共生の時代
__すべてのものに、人は神の声を聞く。
吹き抜ける風の微かな震えに、
人は神の言葉を読み取った。
天から降り注ぐ雨の冷たさに、
大地の渇きを癒やす慈悲を感じた。
時に荒れ狂う嵐の咆哮には、
自然という巨大な意志の「おののき」を聞き、
自らの傲慢さを律した。
恵みと災いは、表裏一体。
そのすべては神の意思であり、
人はその巡り合わせを「運命」ではなく
「対話」として受け入れていた。
石にも、神は宿る。
路傍に転がる無名の石にさえ、
数万年の月日を耐え抜いた沈黙の霊が
棲んでいることを、人々は知っていた。
木にも、聖霊は棲む。
空を突く巨木の枝葉が揺れるたび、
人々はその影に潜む古い記憶を敬い、
そっと手を合わせた。
小さな昆虫の羽ばたき、
地を這う蛇の滑らかな曲線。
その一挙手一投足に、
神の精密な摂理が宿っている。
人はそれらを「下等な生き物」として
見下すことはなかった。
むしろ、自分たちと同じく、
この大いなる命乃輪を
構成する不可欠なピースとして敬った。
人は、自然に「生かされていた」のだ。
その恩寵におのずと頭を下げ、
天と地、または海、山、川……。
そこにあるすべてのものを、
人々は「祭り」という名の感謝で包み込んだ。
そこには「支配」という概念など、
塵ほども存在しなかった。
あるのは、巡る季節への深い畏怖と、
目に見えぬ巨大な力への
無条件の信頼だけである。
人々は夜空を見上げ、
星の配置の微かな変化で種まきの時を知った。
それは計算ではなく、
宇宙との共鳴であった。
月の満ち欠けに合わせて、
己の血の疼きを感じ取り、
命の誕生を祝った。
この列島は、宇宙の呼吸と完全に同期する、
剥き出しの聖域であった。
奪い合う必要はなく、支配される必要もない。
ただ、そこに「在る」だけで満たされていた、
光と闇が等しく尊ばれた、奇跡の時代。
しかし、その静かなる聖域の境界線に、
いま、歴史を「所有」しようとする
新たな意志が歩みを寄せていた__。




