学院を襲う“黒の牙”の刺客!ゴロゴロどころじゃねぇ!?
――ゴロゴロデー、失敗。
翌朝、俺は学院の教室で死んだ目をしていた。
「お兄さま、顔色が悪いですわ?」
「……大丈夫」
「本当に? 無理してない?」
姉と妹の両サイドガード。
(俺のプライベートスペース、どこ?)
「カナメ様、お茶をお持ちしました」
エリシア。……お前まで教室に来るな!
周囲のざわつきMAX。
「なんだよ、あれ……公爵家やばくね?」
「専属メイドが教室で紅茶!?」
(……やめてくれ、目立ちたくないんだ)
⸻
そんな俺の耳に、教師の声。
「えー、本日は王都防衛演習の日です!」
(なにそれ初耳!?)
「学院敷地に仕掛けられた魔獣を討伐し、班で協力するのが目的です」
(……俺の“協力”って、せいぜい荷物持ちだろ。よし、端っこで隠れよう)
――そう決めた瞬間。
「カナメ、絶対一緒の班ね♡」
姉の強制イベント発動。
「当然、リリアナもですわ!」
妹参戦。
「ご主人様を守るのは私」
エリシアまで。
(……いや、班員もう決まっただろ、俺の意思ゼロで)
⸻
演習が始まったのは午後。
広大な学院庭園は、模擬戦場に変わっていた。
俺たちの班は森エリアを担当。
魔獣はCランク程度……らしい。
(なら姉とエリシアで終わりじゃん。俺いらなくね?)
――が、その時。
「ギャァアアアアアッ!」
悲鳴。
別班の生徒が、何かに吹き飛ばされてきた。
背中に刻まれた、黒い紋章。
「……“黒の牙”……!?」
姉が低く呟く。
(……おいおい、ここ学院だよな?)
次の瞬間、森の奥から十数人の黒装束が現れた。
「目標、確保」
無機質な声。
目は俺にロックオン。
(ちょ、なんで俺!?)
「カナメ、下がって!」
姉が剣を抜く。
エリシアが殺気を解き放ち、妹が詠唱開始。
(……俺、完全に守られるヒロインポジションじゃね?)
⸻
刺客の一人が飛び出す。
速い。プロだ。
(でも、こっちには姉が――)
「遅い」
エリシアが影のように消え、その首筋にナイフを突き立てた。
一撃、即死。
「ご主人様に触れた罪、死で償え」
冷たい声。
(いや、怖っ!)
「カナメ、無事!?」
リシアが駆け寄る。
(いや、まだ俺何もしてないんだけど)
⸻
――だが、黒の牙の本気はここからだった。
「目標のスキル、確認済み。回収を優先」
スキル……無限合成!?
(やべえ、完全に狙われてる!)
同時に、四方から魔弾。
炎、氷、雷――全部俺めがけて飛んでくる。
(おい、避けられねえって!)
「カナメ!」
姉の叫び。
だが、ここで俺は――
(……あー、マジめんどくせえ)
右手を地面にかざす。
【素材:土+魔力+鉄片 → 巨壁生成】
――ドォンッ!
地面がうねり、巨大な石鉄の壁が出現。
全ての魔弾を受け止め、粉々に砕け散った。
「なっ……」
刺客たちの動きが止まる。
「……ちょっと静かにしてくんね?」
俺、片手で壁を支えたまま、ため息。
【素材:壁+魔石+風 → “反転障壁”生成】
次の瞬間、壁が砕け、無数の風刃になって逆襲。
――一撃で黒装束を薙ぎ払った。
「な……なに、今の……」
姉、妹、そして敵までもが絶句。
俺は肩を回しながら、ぼそっと呟く。
「……働きたくないのに、働かされるのマジ嫌い」
刺客たちは撤退。
最後の一人が、血を吐きながら言った。
「……黒の牙の“本隊”が……すぐに……」
そう告げて、崩れ落ちる。
⸻
嵐の後。
姉は俺の手を握り、妹は抱きつき、エリシアは血のついたナイフを拭きながら俺を見上げる。
「……ご主人様、やはり世界を敵に回しても守ります」
(いや、もう勘弁してくれ)
空を見上げ、俺は心の中で叫んだ。
(誰か……俺にゴロゴロデーをくれ……!)