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血戦と約束

――シャンデリアが砕け、光の粒が宙に散った。


「……は?」


一瞬、俺は何が起きたのかわからなかった。

だって、ここは王立魔導学院の大ホール。貴族子弟の社交パーティーだぞ?

優雅な音楽と豪華な料理、上流階級の笑い声――全部、平和そのものだったのに。


次の瞬間、悲鳴と殺気が会場を満たした。

黒装束の影が、壁を蹴って降り立つ。ナイフと魔導刃を手にした暗殺者たち――ざっと二十人以上。


「――おいおい、マジかよ……」


俺は手にしていたグラスをそっとテーブルに戻し、頭を抱えた。

(いやいやいや……なにこれ、なんで俺がいる場所でこうなるの?)

昨日、俺は誓ったんだ。「次はゴロゴロデーを絶対作る」って。

なのに、現実はこれ。異世界って、ブラックすぎない?


「カナメ! 下がって!」

聞き慣れた声が響く。リシアだ。

腰までの黒髪を翻し、愛用の魔剣を抜いて暗殺者の一団に斬り込む。

姉の背中はいつも通り、無駄がなく美しい――けど、状況は最悪だ。


「……ご主人様」

低く冷たい声。振り返ると、銀髪のメイド――エリシアがナイフを逆手に構えていた。

目は氷のように冷たく、殺気がホールを凍らせる。

「すぐに排除します」

「ちょ、待て、殺さなくていいから!」

「……では、動けなくします」

(言い方が怖いんだよなあ……)


そのとき、暗殺者の一人が叫んだ。

「目標は公爵家の坊主だ! 捕らえろ!」

全員の視線が俺に突き刺さる。

――うん、わかってたよ。こうなるって。


「……はあ」

深いため息をつく。もう、腹を括るしかない。


「――無限合成、起動」


脳内に光のインターフェースが展開し、手元に転がっていたシャンデリアの破片と銀製の食器を素材として投入する。

【素材:強化ガラス片+銀合金 → 自動修復防御壁リフレクト・ドーム生成】

空間に光が走り、俺と周囲の貴族子弟を包む半透明の球体が形成された。


「なっ……!?」

暗殺者たちが驚愕する。矢も魔弾も、ドームに触れた瞬間、**“反射”**して彼ら自身に突き刺さった。

(よし、とりあえず防御完了。あとは……俺、戦いたくないんだけど?)


次の合成だ。

【素材:金属製トレー+テーブルクロス+風属性コア → 捕縛罠ストーム・バインド設置】

床と天井に光の紋章が広がり、突進してきた暗殺者たちを一瞬で絡め取る。

風の鎖がねじれ、敵の動きを封じた。

【追加:睡眠毒花粉+風魔法 → 睡眠ガス散布】

「……おやすみ」

数秒後、ホールの空気が薄緑に染まり、暗殺者たちが次々と崩れ落ちる。

俺? 相変わらず椅子に座ったままだ。

(……な? 動かなくても何とかなるんだよ。俺、偉い)


「ご主人様……完璧です」

エリシアが背後で吐息を漏らした。その声音は――妙に熱い。

「ご主人様は、やはり世界で一番……」

「おい、エリシア。今そういう空気じゃ――」

「私、もっと褒められたい……」

(ヤンデレモードやめろ!?)


「カナメ! 無事!?」

戦闘を終えた姉が駆け寄る。頬には返り血、目は怒りで燃えていた。

「怪我は? 誰か触った!?」

「いや、大丈夫だけど……」

「よかった……カナメに指一本でも触れたら、私――」

「姉さん、怖いから! 殺意だだ漏れ!」


そして――

「ご主人様に近づかないで」

「は?」

エリシアが、姉の前に立ちはだかった。ナイフを握りしめ、氷の視線で。

「あなたは……ご主人様に不要です」

「何言ってんの? カナメは私の弟よ!」

「血の繋がりなど関係ありません。私の方が、ご主人様を愛しています」

空気が、戦場よりも凍った。

周囲の貴族子弟が息を呑む中、姉とメイド――二人の殺気が火花を散らす。

(……ちょっと待て。暗殺者よりこっちの方が修羅場ってどういうこと?)


「二人とも落ち着けって!」

俺が叫んでも、二人は一歩も引かない。

――やばい、これ止めないと、今夜のニュースは「学院のホールで血の惨劇」だ。


そのとき――高笑いが響いた。

「見事だな、公爵家の坊主」

壇上に立つ一人の男。深紅のマントを羽織り、王族の紋章を刻んだ指輪を光らせる――王族派の筆頭貴族、デュラン侯爵だ。

「今回の襲撃は……“試練”だ」

「試練……?」

「そう。お前の力を測るためのな」

笑みを浮かべる侯爵。その背後には、まだ立っている暗殺者が一人――いや、違う。全身に黒い紋様を刻んだ、魔改造された化け物だ。


(……ああ、やっぱり一筋縄じゃ終わらないのね)


「ご主人様、私が仕留めます」

「ダメだ、エリシア」

「じゃあ私が!」

「いや、お前らマジで落ち着け!」


俺は再び、無限合成を起動した。

素材は――パーティーの装飾全部、そして床下の魔力循環石。

【素材:高純度魔石+聖銀+術式回路 → 絶対結界サンクチュアリ

光が爆ぜ、大ホール全域を覆う光壁が展開される。

同時に、俺は心の中で叫んだ。

(――これで終われ。マジで、もう働きたくない)


黒き怪物が結界に触れた瞬間、膨大な浄化の炎が噴き上がった。

断末魔がホールを揺らし、すべてが静寂に包まれる。


◇ ◇ ◇


「……終わった」

力が抜け、椅子に沈む俺。

姉は心配そうに覗き込み、エリシアは恍惚の笑みを浮かべていた。

――いや、ほんと、この二人が一番怖い。


「ねえ、カナメ」

姉が俺の耳元で囁く。

「今夜は……一緒に寝よっか♡」

「ご主人様……それは、私が」

(やっぱ修羅場じゃん!?)


俺は天井を見上げて、小さく呟く。

「……次こそ、ゴロゴロデーにする」

心からの願いだった。


――だが、その願いを砕く影が、闇のバルコニーに立っていた。

幼い輪郭を残す少女。

夜色のドレス、血のように紅い瞳。

「……やっと、見つけた」

妹の声が、静かに夜を裂いた。

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