姉とメイド、学院を震撼させる
――模擬戦翌日。
俺は、胃を押さえて寮のベッドで天を仰いでいた。
(昨日のあれ……完全にやっちまったよな……)
クロードとの模擬戦で、俺は偶然“無限合成”を発動させてしまった。
その結果――学院中の話題は、全部俺だ。
『ヴァルディアス家の嫡男、未知の神器を召喚!』
『公爵家の天才姉弟、無敗伝説の始まりか!?』
(無敗って……俺、もう戦いたくないんだけど!?)
そして今日は派閥説明会という、絶対に面倒なイベントが控えている。
学院には、大きく分けて三つの派閥がある。
王族を中心とした王族派、公爵家や大貴族を擁する貴族派、そして商業ギルドや中小貴族で構成される中立派。
そして俺は――よりによって、貴族派の象徴みたいな家の嫡男。
当然、VIP待遇。……いらねぇよそんなもん。
•
学院の大ホールに集められた新入生たち。
豪華なシャンデリアの下で、三派閥のリーダー格が並んでいた。
「王族派代表、リオネル・フォン・ルクセリアだ」
白銀の髪、王子様スマイルのイケメン。見るからに王族。強キャラオーラがやばい。
「貴族派代表、リシア・フォン・ヴァルディアスです♡」
……姉ちゃん!?
お前、なんで壇上!?
しかもドレス姿で微笑みながら軽く手を振ってる。会場から黄色い歓声が上がる。
(完全に女帝ポジションじゃねぇか……)
さらに無表情の少女が口を開く。
「中立派代表、セリス・アルカディア。よろしく」
紅い瞳のクール系。絶対裏でなんかやってるタイプだろ、これ。
そんな中――
「では、次はヴァルディアス家嫡男、カナメ様のご挨拶を――」
「いや、結構です」
「えっ」
「えっじゃないです。俺、目立ちたくないんで」
会場がざわつく。
『貴族派のプリンスが挨拶拒否!?』
『やべえ、これ波乱の予感……!』
(……終わった。陰謀フラグ立った。)
•
その頃、学院の地下通路。
黒衣の男たちがひそひそと囁き合っていた。
「――暗殺は、今夜だ」
「標的は、ヴァルディアスの坊っちゃんだな」
「成功すれば、王族派の勝利だ」
だが、その会話を盗聴している影があった。
漆黒の装束を纏った者――黒の牙、父の密命部隊。
「……全員、消す」
短い言葉とともに、闇が音もなく動き出す。
•
説明会が終わり、俺は一刻も早く部屋に戻ろうとした――が、無理だった。
「カナメ♡」
姉が満面の笑みで腕を組んでくる。
「離せ」
「やーよ♡ 昨日のカナメ、ほんとかっこよかったわぁ♡」
(やめろ! みんな見てるだろ!)
背後から氷のような声。
「――お姉様、ご主人様に触れないでいただけます?」
銀髪のメイド、エリシア。目は笑ってない。
「触れるわよ。だってカナメはお姉ちゃんの弟だもん♡」
「ですが今は、私のご主人様です♡」
「血の絆には勝てないわ♡」
「愛の絆には勝てません♡」
(なんでバチバチやってんだよ!?)
次の瞬間――
ゴゴゴゴゴ……
空気が震えた。
姉の背後に漆黒の剣の幻影。
メイドの背後には、無数の銀の刃。
「やめろおおおおおおお!」
俺、全力で止めに入るが、二人は完全に戦闘態勢。
「――決着をつけましょうか、リシア様」
「望むところよ、エリシア」
バチィィィィィィ――!
空間にヒビが入るほどの魔力衝突。
周囲の生徒たちが青ざめて避難を始める。
(やべえ、このままじゃ学院崩壊する!)
•
その夜。
学院寮の屋上に、黒衣の暗殺者たちが集結していた。
「カナメ・フォン・ヴァルディアス……ここで消える」
刃が月光を反射する。
だが――
「愚かだな」
影が現れた。
黒の牙。父が放った最強の暗殺部隊。
一瞬で、血の華が咲いた。
•
俺は、自室のベッドでため息をついていた。
(……静かな学院生活、どこ行った?)
そのとき――窓が開く音。
「カナメ♡ 一緒に寝よ♡」
姉が乱入。
続いて――
「ご主人様、今夜は私がお側に♡」
銀髪のメイドが微笑む。
(……やっぱ地獄だ。)
――だが、その裏で、王族派の陰謀はさらに深く動き始めていた。