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4-3. 月の落日
嵐を纏ったスサノオが聖域に踏み込んだ時、
ニギハヤヒは磐船の前で静かに瞑想していた。
彼は、すべてを悟っていた。
ツクヨミが「師よ、逃げてください!」と
叫ぶのを制し、近づく破滅の足音を、
ただ慈悲深い瞳で待っていた。
「じいさん!
なぜ俺たちを裏切った!
なぜ姉上を傷つける!」
スサノオが振り下ろした天逆鉾が、
聖なる結界を粉砕する。
衝撃波が大地を割り、
ニギハヤヒが守り続けた薬草の園が、
清らかな泉が、一瞬にして泥にまみれた。
ニギハヤヒは反撃しなかった。
彼が持っている十種の神宝は、
すべて「生かす」ためのものであり、
「殺す」ためのプログラムは入っていない。
「スサノオよ……。
その怒りは君のものではない。
君の瞳に映る影は、
鏡が作った幻影なのだ」
「黙れ! 黙れっ!」
スサノオの連打が磐船を叩き、
銀の装甲が火花を散らす。
月の科学の粋を集めた船が、
原始的な暴力によって解体されていく。
その光景は、
知性が野性に屈した瞬間ではなく、
共生が支配に塗り潰された瞬間であった__。




