1章 ダークヒーロー爆誕
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【回想:転生前】
――堕落の神・アルヴィと俺
目の前にいたのは、黒いローブを羽織った、銀髪の男だった。
神らしきオーラを纏っていながら、足元は崩れかけのスリッパ。俺の前に向き直る。
「うぇ〜い。やっと来たかー、今回の転生者くん」
目を輝かせながら近寄ってくるその男――
こいつが、“俺を異世界に転生させる神”だという。
「……お前が、神?」
「まあね。アルヴィって呼ばれてる。元・天界所属、今は自由業ってとこ? 本当は世界の管理が仕事なんだけどぉ〜……ぶっちゃけ、飽きた。めんどい。だからサボってる☆」
サボってる神。初めて見た。
……いや、こいつはそもそも“神”を名乗っていいのか?
「退屈だったのよ。あの神界のルールとか、くだらない階層争いとか。
それでさ……地上の闘技場とか冒険者の決闘とか、そういうのばっか観てたら、もう戻れなくなっちゃってさぁ」
アルヴィは悪びれもせず、天界の管理画面らしき浮遊パネルをガン無視しながら言った。
「んで、今回さ、転生枠が1個空いててさ。お前、なんか“ダークヒーローになりたい”とか思ってたろ?」
「……ああ。誰かに仕える気もない。善悪も興味がない。
この世界が腐ってるなら、壊す側でいい。いや、むしろ“壊すために”存在したいと思った」
「うっはぁ、そういうの!そういうの大好物!!」
アルヴィはパチンと指を鳴らした。
空間がきしみ、俺の体に莫大な魔力情報が叩き込まれる。
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【転生者データ構築中……】
•名前:ケルゼブブ(擬態名:サヴァン)
•種族:魔人(最上位クラス)
•体力:430,000,000,000
•魔力量:12,400,000,000
•スキル:万能感知/超速再生/万物召喚/絶対防御/一撃必殺/隠密
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「……やりすぎじゃねぇか?」
「え?いやいや、むしろ足りないくらいだよぉ?」
「その世界、勇者とか魔王とか、神に近い連中もゴロゴロしてるからさ。
お前にはその全員を黙らせて、ひれ伏させて――世界そのものを壊してもらう」
俺は目を細める。
「命令か?」
「違う違う。お願い♪ 俺、そういうの見るのが好きでね。
世界が崩壊していくのってさ、なんか……感動、しない?」
こいつは本物だ。堕落神とはよく言ったもんだ。
だが、悪くない――いや、むしろ好都合だ。
「……わかった。壊してやるよ。この世界、上から下まで全部な」
「そうこなくっちゃ〜!!」
アルヴィは興奮したように回転ジャンプを決めて、空中で指を鳴らした。
次の瞬間、俺の視界がブラックアウトする。
「じゃあいってらっしゃい、“ケルゼブブ”。その力で……何もかもぶっ壊してきて」
そして俺は、異世界に目を覚ました。