特別回「妹リリアナ、兄を愛しすぎる理由」
――兄の名前を呼ぶだけで、胸がぎゅっとなる。
「カナメお兄さま……♡」
そう呟いた瞬間、周囲にいた従者たちが一斉に視線を逸らした。
知ってる。みんな、私のことを「お兄さまに狂ってる」って思ってるんでしょ?
……いいの。だって、本当に狂ってるから。
だって――あの日、私を救ってくれたのはお兄さまだもの。
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回想:血まみれの庭で
まだ、私が五歳で、お兄さまが九歳のころ。
貴族の庭は美しかったけど、同時に血の匂いもする場所だった。
――暗殺者。
そう、あの日、屋敷を狙った刺客が入ったの。
私、何もできずに、ただ震えていた。
目の前の男が剣を振り上げる、その瞬間――
「リリアナ、伏せろ!」
お兄さまの声が響いて、次の瞬間、眩しい光に包まれた。
お兄さまの小さな手から、溢れ出す魔力の奔流。
世界をねじ曲げるような、異質な力――無限合成。
お兄さまは庭の石と壊れた剣を握りしめ、それを――融合させた。
普通の子なら到底できないことを、当たり前みたいに。
【素材:折れた剣+魔力石 → 神鋼刃】
閃光。
そして、男の体が地に伏した。
――お兄さまは、私を抱きしめてこう言ったの。
「大丈夫。俺が守るから」
その瞬間、決まったの。
私はこの人のものになる。どんな手を使っても、絶対に。
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現在:学院に行けない妹
でも……今、お兄さまは王立魔導学院に通っている。
一緒にいたいのに、私はまだ十歳。入学できない。
(……あと二年も離れて暮らすなんて、絶対に無理)
だから私は、裏で動いている。
お兄さまが少しでも不安にならないように。
お兄さまを狙う影は、全部――私が潰す。
――そう、「黒の牙」。
最近動きが活発になった暗殺組織。
でも、情報網を駆使して突き止めた。
彼らの狙いは、ヴァルディアス家。
つまり、お兄さま。
(許さない……)
可愛い顔で笑いながら、私は庭でお茶を飲む。
でも、膝の上の猫の毛並みを撫でながら、指先では細い糸を引いていた。
黒の牙の幹部たちの位置情報が、次々と浮かぶ。
私の裏の顔――“氷の人形”は、今夜、彼らを消す。
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兄LOVEの裏計画
お兄さまが学院で困らないように――
入学したときから、私は動いていた。
・姉リシアのスケジュール改竄
→ お兄さまと一緒にいられる時間を増やすため。
・メイドのエリシアの暗殺リスト改ざん
→ 「お兄さまに近づく女子」リストを、全部“排除済み”に書き換え。
(エリシアはガチで殺しに行くから、注意が必要)
でも、一番の問題は――姉とエリシア。
(あの二人、お兄さまを巡ってバチバチしすぎ)
ふふ……まあ、最終的に勝つのは私だけどね。
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独占欲の爆発
「リリアナ様、そろそろ休まれませんと――」
「やだ」
「……え?」
「今日は一晩中、お兄さまのことを考えるの」
――言った瞬間、従者が固まった。
でも、気にしない。
私は自分の部屋に戻り、ベッドに潜り込んで、抱き枕を抱きしめる。
それは――お兄さまが昔使っていた上着。
「お兄さま……今日も、頑張ってた?」
声に出すと、胸が苦しくなる。
会いたい。触れたい。褒められたい。
(学院で誰かに優しくしてたら……嫌だな)
――ねえ、お兄さま。
約束してよ。
私を、置いていかないでね?