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母・セリア編(視点エピソード)

――私にとって、世界で一番大切なのはカナメ。

それ以外は、全部、どうでもいい。


王国? 家名? 名誉?

そんなもの、あの子の笑顔一つに比べれば、塵にも値しないわ。


(ああ……今日も可愛い顔で眠っているのかしら)

朝、私は鏡の前で髪を整えながら、思わず頬を緩める。

腰まで流れる白金の髪、女神と讃えられる美貌。

それを維持するのも、ただ一つ――カナメに「綺麗だ」と言ってほしいから。


「……昨日は、ぎゅってしてくれなかったわね」

ぽつりと呟き、赤い唇を噛む。

あの子は最近、少し私を避けている気がする。

――エリシアのせいね。

あの無機質な顔のメイド、隙あらばカナメを“独占”しようとしている。

私の可愛い子を……あんな無表情人形に渡すものですか。



私はセリア=フォン=レクスハルト。

王国の名門、公爵家の血を引き、王妃さえ一目置く大貴族の令嬢。

そのうえ、魔導師としての才能は歴代最高と謳われた。

――そして今や、レクスハルト侯爵家の当主の妻。


けれど、そんな肩書きはどうでもいい。

私が女として、母として、誇れるのはただ一つ。

カナメをこの世界に生み落としたこと。

……あの瞬間、すべての幸福が約束されたと確信した。


初めて抱いたとき、あの小さな指で私の髪を掴んで――

(ああ、この子は、私の全てだ)

そう、心の底から思った。


だから、私は決めたの。

この子を、何よりも愛し、何よりも守り抜く。

例え、神を敵に回しても。



……カナメは、少し変わった子。

無邪気で優しくて、でも――どこか諦めた目をしている。

子どもの頃からそうだったわ。

何をしても「……別に」と、どこか達観している顔をする。

それが、たまらなく愛おしい。

あの死んだ魚みたいな目を、私だけが輝かせてあげたい。


私はいつも考えている。

どうすれば、もっと甘えてくれるのか。

どうすれば、「母さん、大好き」って言ってくれるのか。


――だけど最近、あの子は成長して、背も伸びて……

(女の子たちの視線が、カナメに集まってる)

笑わせるわ。

私の可愛い子を、欲しがるなんて。

許さない。

どんな女も、近づけない。

だって――カナメは、私のものだもの。



私は、裏で動いている。

王都にいる全ての令嬢候補を調べ、危険な芽を摘む。

「偶然」貴族令嬢の縁談話が消えるのは、誰のおかげかしら?

王族の婚姻計画を潰すために、いくつ王宮を動かしたことか。

(あの王妃、本当にしつこかったわね。……でも今頃、幽閉されてるでしょう)


カナメの未来を邪魔するものは、全部――消す。

手を汚すことに、迷いはない。

だって、母親でしょう?

自分の子を守るために、世界を殺すのは当然じゃない?



「……カナメ、起きたかしら」

私は廊下を歩き、息子の部屋へ向かう。

扉を開けた瞬間――


「……ん、母さん?」

ベッドから顔を出したカナメ。

乱れた黒髪、まだ眠たげな死んだ魚の目。

……かわいい。

世界で一番、愛しい。


「おはよう、カナメ♡」

私はベッドに腰掛け、そっと頬を撫でる。

指先に伝わる柔らかな肌。

――熱があるわけじゃないのに、私の鼓動が早くなる。


「母さん……距離、近い」

「近くていいの。カナメ、母さんに“ぎゅ”ってして?」

「いや、恥ずかしいし……」

「じゃあ、母さんからするわね♡」

私は迷わず、カナメを抱きしめた。

胸に感じる温もり。

ああ、このまま――時間が止まればいい。


「……母さん、苦しい……」

「ふふ、ごめんなさい。大丈夫、すぐ終わるから」

――終わらないわよ。



廊下の影から、視線を感じる。

……エリシア。

冷たい目で、私を見ている。

微笑みながら、私は彼女に視線を返す。

――宣戦布告よ。

カナメを渡すつもりはない。

この愛は、誰にも負けない。


(カナメ。今日も、母さんだけを見ていてね)

私は、頬にキスを落としながら、心の中でそう囁いた。

――世界で一番大切な私の子。

あなたの未来は、私がすべて決めてあげるわ。

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