修羅場×修羅場×修羅場、妹覚醒
――一瞬、時間が止まったように感じた。
破壊獣の咆哮で床が砕け、炎と瓦礫が飛び散る混乱の中――
その少女だけが、静かに、冷たく、世界を支配していた。
長い銀髪が月光を受けて煌めく。
深い蒼の瞳は、凍るような静謐を湛えて――けれど、その奥に、狂気の焔が燃えていた。
「……リリアナ……?」
呟いた瞬間、俺の背筋が震えた。
それは懐かしさでも恐怖でもなく――危険信号だ。
なぜなら、この妹。外見は氷の魔女でも、内面は――兄依存の怪物だから。
「お兄様に触れる者……全員、殺します」
リリアナの声は、淡々としていて、それが逆に恐ろしかった。
次の瞬間、空気が変わった。
青白い魔力が奔り、空間そのものが軋む。
学院の広間を覆う炎と瘴気が、一瞬で凍り付いたのだ。
「なっ……!? 氷結の超広域詠唱を、無詠唱で……!?」
敵の黒衣の魔導士が悲鳴を上げる。
リリアナが足元に魔方陣を展開する。
その規模は、学院のホール全体を覆うほど巨大だった。
「《氷葬結界》」
淡々と呟き、指を鳴らす。
――瞬間、敵が十人まとめて凍り付いた。
叫ぶ間もなく、氷の彫像と化し、バラバラに砕け散る。
(え……やばくない? これ、姉ちゃんとエリシアより強いんじゃ……)
「……カナメ、下がって」
リシアの声が低く、剣に黒炎が宿る。
その横で、エリシアが無表情のままナイフを逆手に構える。
二人の殺気が――リリアナに向いていた。
「……久しぶりですね、お姉様。エリシア」
リリアナは冷たく微笑む。
「でも、もうあなたたちの役目は終わり。これからお兄様を守るのは、わたし」
「ふざけないで」
リシアが一歩踏み出す。
「カナメは、私が守る。昔からずっと」
「違います。お兄様に相応しいのは、わたし」
リリアナの声は静か。でも、その奥に炎を感じた。
「お姉様も、あなたも、所詮は“過去の存在”。わたしがお兄様の未来」
「……」
エリシアは何も言わない。ただ、殺気がさらに濃くなった。
ナイフの刃先がわずかに震え、凍り付く音を立てる。
(おいおいおいおい……やめろよ、ここ戦場だぞ!? 敵まだいっぱいいるし!)
「リリアナ。話はあとで――」
「お兄様は黙っていてください」
冷たく遮られた。
その瞳が、俺を見つめた瞬間、心臓がドクンと跳ねる。
(やばい。この目、完全に“ヤンデレモード”……!)
「お兄様は、わたしだけを見ていてくれればいい」
リリアナが一歩、こちらへ。
その瞬間、リシアとエリシアが同時に動いた。
「――カナメに近づくな!」
「ご主人様に触れるな」
黒炎と銀光が、青氷にぶつかり――轟音が広間を裂いた。
剣と魔法、ナイフと氷槍が交錯する。
空気が震え、瓦礫が浮かぶほどの衝撃。
学院の床が割れ、壁が吹き飛ぶ。
(やめろバカどもォォォ!! 敵より内輪揉めの方がやばいじゃねえか!!)
――そのとき。
黒鎧の男が、不敵に笑った。
「ハハッ……愉快だな、公爵家の愛憎劇ってやつは!」
彼の背後で、破壊獣がさらに瘴気を吐き出す。
床下から這い出す影。黒の牙の増援だ。
(やば……このままだと、全員まとめて終わる……!)
「……はあ」
俺は深く息を吐いた。
そして、ゆっくりと槍を――いや、剣に変わったそれを握りしめる。
『無限合成』――再起動。
【素材:氷素+黒炎素+銀刃+魔核+結界片】
→ “三相魔導兵装”生成
――光が爆ぜた。
俺の手に、槍でも剣でもない、新たな武器が生まれる。
長柄の刀身が、氷の紋と炎の刻印、そして風の軌跡を纏って輝く。
「――お前ら、黙れ」
俺は呟き、武器を振り抜いた。
轟音と共に、暴風が広間を薙ぎ、氷と炎の波が走る。
敵も、瓦礫も、そして――姉とメイドと妹すら、一瞬押し返した。
静寂。
三人が、俺を見ていた。
その目に、驚愕と、歓喜と、そして――狂気が混じって。
「……やっぱり、カナメは……最高♡」
リシアが恍惚と笑う。
「ご主人様、やはり世界の頂点に立つべきです」
エリシアが膝をつく。
「……やっぱり、お兄様は……わたしのもの」
リリアナの声は震えていた。狂おしいほどに。
――その瞬間、俺のゴロゴロデーの夢が、音を立てて崩れた気がした。
(……ほんと、俺、なんで生きてるんだろうな)
――そして、戦場の奥で、黒鎧の男が笑う。
「面白くなってきたじゃねえか、公爵家。……あの方も、お前に興味を持つだろうよ」
伏線を残し、幕は閉じる――次回、さらなる地獄へ。