盗賊団と、俺のやる気ゼロ戦闘
――「ご主人様、出陣の準備が整いました」
そんなエリシアの声で、俺の心は死んだ。
いや、何その戦国武将に出撃命令出すノリ。
「いやいやいや、俺、まだ行くって言ってないから!」
「村が襲撃されています。ご主人様が放置するおつもりなら……」
エリシアがゆっくりナイフを舐めた。
「私が全部“片付けます”」
「やめろ物騒な言い方!!」
父が椅子にふんぞり返って笑う。
「よい機会だ、カナメ。お前の力を試すときだ」
「いや、試すって……俺、異世界初心者なんだが!?」
「ならば慣れるのだ。心配はいらん、エリシアがいる」
いや、そのエリシアが一番怖いんだって!
さらに追い打ちをかける声。
「カナメ、気をつけてね♡」
母が笑顔で手を振り、姉リシアが俺の腕に絡みつく。
「お姉ちゃんも一緒に行くわ♡ カナメが心配だから」
「いや、もう護衛いっぱいいるし……ちょ、胸! 当たってる! 離れろ!」
……こうして俺は、嫌々ながら屋敷を出発することになった。
護衛? もちろんエリシア。あと姉。
(あれ、これ完全に死亡フラグじゃね?)
⸻
現場に着いたのは一時間後。
煙が上がり、村の一部が燃えていた。
泣き叫ぶ子ども、必死に逃げる村人。
そして――盗賊団の野郎どもが暴れていた。
「ちっ、なんだこの数……」
三十人はいる。しかも武器持ち。
「カナメ、危ないから後ろに――」
姉が言いかけた瞬間、エリシアが一歩前へ出た。
「ご主人様に近づく者は……全員、殺します」
「いやいやいや、殺さなくていいから!」
「なら、捕縛します。――生きているうちに」
「それも怖い!」
盗賊の一人が俺たちを見て叫ぶ。
「おい! ガキと女だぞ! まとめて攫え!」
その瞬間、エリシアが消えた。
――いや、本当に。
風みたいに消えて、次に見えた時には――盗賊三人が血を吹いて倒れてた。
「ひっ……!」
盗賊たちが一斉に後ずさる。
エリシアは無表情でナイフを振った。
刃についた血を、淡々と拭いながら。
「ご主人様、どうします?」
「いや、俺に聞くな!?」
ここで俺は悟った。
(このままだと、全部エリシアが片付ける)
それはそれで楽だけど……いや、待て。
こんな状況、放っておけるわけないだろ!
「……はあ、しょうがねえ」
俺は地面に転がっていた石と、盗賊の折れた剣を拾った。
そして――
『無限合成、起動』
脳内に光が走り、俺の手の中で素材が融合していく。
【素材:折れた剣+硬石 → 強化剣生成】
「おおお……!」
シンプルだが、折れた剣が新品同然に復活し、刃は黒く硬質に変わっていた。
「よし……行くぞ!」
――俺は盗賊の群れに突っ込んだ。
結果?
三十秒で終了。
盗賊団、全滅。
俺が剣を振るうたび、刃が爆ぜて衝撃波を生み、盗賊どもがまとめて吹っ飛んだ。
「な……なんだ、今の……」
姉がぽかんと呟き、エリシアが膝をついて俺を見上げた。
「……ご主人様、やはり最強です」
「やめろ、そういうこと言うな! プレッシャーになる!」
俺は剣を肩に担ぎながら、ため息をついた。
「……やっぱり、やる気出したら一瞬なんだよなあ」
(これ、絶対ろくなことにならねえ)
――そして、最後の盗賊が息絶える直前、俺に向かって吐き捨てた。
「……俺たちは……“黒の牙”の下っ端だ……本隊が……動いてる……」
「黒の牙……?」
嫌な予感が背筋を走った。
エリシアが、血塗れのナイフを舐めながら微笑む。
「ご主人様。敵はまだまだ、たくさんいます」
「やめろ、楽しそうに言うな!」
こうして、俺の『平和でダラけたい』という夢は、また遠のいていった。
(第4話へ続く)
今日はここまで、整骨院行く、腰が…