学院、血の火花と無限合成
――その日は、地獄の幕開けだった。
朝から、学院全体がざわついていた。
昨日の模擬戦で、俺が“無限合成”を発動してしまったせいだ。
「見たか? あの黒刃……」
「ありゃ人間業じゃねえ……」
「やっぱ公爵家の血筋は桁違いだな」
(……だから見んな! 俺はただ平和に過ごしたいだけなんだって!)
俺はうつむきながら食堂にいた。
だが、平穏なんて来るわけがない。
「カナメ♡」
聞き慣れた甘い声。振り返ると――
リシア。俺の姉。黒髪をなびかせ、完全にモデルみたいな立ち姿。
(嫌な予感しかしねぇ……)
案の定、もう片方の耳元で囁き声。
「ご主人様……隣、失礼します」
銀髪のメイド、エリシア。
二人の間に座った瞬間、空気が凍った。
「お姉様、朝からベタベタしないでいただけます?」
「いいじゃない、弟なんだから♡」
「弟である前に、私のご主人様です」
「じゃあ、どっちがカナメを幸せにできるか、勝負する?」
「望むところです」
(やめろおおおおおおおおお!)
俺が叫ぶ暇もなく――
ゴゴゴゴゴ……
食堂全体が震えた。
二人の背後に、魔力の嵐。
姉の黒剣が顕現し、メイドの銀刃が浮遊する。
「決着を、つけましょうか」
「いいわね♡ 負けた方はカナメから手を引くってことで」
「引きませんけど」
「私も引かないわ♡」
(話になってねぇ!)
次の瞬間――
ドォォォォン!!!
爆風。窓ガラスが粉砕。
学院中の生徒が悲鳴を上げる。
「うわああああ!」「避難しろおおお!」
教師が駆け込んできて絶叫。
「貴様ら何を――」
「邪魔です」
「どいてください」
教師、一瞬で沈黙。
(教師ェ……)
――だが、そのカオスの中で、さらに別の影が動いていた。
屋根の上。
黒装束の暗殺者たちが、学院を囲んでいた。
「標的は、ヴァルディアスの坊っちゃんだ。姉とメイドの戦闘で混乱してる今がチャンスだ」
「殺れ」
刃が月光を反射し、俺めがけて飛ぶ――
「カナメえええええええええええ!!!」
姉が叫ぶ。
「ご主人様ああああああああ!!!」
メイドが飛ぶ。
でも、俺は――
(ああ、面倒くせぇ……でも、やるしかねぇか)
ポケットから小石と壊れた椅子の欠片を握り――
『無限合成、起動』
【素材:魔石の欠片+椅子の破片+俺の血 → 融合体“黒銀の盾”生成】
ゴゴゴゴゴ……
空間を裂いて現れたのは、漆黒と銀の混じる巨大な盾。
ただの防御具じゃない。
刃を弾き、魔力を反射し、衝撃を吸収する万能防御壁。
「なっ……」
暗殺者の投げナイフが触れた瞬間、逆に返ってきて奴らを串刺しにした。
(……あ、やべ、また派手なことしちまった)
学院中が息を呑む。
「今の……何だ!?」「神器か!?」「いや、あれは……」
姉とメイドが同時に俺を見て――
「カナメ♡ やっぱり世界で一番かっこいい!」
「ご主人様……最高です……♡」
(やめろおおおおおおおお! これ以上目立たせるな!)
――その裏で、王族派の刺客は壊滅した。
だが、この事件をきっかけに、学院内の派閥争いは一気に過熱することになる。
(……俺のゴロゴロライフ、もう完全に終わったな)