「学院崩壊!? 剣聖vs王国、そして家族バトルロイヤル」
学院の空は――赤黒く染まっていた。
魔力の奔流が、天を裂き、大地を軋ませる。
空に浮かぶ魔法陣は、すでに人類の限界を超えた術式。
ただ一人の女の愛の暴走が、王都を呑み込もうとしていた。
「……お母さん、本気でやる気?」
リシアの声が震える。
――だが、その瞳には、戦う覚悟が宿っていた。
「ええ、もちろん♡
カナメを奪おうとする、この学院ごと……消し飛ばすわ」
ルナリア・ヴァルディアス。
世界最強の大賢者。
その笑みは、慈愛で満ちて――それでいて、狂気だった。
「お兄様は、誰のものでもありません」
リリアナが一歩前に出る。
白銀の髪を揺らし、その瞳は氷よりも冷たい。
(ママだろうと、姉だろうと、メイドだろうと――)
(お兄様は、私のもの)
「ご主人様を危険に晒した学院……消えて当然ですね」
エリシアの声は低く、冷ややか。
腰のナイフが鈍く光り、血を求めるように震える。
――そして、姉。
「ふざけないで。カナメは、私が守る」
漆黒の剣に、青白い魔力が灯る。
リシア・フォン・ヴァルディアス。
学院主席、剣魔の天才。
その全魔力を解放し――母に剣を向けた。
俺は――
ベッドの上で、両手を合わせて祈っていた。
(どうか、俺のゴロゴロデーを返してください……!)
「おい、やめろ! 家族で殺し合いとかやめろ!」
俺の叫びは、虚しく虚空に消える。
なぜなら、戦場の中心は――
完全に修羅場だからだ。
「リシア。あなた、本気で私に逆らうの?」
「母さんがカナメを奪うなら、私は剣を取る!」
「ふふ……面白いわ」
ルナリアの唇が、艶めかしく歪む。
――瞬間、世界が凍った。
床を覆う氷。
天井から垂れる氷柱。
“絶対零度結界”
学院の空間そのものが、白銀の檻と化す。
「っ……!」
姉が歯を食いしばる。
――その一瞬の隙を、銀髪の影が突いた。
「リシア様、失礼します」
エリシアのナイフが、音もなく姉の喉を狙う。
――しかし。
「させるかァァァ!!」
轟音と共に、蒼炎の壁が立ち上がった。
リリアナ。
その小さな身体から放たれる魔力は、灼熱の海。
氷を蒸発させ、空気を震わせる。
「お兄様に触れるな。誰も」
その声は――狂気を孕んだ天使の囁き。
「ちょ、待て待て待て! お前ら全員落ち着け!」
俺は叫ぶ。
でも、誰も聞いてない。
姉は炎を裂き、メイドは氷を避け、母は笑いながら世界を崩していく。
――その時だった。
ゴォォォォォォン!
重低音が、大地を揺らした。
学院の結界が、完全に砕け散る。
そして、影が差す。
空を覆うのは――王国軍の旗。
「……はぁ!? 王国軍!?」
俺は目を見開いた。
だが、それ以上に驚いたのは、次の瞬間。
「――下がれ、兵ども」
その声は、雷鳴のように響く。
学院の大門を粉砕して現れた男。
その姿に、俺は息を呑んだ。
漆黒のマント、背に伝説の剣。
圧倒的な覇気と、底なしの強さ。
その男は――俺の父。
「父さん……!?」
「遅れてすまない、カナメ」
ヴァルディアス公爵、剣聖。
彼は一歩、前に出る。
その眼差しは、娘にも、妻にも、王国にも、怯まない。
「――ルナリア」
「……あら、あなたも来たの♡」
「学院を潰す気なら、止めねばなるまい」
「ふふ……止められるの?」
空気が――張り裂けた。
次の瞬間、剣と魔法がぶつかり、世界が閃光に包まれる。
――学院崩壊戦争、開幕。
(ゴロゴロデー? そんなもの、幻想だったんだな……)




