学院、血塗られた祝宴
――やらかした。
完全にやらかした。
昨日の暗殺者撃退(※無限合成で超盾作ったやつ)で、俺の名前は一晩で学院中に轟いた。
「カナメ様!」「サインください!」「握手を!」
(……俺は目立ちたくないんだっての……!)
そんな俺をさらに追い詰めるのが――
「カナメ♡」
(はい出た)
姉、リシア。黒のドレスをまとい、艶やかに登場。
「今日のパーティー、一緒に踊りましょうね♡」
「……いや、俺そういうの、ちょっと……」
「遠慮しなくていいのよ? お姉ちゃん、ダンス得意だから♡」
そして、さらに地獄は続く。
「ご主人様、こちらに着替えをご用意しました」
銀髪メイド、エリシア。深紅のドレスを腕に抱え――
「……ご主人様、私の隣にいてください。あの女に奪われる前に」
「奪うとか言うな!?」
(もうやだ……引きこもりたい……)
だが、逃げ場はない。
学院の中央ホールには、煌びやかなシャンデリア。
王族や貴族の子弟が集い、音楽と笑い声が満ちている――
(どうして俺はこんな場所にいるんだ……昨日まで布団の中でゴロゴロしてたのに……)
「おや、ヴァルディアス公爵家の御曹司じゃないか」
声をかけてきたのは、いやらしい笑みを浮かべた貴族連中。
「昨日は大活躍だったそうじゃないか」「ぜひ我が派閥に――」
「……いや、俺、派閥とか興味ないんで」
「はは、そう言わずに」
(うわ、めんどくせぇ……)
そして、極めつけ――
「皆様、注目!」
舞台上で、王族の第三王子が杯を掲げる。
「本日の主役は……ヴァルディアス公爵家のカナメ様だ!」
(ちょ、おま、なんで俺!?)
スポットライト直撃。拍手喝采。
(やめろおおおおおお!)
だが、その瞬間――
俺の背筋を冷たい気配が撫でた。
――殺気。
視線の先、カーテンの陰に潜む黒装束。
(また暗殺者かよ……!)
俺は即座にポケットの中で素材を組み合わせる。
『無限合成、起動』
【素材:ワイングラス+魔力石の欠片 → 魔導スナイパー生成】
指先に小型の銃身が形成され、弾丸代わりに光弾を放つ。
暗殺者の短剣を撃ち落とし、そのまま壁ごと吹き飛ばした。
「ひっ……!」
周囲が騒然となる。
俺はため息をつきながら呟いた。
「……やっぱり、俺、ゴロゴロしてたいだけなんだよな」
――だが、暗殺者は一人じゃない。
窓、天井、床下から次々と飛び出す黒影。
学院パーティーは、血の嵐と化した。
姉の黒剣が舞い、エリシアの刃が閃き――
「カナメ、下がって!」「ご主人様、私から離れないで」
(いや、どっちの言うこと聞けばいいんだよ!?)
さらに、場違いな王子の声が響く。
「ヴァルディアスの御曹司を守れえええ!」
兵士が駆け込み、魔法と剣が交錯するカオスな戦場に。
――そして、その裏で。
バルコニーの影から、ひとりの少女がその光景を見ていた。
長い銀髪、蒼い瞳。
「……お兄ちゃん」
年の離れた天才妹、アリシア・ヴァルディアス。
(――やっと、あなたに会える)
世界は、さらに狂い始めていた。