3-2. 分たれる三つの意志
三男のスサノオは、
三神の中で最も瑞々しく、
そして最も危うい生命力の塊であった。
彼はニギハヤヒの「自然との共生」を、
頭ではなく体で理解していた。
風とともに走り、
雷鳴とともに叫ぶ。
その力は強大であり、
ゆえに彼は自らの力を
制御できずに苦しんでいた。
「俺の力は、
守るためのものか、
壊すためのものか。
ニギハヤヒのじいさん、教えてくれよ!」
苦悩するスサノオに、
アマテラスは泰氏に唆されるまま、優しく、
しかし計算し尽くされた言葉をかけた。
「スサノオ。あなたのその力は、
この国を守るための尊い剣よ。
私が『光』として国を照らすなら、
あなたは私の『影』となり、
我らを妨げる者を排除してちょうだい」
アマテラスはスサノオを
愛している振りをしながら、
彼を自分の統治のための
「暴力装置」として手なずけ始めた。
泰氏から授けられた人
心掌握の術を使い、
スサノオの純粋な姉への
慕情を利用したのである。
「姉上のためなら、俺はどんな泥でも啜る。
嵐にでも、悪魔にでもなってやる」
スサノオの誓いは、後に自らを破滅させ、
師であるニギハヤヒを失脚させるための
「刃」へと変えられていく。
聖域・鳥見の地に、冷たい風が吹き抜ける。
ニギハヤヒは、自らの弟子たちが、
泰氏という不純物によって変質していく様を、
悲しげな瞳で見つめていた。
ツクヨミは、静寂の深淵へと潜り。
アマテラスは、鏡の中に偽りの正解を求め。
スサノオは、姉の命令に従って、
大地を切り裂く武力の化身となった。
泰氏は、アマテラスの背後で薄く笑っていた。
「間もなくです。
この列島の古い『共生』は終わり、
我らが設計する『管理神話』が始まる……」
ニギハヤヒの磐船が、
一瞬、警告のように鈍く光った。
共生の時代が終わりを告げ、
支配と策謀が渦巻く「神話の闇」が、
すぐそこまで迫っていた__。




