2章 ギルド騒動
ギルドの扉を開けた瞬間、空気が濁った。
鼻に突き刺さるアルコール臭。混ざる血の匂い。喧騒。罵声。笑い声。
「登録、頼む」
受付嬢が顔を上げた瞬間、後ろから野太い声が割り込んでくる。
「おいおい見ねぇ顔だなぁ? ガキが来る場所じゃねぇんだぜぇ?」
現れたのは筋肉だけで出来てそうな典型的な“脳筋冒険者”。
背中に大斧を背負い、顔は満面の“自分は強いんだぜ”笑顔。
「……あまり喋るな。無駄が過ぎる」
「はァ!?この野郎……!」
ゴッ、と椅子を蹴る音。振り上げられた拳が――
「焼却」
俺の口元は一切動かない。
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スキル【無詠唱魔法:炎獄葬界】発動
対象:冒険者×1/効果範囲:半径10m
効果:対象の肉体を外部より燃焼。爆風を伴う
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ドォンッッ!!
轟音。爆風。炎の奔流。
ギルドの壁が吹き飛び、外が見える穴が空いた。
ギルドは一瞬で沈黙し、その後……騒然となった。
「お、おい今のは……!」
「なんだ今の魔法、詠唱なし……!?」
「嘘だろ、ただの新人だろ……!?」
外の通行人も、ギルド内の人間も、全員が俺に注目する。
――だが、俺はそれを望まない。
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スキル【精神領域操作】発動
効果:半径1km以内の生命体から、直前10分間の記憶を消去
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空気が、ピタリと静まる。
視線が逸れ、目の輝きが消え、人々は何事もなかったかのように元に戻っていく。
受付嬢だけが、それを“認識していた”。
「……今の、あなた……」
「無駄は嫌いだ。登録処理を頼む。話はそれからだ」
「───身を滅ぼされなかっただけ、感謝しろ」
受付嬢は無言で頷き、震える手で登録用紙を差し出した。
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そして俺は、その日のうちに依頼を一つこなす。
内容は――“薬草採取(初級)”。
難易度Eランク。報酬3銀貨。
何故かって?
「まずはこの世界の価値基準と流通を把握するため」
俺にとって、“どこから壊すか”の順番は、割と大事なんでな。