陰謀の影、姉とメイドの修羅場、そして――
――その日、学院の空気はやけにざわついていた。
昨日の合同演習の結果は、学院史に残るレベルの大勝利。
……まあ、俺が最後にちょっと本気を出したせいだ。
その結果、学院中にこういう噂が飛び交っている。
「公爵家のカナメが、無限合成で敵の兵器を一瞬で消し飛ばしたらしい」
「あれ、もう武器じゃなくて神話級の兵器だろ」
「特待生どころか、学院最強決定じゃね?」
……頼む、やめてくれ。
俺は目立ちたくないんだよ!
なのに、登校した瞬間から視線が突き刺さる。
特に女子の視線が――熱い。
「カナメ様って……本当にかっこいいですわ♡」
「黒髪にあのクールな目……あれで無自覚とかずるい」
(いや、俺はただゴロゴロしたいだけなんだけど!?)
そんな俺の腕に、当然のように絡みつく二人の女がいた。
「カナメ♡ 昨日の戦い、本当に最高だったわ」
腰までの黒髪をなびかせながら、姉リシアが甘い声で囁く。
「ねえ、あの兵器、もう一度見せてくれない? ……お姉ちゃんだけに♡」
「……やめろ、恥ずかしいから」
(しかも距離近い、胸当たってる!)
その反対側では――
「ご主人様、昨日のご活躍……私の命に代えても、守り抜きます」
銀髪のメイド、エリシア。
無表情で言うその声は、氷の刃みたいに冷たいのに……なぜか耳元に吐息をかけてくる。
「……褒美に、触れていただけませんか」
「いや、褒美って何だよ!?」
当然、二人の間には殺気が走る。
「エリシア。昨日、カナメの隣に立ってたわね」
「護衛として当然です」
「ふうん……でも、ちょっと距離が近すぎじゃない?」
「リシア様こそ、過度な接触はご主人様の負担です」
「お姉ちゃんだからいいの♡」
「メイドだから守ります」
バチバチバチッ――
二人の間に、火花が飛んで見えるのは気のせいじゃない。
「……俺、もう帰っていいかな」
「ダメ♡」
「許しません」
(いや、二人とも俺の自由どこ!?)
⸻
昼休み。学院の中庭。
俺はこっそりとパンをかじりながら、ため息をついていた。
ようやく二人を引き離した……と思ったら。
「カナメ様、ご一緒しても?」
現れたのは、やたら気品のある女子――第一王女、セリアだった。
金の髪に、深い碧眼。完璧な王族オーラ。
「昨日の演習……感動しましたわ。あの力、もしよろしければ、王家のために」
「いや、無理」
「即答!?」
(だって、そういうの一番やりたくない!)
そこに――
「カナメに近づかないでくれる?」
リシアが笑顔で登場。だが、その目は笑ってない。
「ここはお姉ちゃんの特等席だから♡」
「……護衛は排除します」
エリシアも背後から現れた。ナイフを抜きながら。
「なっ……お、お二人とも落ち着いて!?」
セリアが青ざめる。
周囲の生徒がざわつき、教師が駆け寄ってくるレベルの修羅場。
俺? パン食ってただけなのに、なんで戦争になりそうなんだよ!?
⸻
だが――その頃。
学院の奥で、別の戦いが動いていた。
「……本当に、奴を放っておくのか?」
黒衣の男たちが、薄暗い部屋で集まっていた。
彼らは、陰謀組織《黒の牙》。
昨日の演習で、俺の力を目の当たりにした者たちが、焦りを隠せない。
「無限合成……あれは、世界の均衡を崩す。放置すれば、王家の掌の上に乗ることになるぞ」
「始末するしかない」
「……いや、利用する。あれほどの兵器を生み出せるなら――」
その扉を、ひとりの女が開いた。
艶やかな赤髪、妖しい笑み。
「その話、私も混ぜてもらおうかしら」
彼女の名前は、リリアナ・ヴァルディアス。
――そう、俺の妹。まだ十二歳にして天才と噂される少女だった。
「カナメお兄様を狙うですって?」
笑顔で言いながら、その目には狂気が宿っていた。
「ふふ……なら、最初に殺すのは、あなたたちね♡」
――その瞬間、室内に血の匂いが満ちた。
⸻
そして俺はというと――
「……ああ、疲れた」
学院から帰宅し、ベッドにダイブ。
今日だけは何も考えず、ゴロゴロしてやる。
そう、これが俺の求める平和だ。
「カナメ♡ お風呂にする? ご飯にする? それとも――」
「ご主人様、着替えをお手伝いします」
……平和、どこ!?