入学初日から修羅場なんですけど!?
――王立魔導学院、入学初日。
「……だる」
俺は馬車の中で、小さくため息をついた。
外では、豪華な馬車や飛行船から降りてくる貴族の子息たち。
王族候補、魔導師志望、騎士団エリート。
(いや、こんな場違いなところに俺が……って、場違いじゃねえのか)
そう――俺、カナメ・アルグレア。
英雄と女神の血を引く“最強貴族の嫡男”でありながら、目標ゼロ・やる気ゼロの廃スペック男子。
黒髪、童顔、背は平均。でも目が死んでるせいで「やる気ないイケメン」扱いらしい。
……褒め言葉じゃないからな?
⸻
「カナメ♡ ほら、行くわよ」
降りた瞬間、姉・リシアが腕を絡めてきた。
制服が妙に似合ってて、男どもが一斉に振り向くレベル。
(やめろ、目立つだろ……)
「お姉ちゃんと一緒の学院、楽しみね♡」
「……俺は楽しくない」
「ふふっ、その死んだ目……たまらない♡」
「やめろ、変な趣味!」
さらに、後ろから銀髪のメイド――エリシア。
「ご主人様、今日からも護衛します」
「お前、メイド服で学院来るなよ!」
「学院の制服より、こちらのほうが“動きやすい”ので」
「いや、何する気!?」
⸻
入学式。
講堂に整列した新入生のざわめきが、俺の耳に入る。
「見ろ、あれが“アルグレア家”の嫡男だ」
「英雄の血を継ぐ最強の家系だろ……」
「でも、目死んでない?」
うるせえ。事実だけど、うるせえ。
(頼むから放っといてくれ……)
――と思った矢先、隣から声がした。
「昨日はありがとう」
振り向くと、昨日助けた金髪お嬢様――アリシア・フォン・レインハルト。
「私、アリシア。よろしくね」
にこっと笑って手を差し出す。
……おいやめろ、その笑顔。
(あー、嫌な予感しかしねえ)
「……カナメだ」
仕方なく握手した瞬間――脳内にまた浮かんだ。
【特殊素材:アリシア・フォン・レインハルト】
(……いや、なんで人間が素材扱い!?)
⸻
「……カナメ」
真横から、姉の声が凍りついたみたいに冷たく響く。
「ご主人様、これは……どういうことですか」
エリシアの手のナイフが“キィィィィ”って鳴った。
やめろ、学院初日から血の雨とかやめろ!
「いや、違う、誤解だ!」
必死に弁明してると――
「おい、英雄様のボンボン!」
講堂の奥から、筋肉ゴリラ系の男子が立ち上がった。
「最強家系だからって調子に乗るなよ! 実力見せてみろ!」
ざわめく新入生。
「来たぞ……下剋上イベントだ」
「でも相手、英雄の息子だぞ……」
(あー……これ、やばいやつだ)
スルーしようとしたが、ゴリラ野郎は勝手に剣を抜いた。
「臆病者か? ビビってんのか?」
――はい、死亡フラグ立ちました。
⸻
結果?
俺の圧勝。
「ストーンブレード+風石=衝撃剣テンペストブレード」
一撃でゴリラ、壁に埋まる。
「う、嘘だろ……」
「な、何だあの武器……」
「無詠唱であれを……!?」
……講堂、大パニック。
教師が走ってきて、俺の腕を掴む。
「アルグレア君、やりすぎだ!」
「いや、俺、悪くないだろ!?」
姉は「さすがカナメ♡」って抱きついてくるし、エリシアは「ご主人様……最高です」ってナイフ握ってるし、アリシアは目を輝かせてるし――
……俺の平和な学院ライフ、入学一時間で終了。
(第6話へ続く)