無限合成、学院戦線!カナメ、初の本気
鐘の音は、もはや絶望の合図にしか聞こえなかった。
窓の外――夜空を裂くように黒煙が立ち上り、学院を囲む黒衣の軍勢。
空気が震え、地面が唸る。
魔力の奔流が結界を削り、塔の上に浮かぶ紋章がひび割れていた。
(……嘘だろ。結界、あれ……学院最強クラスじゃなかったのか?)
俺が呆然とする間にも、轟音が響く。
炎が弾け、悲鳴が遠くで混ざる。
これは、ただの襲撃じゃない。
――戦争だ。
「ご主人様、下がってください」
冷たい声が響く。
銀髪のメイド――エリシアはすでに腰のナイフを抜き、全身から凶気を滲ませていた。
一歩踏み出すたび、黒衣の死神のような威圧感が広がる。
「カナメ、絶対に離れないで。守るのは姉ちゃんよ」
リシアも剣を抜き、黒い魔力を纏う侵入者を睨みつける。
その顔は凛々しい――でも、その奥にある狂気めいた独占欲を、俺は知っている。
「……おい、二人とも、落ち着け」
「落ち着いているわ。だから、全部殺す」
「ご主人様を傷つける者は――存在してはいけません」
「だから怖いんだよお前ら!!」
俺が必死に突っ込んでいる間に、寮の扉が吹き飛んだ。
轟音と共に、黒衣の戦士たちが雪崩れ込む。
仮面をつけ、瘴気を纏ったその姿は、まさに怪物。
一斉にこちらに殺気を向けた瞬間、背筋に冷たいものが走った。
(クソ……来やがったか、“黒の牙”本隊!)
「――おいおい、これは豪華な部屋だな」
侵入者の中に、一際異様な男がいた。
全身を覆う黒鎧、血のように赤いマント。そして、笑っている。
だがその笑みには、底なしの殺意が滲んでいた。
「狙いは、お前だ。公爵家の坊ちゃん」
俺を指差す黒鎧の男。
その声に、背後の姉とエリシアの殺気が爆発した。
「カナメに触れるな」
「ご主人様は、誰にも渡さない」
(いや、俺の意思ガン無視かよ!?)
黒鎧の男は愉快そうに笑う。
「ほう、面白い。護衛の女二人で俺を止める気か?」
「二人じゃないわ」
姉がそう言った瞬間、俺の背筋をぞくりとする。
――そうだ。俺も、ここで黙って見ているわけにはいかない。
「……はあ」
深呼吸。諦めと覚悟が混ざる。
枕の柔らかさも、シーツの匂いも、全部遠い記憶だ。
「ゴロゴロデー、また延期だな」
俺はベッドの上に置いていた、あの剣を手に取った。
そして――
『無限合成』、起動
頭の中で光が走る。
俺の足元から、無数の魔法陣が展開される。
素材を探す。ベッド、床の絨毯、侵入者の武器の欠片、そして窓から吹き込む炎と風。
――全部、俺の武器になる。
【素材選択:硬質木材+鉄片+炎素+風素】
→ “爆裂風刃槍”生成
「――行くぞ」
俺の手に、黒刃の槍が生まれる。
一振りで、空気が裂けた。
黒衣の戦士たちが一斉に飛びかかる。
だが、その瞬間――
ドォン!
槍を薙いだだけで、暴風と炎が同時に炸裂。
数人がまとめて吹き飛び、壁を突き破る。
「なっ……!?」
黒鎧の男が目を見開く。
その隣で、姉とエリシアも一瞬だけ動きを止めた。
(……やっぱり、俺、本気出すとチートなんだよなあ)
「ご主人様、やはり……最強です」
「カナメ……やっぱりカッコいい♡」
「いや、褒めるなプレッシャーになる!」
俺は次の合成に入る。
足元の魔法陣が、さらに輝きを増す。
【素材追加:敵の魔核+学院の結界片】
→ “結界破断剣”生成
槍が黒い剣へと変貌し、魔力の波動が空気を震わせた。
これなら、あの黒鎧だって――
「――カナメ、下がれ!」
姉の叫びと同時に、床が爆ぜた。
巨大な影が飛び出す。黒い瘴気を纏った獣。
牙が光り、咆哮が響く。
「黒の牙の“破壊獣”!?」
エリシアがナイフを構え、姉が剣を振り抜く。
だが、獣の一撃で床が抉れ、瓦礫が飛び散る。
混乱の中――
「……久しぶりだな、カナメお兄様」
その声に、時が止まった。
振り向くと、扉の奥に立っていたのは――
白銀の髪を揺らす、冷たい美少女。
リリアナ・フォン・ヴァルディアス。
俺の妹にして、天才魔導士。
だが、その瞳は――狂気に近いほど、俺だけを見つめていた。
「お兄様に触れる者……全員、殺します」
――学院戦争に、新たな炎が投げ込まれた。