カナメ争奪戦と学院裏会議
――あの日、俺は誓った。
「ゴロゴロデーを必ず作る」ってな。
……でも、今の状況を見てほしい。
王立魔導学院の中庭。花壇の横で、俺は立ち尽くしていた。
――理由? 簡単だ。
「カナメ♡ 今日の授業、私と組みましょ?」
「ご主人様。あんな女より、私を選ぶのが賢明です」
「……お兄ちゃん。どっちも論外だよ。カナメは、私と一緒にいるべき」
三人。
姉リシア、銀髪メイドのエリシア、そして――俺の妹、ミラ。
ミラのことを説明しておこう。
天才少女。年齢は10歳、でも魔力量は学院トップクラスの教師すら青ざめるレベル。
そして、今日、サプライズ転入でやってきた。
俺の心の声?
(……帰らせてくれ)
「お、お前ら……ここ、学院だぞ? 人の目ってものをだな」
俺の言葉なんか、三人にとっちゃノイズらしい。
「ふふっ、カナメ♡」
姉が俺の腕を取った。白い指先が、ぴたりと絡む。
「お姉ちゃん、今日はずっと一緒よ?」
「何を言っているのですか、リシア様」
エリシアが静かに一歩前へ。無表情。でも背後に見える黒オーラが、マジで怖い。
「ご主人様は、私の隣に立つべきです」
「は? 立つのは私でしょ?」
ミラが両腕を広げて割り込んできた。
「お兄ちゃんは、私が守るんだよ」
「……妹のくせに、ずいぶん偉そうね」
「姉のくせに、やたらベタベタしてきて気持ち悪い」
(うおおお、火花が! 火花が散ってる!)
周囲の視線が痛い。完全に注目の的だ。
「あれ、公爵家の……」「やば、三人とも美人……」「あの真ん中の黒髪誰?」
――俺だよ! 黒髪童顔、目が死んでるカナメだよ!
「ちょ、落ち着けお前ら! 殺気出すな! 魔力も抑えろ! 花壇が死ぬ!」
叫んだ瞬間――。
ゴゴゴゴゴ……ッ
三人からあふれる魔力が、周囲の大気を震わせた。
「……決着をつけましょうか」姉が微笑む。
「望むところです」メイドがナイフを抜いた。
「じゃあ私も混ざるね」妹が氷の槍を展開。
(やめろォォォ! 学院崩壊するだろこれ!)
――次の瞬間、空気が爆ぜた。
ズドォォォン!!
光と音の嵐。中庭の地面が抉れ、観客の悲鳴が響く。
そして、爆煙の中で三人が向かい合う。
――もう、ゴロゴロどころじゃねえ。
⸻
「……やれやれ、こうなるとはな」
遠くから、その光景を眺める男がいた。
ヴァルディアス公爵、俺の父だ。
背後には学院の教頭と王国騎士団長。
そして、部屋の奥には――王族の影。
「公爵閣下。予定通り……ですか?」
「まあ、想定内だ。だが――」
父の目が細められる。
「“黒の牙”の残党が学院に潜んでいる。放置すれば厄介だ」
「それに……カナメ様の存在も、王国にとっては諸刃の剣」
その時、扉が開いた。
銀髪の女――母、ルナリアが入室する。
「話は聞いたわ」
彼女の背から、圧倒的な魔力が滲む。
「カナメを危険に晒すつもりなら、学院ごと消し飛ばすわよ?」
「落ち着け。学院は王国の象徴だぞ」
「関係ないわ。カナメが笑って過ごせる世界以外、興味ないもの」
(――親バカすぎて、笑えねえ)
その場の誰も、彼女を止められなかった。
公爵夫妻は世界の均衡すら握る力を持っている。
だからこそ、彼らは恐れられ――同時に、息子に異常なほど執着していた。
⸻
――場面は戻って、中庭。
俺はというと、地面に正座していた。
「三人とも、マジでやめろ!」
「でもカナメ……」姉が涙目。
「ご主人様を侮辱する者は……」エリシアが物騒な声。
「お兄ちゃん、取られたくない……」ミラが袖を掴む。
(ああ、俺のゴロゴロデー……)
教師が駆けつけ、なんとか事態は収束。
だが、学院はざわつきっぱなしだった。
――そして午後、さらなる爆弾が投下される。
「次の授業は――合同実技演習。チーム戦だ!」
教官の声に、三人の視線が同時に俺に向く。
――もう、やだこの世界。