修羅場×ゴロゴロ死亡フラグ祭り
夜空が裂けた。
学院の結界は、すでに役割を果たせず、瓦礫と共に魔力の火花を散らして崩れ落ちる。
外から押し寄せる黒衣の軍勢。内部に潜んでいた内通者。
そして、混乱に乗じて現れた魔獣。
――地獄絵図だ。
「……はあ、やっぱりこうなるのかよ」
俺、カナメ・フォン・ヴァルディアス。
平和なゴロゴロライフを夢見たはずなのに、目の前に広がってるのは修羅場オンパレード。
黒の牙の幹部、破壊獣、そして――。
「お兄様♡」
「カナメは私が守る」
「ご主人様、隙を見せたら殺します」
……修羅場その2。
姉・リシア、メイド・エリシア、そして妹リリアナ。
三人の殺気が交錯するだけで、空気が凍った。
(俺のゴロゴロデー、完全に死亡確認)
「貴様ら、全員まとめて――消えろ!」
黒鎧の男が剣を振り下ろす。
大地を割るほどの一撃。魔力の奔流が波のように押し寄せた。
「下がって、カナメ!!」
リシアが剣を構え、光の壁を展開。
だが防ぎきれない。黒鎧の魔力は、完全に規格外だった。
「チッ……間に合え!」
俺は即座に合成を走らせる。
床、瓦礫、敵の剣片、そして――リシアの防御魔法の欠片。
『無限合成』
【素材選択:硬質石材+魔力片+金属片】
→ “結界拡張盾”生成
俺の手に巨大な盾が現れ、地面に突き立った瞬間――
轟音と共に衝撃波が弾かれ、瓦礫が吹き飛んだ。
「……セーフ」
「カナメ♡ やっぱり頼りになるわね」
「ご主人様、最高です」
(いや、褒めてる場合じゃない!)
――その頃、別の場所。
学院の上空。
蒼い月を背に、男が立っていた。
ヴァルディアス公爵、剣聖と呼ばれる男。
黒の牙の侵攻を見下ろしながら、静かに剣を抜く。
「……よもや、ここまで派手にやるか。黒の牙」
その目に宿るのは、怒りではなく――冷たい決意。
彼はこの戦いを“仕組んだ側”でありながら、息子に本物の脅威を見せぬために、
最後の一線は決して譲らない。
「カナメ……お前の力を、父は見ている」
「さあ、お兄様……全部壊して♡」
リリアナが静かに呟き、魔力を解き放つ。
白銀の髪が宙に舞い、漆黒の魔方陣が展開された。
「やめろリリアナ! お前、その魔法――」
「“神滅の序曲”。お兄様に触れた者は、全部、消す」
……バカか、この妹!
そんな大規模魔法、学院ごと吹き飛ばす気か!?
「リリアナ、落ち着け!!」
リシアが叫び、エリシアが影のように動く。
だが――三人が睨み合った瞬間、場の殺気がさらに跳ね上がった。
「カナメは私の弟よ!」
「ご主人様は、私だけのもの」
「お兄様は、私の世界そのもの」
(やばい、これ……戦場のど真ん中で恋愛バトル始まってる!?)
「――全員、やめろおおおおおおおおッ!!」
俺は吠えた。
無数の魔法陣を足元に展開し、素材を一気に吸収。
敵の魔力、武器、建物の残骸、空気中の元素――。
【超合成開始】
→ “創世兵装”生成
光が爆ぜた。
俺の手に収まったのは、漆黒と蒼の二重螺旋を描く剣。
空気が震え、空間そのものが軋む。
「……全員、いい加減にしろ」
次の瞬間――
剣を振るうと、黒の牙の軍勢がまとめて吹き飛んだ。
建物の残骸すら、光に呑まれて霧散する。
沈黙。
……やりすぎた。
「お兄様……素敵」
「カナメ……最高よ♡」
「ご主人様、愛してます」
(だから、なんでこの状況で告白ラッシュ!?)
だが――終わりじゃない。
「……なるほど。面白い」
黒鎧の男が、崩れた瓦礫の上で立ち上がる。
その背後で、さらに暗い影が蠢いた。
「黒の牙の“本当の牙”を見せてやろう」
そして、空に浮かぶ赤い月の下。
ヴァルディアス公爵が低く呟いた。
「――ここからだ」




