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夢幻の森に抱かれて 第一話


 私は貴重な仲間を失ったその瞬間、我が目を疑った。この未踏破の森には、やはり蛮族テュグ族が実在したのだと、そう思えた。この巨大な森林に踏み込んで三日目(奇しくもその日は満月であった)、突如として現れた黒い影のような四つ足の獣人に、自分の部隊に属する若者四人が殺害された。しかし、実際に自分の目でそのおぞましい姿を確認するまで、その部族の存在自体を疑っていたのも確かだ。テュグ族を名乗るその恐るべき獣人たちは獲物の肉体を喰い尽くしてしまうと、一時その姿を消した。彼らはどんな生物にでもその牙を向けるのかもしれないし、犠牲者をあえて四人にとどめたのは、『この地に入るな』との警告のためなのかもしれない。


 私はそれでも味方を励ましながら、その森林の奥へと歩を進めた。もとより、我が旅には成功による栄誉か破滅しかない。この未開の地を踏破してみせると宣言して祖国を出発してきた手前、このくらいの犠牲で引き上げるわけにはいかなかった。深い茂みを両手でかき分けながらの行進だった。無限に続くとも思えるこの巨大な森林には、他の地方では見ることのできない珍しい植物が多く存在していた。ラフレシア、ホオズキ、珍種の蘭、それに野生のヤシなどである。先ほど突然に起こった悲劇は、これらの珍しい植物の発見に意識を奪われていたためかもしれない。もしかすると、テュグ族はすでにずいぶん前に我々を発見していて、隙ができるまでその後をつけていたのかもしれない。先ほど殺された四人の仲間は、いずれも植物の採集に力を入れていた隊員であった。足元の貴重な植物に目を取られる余り、敵の姿を認めるのが遅れてしまったのだろう。部隊に犠牲者が出たことは遺憾だったが、このプロジェクトの責任者としては、ここでこの冒険を諦めることは到底できなかった。


 この森に踏み込んで四日目、我々はこの地方の最後の集落にたどり着いた。この監視所には、わずか四人の原住民しか生活していなかった。しかし、この地方では貴重なる味方である。通訳を通して、彼らと対話してみたところでは、どうやら、この地にもテュグ族が現れたらしい。その際、森番の中年男性が奴らに殺害されてしまったという。集落の見張りたちは長年ここに暮らしているが、あのような獣人を見たのは初めてだと述べた。それは信じがたい証言であった。その外観的な特徴から、我々の部隊を襲った獣人と同一犯だと判断できた。祖国の学者たちの話によれば、これまでこの地方に送り込まれた精鋭部隊の多くが奴らの卑劣な攻撃の犠牲になっている。テュグ族とは、いったいいつ頃この地方に生まれたのだろうか? 森番の男性が殺された現場に案内された。現場の地面は、多くの血にまみれていた。森番が激しく抵抗した様子も見て取れた。しかし、その抵抗むなしく彼の上半身はすっかり喰い尽くされていた。その現場では奇妙な品を発見することになる。我々の部隊章とよく似た銀色の勲章と見覚えのある二丁の短銃である。この武器にしても、我々の部隊員が所持しているものと酷似している。しかし、我々は全員が自分用の短銃と勲章を装備していた。つまり、これは我々が落としたものではない。


 この地の踏破は諦めて、引き上げようという臆病な意見も出された。私は強い口調でそのような弱気を叱った。このくらいの不安感で引き上げていたら、栄光など決して掴めないと、そう訴えた。かつて名を馳せた、冒険家コロンブスやマゼランにしても、その冒険の中で多くの犠牲を払ったはずだが、彼らは決して諦めなかった。諦めなかったからこそ、その結果として、新大陸発見の栄誉を掴むことができたのだ。私は次第に弱気になっていく部隊員たちを、そのように励ました。しかし、後に起こった悲惨な結末から思えば、私の判断は完全に間違っていた。


 僅かな食料と水を補給すると、我々はその集落を出発してさらに奥地へと進むことにした。五日目の昼頃、我々の部隊は密林の奥にそっと拡がる美しい湖に到達した。辺りには濃い霧が立ち込めていて幻想的な雰囲気を作り出していた。このような巨大な湖の存在は、各都市で発売されているどの地図にも掲載されていないはずだ。新発見とみていいだろう。人類が長年にわたり少しずつ創り上げてきた地図に、新たな地域が書き込まれることになるのだ。私はすっかり興奮していた。自分とその部隊の名前が、人類の新たな歴史として刻まれる時が来るのだ。比較的安全に思えた湖の南方の一角に、我々はキャンプを張ることにした。そこからは木々の合間から湖の全貌が一望にできた。多くの隊員がその荘厳な美しさに見惚れた。我々は密林のどこかに潜む敵には見つからぬよう、素早く測量を済ませた。


 その夜は、ここまで到達できた十数名の仲間と共に、リュックの中に僅かに残っていたワインを飲んで、この偉業の祝福をした。肉やスナック菓子を分け合って歌い騒いだ。おそらく数日後には、森の入り口にまで無事に戻ることができよう。そうすれば、我々の為した偉大な冒険を、祖国の大衆が知ることになるのだ。国家からの表彰も行われるだろう。この頃には、獣人テュグ族の存在のことなど、頭から消え去っていた。ああ、しかし、我々はこの時、とんでもない間違いを犯していたのだ。本当に愚かだ。今となっては、もはや、取り返しのつかないことだが、自分の意識が少しでも鮮明であるうちに、このノートにその結末を書き留めるつもりである……。


ここまで読んで頂き、ありがとうございます。二話で完結します。よろしくお願いします。

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