5章 影に従え、魔に化ける
翌朝。
街はまだ静かだったが、俺はギルドへ向かった。
目的は昨日と同じ――“依頼”という名の口実。
受付へと歩を進めると、昨日絡んできた斧の男が視界に入った。
俺と目が合った瞬間、彼の顔色が真っ青になる。
震えるように立ち上がり、逃げるようにギルドを後にした。
「……ふん。洗脳が効いているようだな」
あの男とそのパーティーメンバー、さらに関係者一同には、昨日のうちに“恐怖心”を埋め込んである。
俺にしか解除できない“隠密洗脳”――
高位魔術師でも見抜けない。本人たちですら、洗脳された自覚すら持たない。
ただただ、本能に根ざした恐怖として、俺から逃げるように行動する。
「……便利だな」
今日も依頼は一つ。ダンジョン調査だ。
金稼ぎに手段は問わない。
道端で通り魔のように襲って奪うことも出来る。だが、まだ“その時”ではない。
街が混沌に満ちた時――火事場泥棒のように搾取するのが、効率的だ。
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ダンジョンへと到着。
いつも通り、入り口で準備をする。
魔力遮断、視覚妨害、聴覚封印。
さらに絶対防御を壁に展開し、足元に魔力を込める。
俺は下へ下へと、魔力で地形を強引に貫通しながら進んでいく。
最短最速で、ダンジョン最深部へと辿り着いた。
そこにいたのは――二足歩行の魔物。
姿形は人型に近い。だが、溢れ出る魔力と筋肉質な体躯は、**魔人にもなり得る“資質”**を感じさせた。
「……ふむ。言葉は通じるか?」
俺は手を上げず、ただ淡々と言う。
「力の差は理解したはずだ。配下になれば、命は取らない」
魔物の目が細くなり、唸り声を喉で止める。
……次の瞬間、敵意が完全に消えた。
知性がある。俺の言葉を理解し、判断し、従った。
ならば――俺は名を与える。
「お前の名は“グライヴ”だ」
同時に、“他者に化ける力”を与えた。
対象は“商人”。服装、姿、声、完璧に再現した。
人型の魔物が、“そこらにいるただの中年商人”の姿に変わる。
「俺とお前。町を歩けば、ただの買い物帰りの二人連れだ」
当然、魔力は変わらない。
ただ“人として見える”だけ。
……これで、堂々と街中を移動できる。
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宝箱からは、魔素の濃い鉱石――魔鉱石を入手。
その後、俺とグライヴでダンジョンを蹂躙した。
残っていた魔物たちを、ただの“障害物”として処理する。
素材は回収済み。ギルドに提出するだけだ。
「理由は用意してある」
受付にて、俺は言った。
「この商人から、“魔力強化ポーション”を貰ってな。
おかげで大量の魔物を狩ることができた」
受付嬢は目を丸くしていたが、真実を探ろうともしない。
街の秩序とは、そういうものだ。理由さえ整っていれば、誰も深くは掘らない。
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宿に戻り、魔鉱石を取り出す。
手に持った瞬間、俺の魔力に反応して脈動を始めた。
「……面白いな」
魔鉱石、そして俺の魔素で変質した鉱物――オリハルコン。
この二つを組み合わせて、俺は**“万物創造”**を発動する。
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スキル【万物創造】発動
素材:魔鉱石+オリハルコン
付与機能:
・絶対防御(物理・魔法無効)
・ソウルイーター(魂喰い)
・魔力吸収
・一撃必殺との連動
完成品:対存在武装・魔剣“エクリクシス”
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その剣は、全てを“切れる”。
物理も、魔力も、魂すらも、否定して裂く。
俺が作り、俺が握る――だからこそ、“世界に敵なし”の剣だ。
笑みが漏れる。
ニヤリと浮かんだその表情を、隣に見ていたグライヴが見ていた。
“あの人に仕えて、本当に良かった”――
心から、そう思っていたが、俺は気づかなかった。