まぁ、あなた達がどう思おうと、構わないんですけどね。
文武両道、才色兼備。
私の婚約者アーチボルド様はそんな言葉がよく似合う男だった。
欠点を強いて挙げるなら、口数が少ないくらいだろうか。
けれどそれすら、異性から見れば冷静さや孤高さの象徴として好まれる要因だった。
そんな彼は公爵家の嫡男という事もあり、社交界の令嬢達は彼の婚約者の座を狙っていた。
社交界でも、彼や私が通う王立学園でも、いつだって彼の取り合いが行われていた。
そんな引く手数多の彼が一伯爵家の娘を選んだのは……もちろん偶然ではない。
全て私の計算だった。
他の御令嬢達より幾分か立ち回りが上手かっただけ。
ただ彼と距離を詰めるのではなく、数多の令嬢達の中から私を覚えてくれる為に動き、彼の気を引けそうな事をそつなく熟していただけ。
そうして、アーチボルド様側から、婚約の申し出を受ける事に至ったのだ。
しかし私は他の令嬢のように彼に積極的に言い寄っていた訳ではない。
一度だって婚約して欲しい等と彼に頼んだ事はないし、彼に集まる令嬢達の中に紛れた事もない。
だからこそ……令嬢達は思ったのだろう。
『何故彼女なのか』と。
自分達よりも努力もしていない、地味な女が彼の気を引けるわけがないと。
そんな不満は憶測を生み、その憶測は悪意と共に誇張され、広まっていった。
私がアーチボルド様を誑かしただとか、下心からこっそり接触しただとか、様々な言葉を並べられた。
けれど私は気にしなかった。
確かに、噂に悪意はあれど、全てが偽りではない。
ただそれらの言葉は私だけに該当するものではないという事も理解していた。
彼女達こそ、その言葉が良く似合うという事に、私は気付いていた。
「苦労をかける」
ある日の事。
公爵邸のガゼボでお茶を頂いていると、正面に座っていたアーチボルド様はそう言った。
「一体何のお話でしょう」
「最近、貴女を敵視する声が多いと聞いた。私との婚約が絡んでいるのだろう」
「まぁ……否定はいたしませんが。ある程度予想していた事ではありますから、お気になさらず」
アーチボルド様は普段と変わらぬ鉄仮面っぷりを貫いている。
私は微笑みながら彼の言葉に答えた。
「それに、彼女達の言葉もあながち間違いではありませんから。アーチボルド様とて、お判りでしょう?」
アーチボルド様は答えない。
けれど否定しないという事こそが彼の答えだった。
***
それは突然起こった。
王立学園。その校舎をアーチボルド様と並んで歩いていた時の事だ。
「あら。ディアナ様よ」
「まぁ。汚い手を使って殿方の心を掴むのがお得意な、伯爵家の」
そんな囁きが聞こえた。
だがこんな嫌味も耳にするのは初めてじゃない。
私は簡単に気に流した。
けれど……アーチボルド様は違った。
その声は彼の耳にも届いたのだろう。
彼は足を止めると、令嬢達を冷たく見据えた。
「それは、我が公爵家への侮辱か?」
「……え」
「未来の妻――未来の公爵夫人を侮辱するという事は、未来の公爵家を侮辱する事と同義。それが分かっての発言か?」
「そ、そんな……っ! 私達はただ……っ!」
睨みつけられた令嬢が即座に否定する。
その悲鳴にも似た声は周囲の者達の視線を集めた。
「そ、そうですわ! 私達はアーチボルド様がディアナ様に騙され、利用されてしまうのではと案じて……!」
「利用される……? 何を言っているんだ、貴女達は」
アーチボルド様は怪訝そうに令嬢達を見る。
それから、私の肩を抱き寄せ……
「そんな事は重々承知だが。そもそも、貴族社会などそれが常識。その上で私は――」
アーチボルド様が私を見て僅かに微笑む。
こういう、他の女性にはしない優しい顔が、私は気に入っていた。
「利用されてもいいと思える女性を選んだだけだ」
「な……っ」
彼はそれから、周囲に視線を巡らせる。
それから、すっかり多くの者が集まっていた場で、彼は告げる。
「……と、いう訳だ。今後私達の関係に口を挟む者も、彼女を蔑む者も、公爵家は決して許しはしない。その事を……努々、忘れない事だな」
***
放課後。
私は公爵家の馬車で我が家まで送られながら、正面に座るアーチボルド様へ声を掛ける。
「よろしかったのですか。あのように公の場で必要以上に権威を示す事はあまりお好きではないでしょう」
「不要ではないと判断したまでだ」
アーチボルド様はそういうと私を真っ直ぐ見る。
そしてまた、優しく笑みを浮かべる。
「私は貴女が思っている以上には貴女を買っている。無論、貴女が私の地位と名声の為に近づいた事も理解した上で、だ」
「光栄な事ですわ。……けれど、アーチボルド様? 貴方はまだわかっていない事があります」
アーチボルド様は無言で私を見る。
『言ってみろ』と促されていると捉えた私は慎重に席を立ち、アーチボルド様の隣に座る。
「確かに私は家の利益の為に貴方に近づきました。けれど」
それから私は、彼の頬に手を伸ばし――その顔に口づけを落とす。
「――今は、それだけではありませんのよ?」
微かに、息を呑む気配があった。
それから遅れて、じわじわと赤くなっていく頬。
……彼がこんな顔をしてくれるのは、私相手にだけだろう。
それが堪らなく愛おしい。
私は満足しながら笑みを深めるのだった。
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