学院大混乱、修羅場トリプル合戦
鐘の音が鳴り響く。
焦げた匂いと、血の鉄臭さが混ざる空気。
――俺は心の底から思った。
(……ふざけんな。ゴロゴロデー返せよ)
俺の理想は、柔らかいベッドと、読まれない本を抱えてゴロゴロすること。
でも現実は――黒衣の集団が押し寄せ、魔力弾が飛び交う戦場のど真ん中だった。
「カナメ、お姉ちゃんから離れないで!」
「ご主人様、絶対に私の後ろに」
リシアは剣を抜き、エリシアはナイフを構え――その二人が同時に俺を引っ張る。
いや、左右から。腕がちぎれる!
「ちょ、痛っ、肩外れるって!戦場で修羅場すんな!」
「カナメはお姉ちゃんのもの♡」
「ご主人様は私だけを見ていればいい」
「お前ら敵見ろよ!!」
そう叫んだ瞬間、瓦礫を吹き飛ばして黒鎧の男が現れた。
「……楽しいな、坊ちゃん。奪い合われる気分はどうだ?」
「お前も参加すんな!」
笑う黒鎧の足元で、黒い影が膨張する。
牙を剥いた獣――“破壊獣”が、咆哮と共に飛びかかってきた。
リシアとエリシアが同時に前へ――だが俺が手を挙げて止めた。
「待て。……もう我慢できねえ」
足元に光の魔法陣が幾重にも展開する。
俺の脳裏で、素材が組み上がっていく。
【素材:黒鎧の槍+魔核+雷素+学院結界片】
→ 《雷裂槍》生成
黒光りする槍が俺の手に生まれた瞬間、周囲の空気が震えた。
「おいおい……何だ、その魔力は……!?」
侵入者どもが息を呑む。
「行け」
槍を一閃――
次の瞬間、轟音と共に雷が奔り、破壊獣を粉砕した。
黒衣の戦士たちが、数十人単位で吹き飛ぶ。
「ご主人様、やはり最強……」
「カナメ、かっこよすぎ♡」
「いや、褒めるな!プレッシャーになるから!」
その時だった。
静寂を切り裂く声が響く。
「……お兄様に触れるな」
扉の奥から現れたのは――白銀の髪を揺らす少女。
リリアナ・フォン・ヴァルディアス。俺の妹。
「リリアナ!? なんでここに……」
「当然です。お兄様が危ないなら、どこにだって行きます」
――その瞳は、まっすぐ俺だけを見ていた。
戦場でも、血の海でも、その視線は狂おしいほど純粋で。
「お兄様を傷つける全てを、私は許しません」
彼女が杖を振った瞬間、世界が白く染まる。
轟音、爆裂、そして光。
――学院の結界を越える超高位魔法《終焉の白閃》
侵入者の半数が、一瞬で蒸発した。
残りも怯え、後退する。
「な、何だあのガキ……!」
「怪物か!?」
いや、そう思うよな。俺も思ってる。
妹が怖い。怖いけど――
(いや、助かったのは事実だし……)
「リリアナ、ありがとう。けど、危ないから――」
「お兄様が私を必要とする限り、私は戦います」
(いや、必要とか言ってねえ!!)
その瞬間、リシアとエリシアが同時に前へ出た。
「カナメはお姉ちゃんが守る!」
「ご主人様は私だけを――」
「お兄様は、私のものです」
……あ、これ、マジでやばいやつだ。
三人の間に、見えない稲妻が走った。
しかも戦場ど真ん中で。
「おい、やめろ!敵まだ残って――」
ドォン!
残党の魔術が飛んできて、俺の目の前で爆ぜた。
煙が晴れると、三人とも無傷――むしろ怒りMAX。
「……お兄様を狙った」
「……ご主人様に手を出した」
「……カナメに傷をつけようとした」
三人が同時に振り返る。
――その殺気で、残党全員が絶叫した。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」
いや、お前らより俺の方が怖いんだが!?
どこのラブコメだよここ!?
だが、事態はさらに悪化する。
学院の教師と生徒たちが駆け込んできた瞬間、全員が硬直。
「な、何だこの光景……」
「公爵家の姉妹と専属メイドが……殺気で空気が歪んでる……」
「その真ん中で、普通に立ってる男子……誰!?」
(やめろ、その目!英雄扱いすんな!俺、ゴロゴロしたいだけなんだよ!)
その時――遠くで、不穏な声が響いた。
「……失敗か。いや、まだ終わりじゃない」
黒鎧の男が、血を吐きながら呟く。
「坊ちゃん……次は、“父親”ごと斬ってやる」
その言葉に、心臓が跳ねた。
――親父?
まさか、親父と黒の牙……繋がってるのか?
疑問が渦巻く中、黒鎧は瘴気の霧と共に姿を消した。
残されたのは、学院を半壊させた戦場と、俺を巡る修羅場、そして――
静かに牙を研ぐ陰謀の影。
「お兄様、今夜は一緒にいてくれますよね?」
「カナメ、もちろん部屋はお姉ちゃんとでしょ♡」
「ご主人様、今夜は眠らせません」
「――ゴロゴロデー、絶望的に遠のいたな」




