなんともないでしょう。普通、そういつものことなんだから、動揺するな!




 重なった犀の手に、ゆっくりと力が加わる。それは振り払われるのを恐れるような、でも何か伝えたい感情があって、それが溢れてくるようなー…だめ、考えちゃダメ!




 はやく、へんじをしなきゃ。




 自分がなぜそう考えるのかわからないまま、日紅は笑った。唇は震えていた。




「あたしも好きよ」




「違う。はぐらかすな。顔上げろよ。俺を見て言え、日紅!」




 隠しきれない苛立ちを含ませて犀が言う。




 だめ。顔なんて上げられない。犀の目を見てはいけない。それを見てしまったら、何かが崩れる気がする。




「日紅!」




 日紅は唇を噛んだ。そして、ゆっくりと顔を上げる。思ったより近いところにある犀の顔。その目が、あった。




「好きだ」




 どくんと日紅の心臓が波打った。それは決して、犀のその言葉を聞いたからではない。犀の目。その瞳を見たから。その瞳の奥にあるものを、日紅は確かに見た。そして自分の瞼の奥も。




 言葉にできない、その感情を。




「お前のことが、ずっと、ずっと好きだった。他の何にも代え難いくらいに好きなんだ、日紅。俺と月夜、どっちが好き?比べるのなら、どっちが上?俺はもう耐えられない。こんなに、お前を好きなのに。月夜と同じなんて冗談じゃない。俺はおまえの中に、俺だけがいてほしいと思う。ちゃんと俺を見て、日紅。自分のことからも、現実からも、目を逸らすなよ…」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ