学院デビュー、俺の平穏どこいった!?(裏で家族が全力で暗躍していた件)
――俺は、校門を前にして固まっていた。
「ようこそ、王立魔導学院へ!」
にこやかに挨拶する教員たち。
その後ろには広大な敷地、空にそびえる塔、そして魔導で浮遊する光の紋章が煌めいている。
まるでゲームのオープニング。いや、ゲームだったらスキップするけどな。
(……帰りたい)
昨日まで屋敷でゴロゴロしてた俺に、何の因果でこんな目に遭うんだ。
そう、俺はカナメ・フォン・ヴァルディアス。
公爵家の嫡男で、無限合成チート持ち――という、なろう的ハイスペック設定。
でも本人は? 働きたくない、関わりたくない、目立ちたくない。
俺の人生設計は、異世界でもニートだ。それが夢だったのに。
「カナメ♡ こっち!」
「……げ」
声の主は、腰まで伸びた黒髪を揺らしながら手を振る――俺の姉、リシア。
学院主席、剣と魔法の天才、しかも美人。
当然、周囲の視線を集めまくってる。その隣にいる俺? もう公開処刑。
「なんで来てるんだよ、姉ちゃん……」
「当たり前でしょ? 大事な弟が初登校なんだから♡」
「……もう、いいよ。恥ずかしいから」
「ふふっ、照れてるの? かわいい♡」
(やばい。姉の独占欲モードが発動してる……)
案の定、男子学生たちの視線が痛い。**「あれが公爵家の妹バカ姉か……」**ってヒソヒソ声も聞こえる。
いや、姉ちゃん、ほんとやめて。目立ちたくないんだって。
⸻
◆ 父の暗躍
――そんな俺の知らないところで、学院の奥。
豪華な応接室に、剣聖と呼ばれる男――俺の父、ヴァルディアス公爵が座っていた。
「……カナメのクラス分けはどうなった?」
「もちろん、特待クラスに」
「そうか……手を抜くな。あいつには最高の環境を」
(……あの子が困らないように。戦うことを望まないなら、戦わせる必要はない。だが――)
父は胸中で呟いた。
“もし危険が迫るなら、世界を敵に回してでも守る”
それが、最強と呼ばれる男の、父としての覚悟だった。
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◆ 母の暗躍
同じ頃、学院の魔導塔では――白銀の髪を揺らす女が、魔法陣を描いていた。
俺の母、ルナリア・ヴァルディアス。世界最強の大賢者。
「カナメ……今日は緊張してるかしら?♡」
頬を赤らめながら、息子のための**“転移用防御結界”**をこっそり発動する。
(もし、あの子が泣いたらすぐ迎えに行くわ。授業中でも、世界の果てでも♡)
背後の魔導士が呆然とする。
「……お、お嬢様。今の術式、王都全域を覆ってませんか……?」
「ええ、カナメが呼んだら、一瞬で駆けつけるためよ♡」
(――我ながら親バカね。でもいいの。あの子は、私の宝物だから♡)
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◆ そして現実(俺)
「――なあ、お前がカナメか?」
不意に声をかけられ、俺は振り向く。
そこにいたのは、いかにもライバルポジションなイケメン。
金髪碧眼、騎士の血筋っぽい雰囲気。名前は確か……クロード?
「公爵家の坊ちゃんだろ? 俺と手合わせしようぜ」
「……やだ」
「即答!?」
(だって戦いたくないし!)
だが、そこに――
「カナメ♡ やるならお姉ちゃんが相手よ♡」
「いや、やらないから!」
「ご主人様、私が殺りましょうか」
「やめろ物騒なメイド!」
エリシア、なぜここに!?
そう、銀髪のメイドが俺の背後に立っていた。
完全に護衛モード、しかも目が笑ってない。
「ご主人様を侮辱した者は、全て――」
「だから落ち着け! 殺さないで!」
周囲がざわつく。
「あれがヴァルディアス家の専属メイドか……!」「やば、殺気えぐい」
(頼むから目立たせないでくれ……)
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◆ そして模擬戦へ
「えー、本日午後は、新入生模擬戦を行います!」
教師の一言で、俺の胃はキリキリと痛んだ。
いや、聞いてないぞそんなの!
目立ちたくないランキング1位の俺に、模擬戦とか地獄でしかない。
だが、周囲の視線がもう逃げ場を塞いでいた。
「カナメ様の実力、ぜひ拝見したいですわ!」
「公爵家の息子なら、当然強いんだろ?」
(……くそ、こうなったら、適当にやって負けて――)
「カナメ。負けたら、泣いちゃうかも♡」
「カナメ様が負けるわけがありません」
「ご主人様、手加減したら殺します」
(選択肢、ねえじゃん!?)
――こうして、俺の学院初日。
模擬戦という名の公開処刑が、幕を開けようとしていた。