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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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薔薇輝石(ロードナイト)26

 

 




 オルソット家の反逆は、終わってみれば呆気なく終了してしまった。

 きっと、誰一人、こんな単純な結末を想定してはいなかったであろう


 サルヴァドールが、無言のまま、床に這いつくばっている。


 なぜ、こうなったのか、と。

 全ての誤算は玉座の間に移動してからだ。

 そこですべてが崩れた。

 

 何故奴らがここにいる、と、ルミナス=プェラから来た二人を睨み付ける。


 それが全くの偶然だと聞いたら、きっと彼は大激怒するだろう。まさかそんなことで何年も前から計画してきたことが崩されるとは、と。


 そして彼にとってもう一つ納得がいかないことがある。


 『聖女』の存在だ。

 

 正式な訪問なら必ず告知があるし、仮に内密な入国としても、全ての情報を手に入れられると思っていた。

 王家直下とも言われる『情報部隊』。それすらをほぼ掌握して。

 王には内密に、王兄の元へ最も手練れの物を放ち、情報を手に入れていた。ルミナスプェラと深い関係なのは、王よりも王兄の方だ。

 

 まさか自分の妻を殺したのと同種の魔人奴隷を、ルミナスプェラに送り、解放するなど。

 サルヴァドールにとって初期の誤算は彼であった。小癪な事を、と歯噛みしたものだが、その程度ならまだ許容範囲と、彼が定期的に魔人を求める理由――それらを適当に歪めた噂でばらまいて。

 新アーリアン派宣言をした王との仲違い理由の一つとさせたのに。

 

(『聖女』が秘密裏に入国している情報は何故につかめなかった!?)


 サルヴァドールは歯噛みする。


 そんな男の様子を見下ろしながら、王の紋章を据えた剣を構えたアゼレヴィルが、告げる。


「一つ、教えておいてやろう。」

「・・・・・。」

「お前が秘密裏に手を回していた、俺の見張りについていた、『情報部隊』屈指の男だが・・・」


 ひくりと、サルヴァドールが憎々し気な視線を上げる。それを見て、アゼレヴィルは苦笑いを浮かべる。


「斬られたぞ?」

「な・・・。」

「オブシディアンの忠犬、がな。」

「ちょっと、アゼル。」

「その言い方だと、ウチのクロウ=シキジマ第四大隊長サンがオブシディアンの物みたいじゃない。」

「違うのか?」

「違うわよ?」


 リィンが胸を反らして告げる。


「第四大隊長サンは、我が国の者よ?」


 ―― まあ、クロウ=シキジマサン個人は、どうかは知らないけど。


 ニヤリ、と。意味深な笑みでリィンがクロウを見れば、何の反応も示さず、それでも単純な敬礼でクロウは応じた。その様を歯噛みしながら睨み付けるサルヴァドールに、リィンがほくそ笑む。


「改めてこんにちわ、サルバドール=エルン=オルソット様。さっそく、ワタクシがこの国に来た理由、だけど」 

「・・・・・。」

「ワタクシの国の端『カルベラ』を経由した、この国の奴隷商人が生き来するルート?を保持・保護していたのはどなたかしら、と。」

「―――・・・っ」

 もはや確信した表情で、リィンがサルヴァドールを覗き込む。逸らすことなく、その目を射殺す勢いで見返して、サルヴァドールは嗤った。

「ご明察、だ。」

「あら、思いの外潔いのね、アナタ。」

「私が行ったのはこの国を思うがゆえ、だ。この国が昔から大事に抱えていた思想や信念を、ぽっと出の新興国なんぞ奪われる理由はない!」

「思想や信念の侵害、だと考えているのね、アナタは。」

「当然だ!」

「あえて聞くけど、その考えに一行の余地は?」

「我らが考えるのは、我が国の事だ。他国との関係性も、自国での有利があってこそ!」

「なるほど。」


 うんうんと頷いて、リィンはにっこりと笑う。

「まあ、その辺りは様々な解釈があるわよね。機会があったらお話したいわ。その心を完膚なきまでに叩き折るけど。」

「・・・・・。」

「そうじゃないのよ、うん、そうじゃない。」

「・・・・・。」

 リィンが静かに左右に首を振った。


「この間、ね?それこそ、『カルベラ』で、ちょっといざこざがあって、ね?」

「・・・・・。」

 サルヴァドールは、眉間に皺を寄せる。『カルベラ』にて、国境を接する『イ=ラウ』国の役人である男が奴隷購入の際にルミナスプェラの軍とかち合ったと言うのは聞いていた。

 ノヴル=オルガヌスからルミナスプェラに入らない、他国――旧アーリアン派国の国境を通り、『イ=ラウ』までの道中はサルヴァドールが保護していた。その際にあえてルミナスプェラの国境沿いの街を一つ利用していたのは



「まあ、この人をコケにしたルートは、ね?色々と言いたいことがあったけど?」


 ニッコリと聖女の笑みで笑って、


「実際、そこを通過することでこちらも奴隷の人数の把握とか?そう言った情報を得ていたから?まあ、そのくらいのカワイイ悪戯って思って黙認はしていたのだけれど・・・。」


「実際にそこを商談の場にされたってのは、黙ってはいられなわよねぇ?」

「―――・・・っ!」

 サルヴァドールが、今はこの場にいない『イ=ラウ』の役人と赤い唇の奴隷商人の女を思い出し、奥歯を噛みしめた。


「今回のことではね?うちの、第四大隊長サン、彼が最も被害を受けてるのよね。」

「・・・は?」

 不意に予想外の言葉にサルヴァドールは訝し気な表情を浮かべる。そちらに関しては、全く思い当たることがなかった。だけど

「まあ、結果オーライになった件も多々あるにはあるんだけど?」


 

 かちゃり、と。


「許せないのは、変わらないわよね?」



 小烏丸が鳴く。鈍く光る刃が、眼前で輝く。



「どうせ、極刑、でしょ?」


 リィンが目を細める。淡い色の唇が、弧を描く。


 その様に一瞬なセルサス王や王太子であるアーディーが何か言いたげに動くのを、アゼレヴィルがそっと耳打ちする。すれば、くっと息を飲んで、その動きが止まる。


 その様に、何か密談が住んでいると察したサルヴァドールの額に汗が浮かぶ


 彼の姿を嬉しそうに見下ろしているのは、リィンでも、ノヴル=オルガヌスの王族でも、なかった。


「なら、貰ってもいいわよね?アナタのコト・・・。」

「き、さ・・・。」

「ふ、ふふふ。『聖女』なんて肩書よりも、ワタクシもっと自分に似合う肩書、見つけたのよ。」



「『独裁者』。あながち、間違ってないわ。」



「だから、部下が恨み辛みを、『死んだ』人間にぶつけたって、いいと思っちゃうのよ?」



 ―― ねえ?大隊長さん?




 地獄のそこから、這い出た様な笑みで、鬼が、嗤う。




「生かさず、殺さず・・・。そういうの、得意よ?」


 

 

 声も出ないサルヴァドールへ、笑みを消したリィンが、冷たい眼だけを向けながら



「精々、こちらに売り渡したくない、と思われるような言動をするのね。」


 それだけを告げると、リィンはもはや生気を失いかけたサルヴァドールから視線を離す。その様を見たアゼレヴィルが、部下へ、連れて行け、とだけ告げれば、よろよろと連行されて、姿を消した。






「さて、と・・・。」


 全てが終わったと玉座の間にて、周囲を見渡したシオンが、この場にセルゲイがいないのを認識する。その様を見たリィンが

「お兄ちゃんは置いてきたわよ。」

「え?」

 見透かしたようなリィンの台詞に、むしろクロウがピクリと反応をする。その様をチラリと横目で確認しながら、僅かながらも、自分のせいという自覚はあるのかとため息を吐いた。

「どっかの誰かに虐められたちゃったしね。」

「・・・誰か?」

 そう言って浮かぶのなんて、一人しかいない、と。シオンはその隣で少しだけばつが悪そうに佇むクロウに視線を向ける。

「お前・・・。」

「・・・別に、自分は命令違反も、間違ったことを言ったつもりも、ありません。」

 シオンの視線ではなく、リィンに対して反論をするように、クロウが静かに告げる、が。

「彼の中では、それがあの時あの瞬間の行動の、唯一の弁明だったのよ?今考えれば、そりゃフザケタ話に聞こえるかもしれないけど、頭ごなしに否定されたら、それはちょっとかわいそうよ。」

「しかし―――・・・」


「なんの、話だ?」

「・・・・・。」


 シオンの問いに、クロウは、ぐっと言葉をつぐむ、が。



「ん?『魅了』の話。」

「・・・・・ッ!」



 さらりと言ってのけて、クロウが思わず、自身の上司という立場を忘れて、鋭い視線をリィンに向ける。

 しかし、シオンは彼の予想とは反して


「ああ・・・。俺が『魅了』持ちじゃないかって話か・・・。」

「え――・・・」

「シオンは知ってたの?」


 リィンが僅かに眉根を寄せてシオンを見れば、


「始めに気付いたのは、母さまだよ・・・。」

「・・・・・。」

「幼い頃な?使用人だろうが、魔族だろうが、俺の周りにいる連中が・・・、その、おかしくなるって・・・。」


 おかしくなるという表現にぼやかしたのは、多分そういうだからだろう。


「それで、家の古文書とか色々調べた結果、『オブシディアン』の一族には極稀にそういう人種が出るらしいと。母さまは、俺に内緒にしておきたかったみたいだけど・・・。」


「セレン兄さまから、聞いた。」

「セレンが?」

 予想外の名前に、リィンとクロウが思わずシオンをみる。

 ソレにこっくりとシオンが頷き、だけど、と・・・



「『それでも、人の愛を疑うな』と。」



 兄から教えられた言葉も、合わせて告げる。



『 お前が好かれるのは、お前の信念や生き様に惹かれるからだ。


 人を信じ、魔族を愛し、彼らと手を取りながら懸命に生きようとしているからだ。


 いくら『魅了』としての力を持っていようと、自身の信念を持たず、人を愛せない人間を、だれも愛さない。』



「それを忘れるなって・・・。」  

「・・・・・。」


 セルゲイの話では、セリアンはセレスティニアを女性として愛しているようだった、と。

 もしかしたら、セリアンはもっと早くから、彼女がそういった存在なのかもしれないと感じたのかもしれない。

 そして、その彼女に、惹かれている自身に言い聞かせた言葉、なのかもしれない。


 ただ、仮に、そうだったとしても、彼女がその事実を受け入れられるように。


 いつか彼女に大事な人が出来た時に、彼女が自分の生き方を、疑わない様に。あらかじめ、彼女に言葉のしるべを残していた。



(セレンは、本当に、シオンが大切だったのね・・・。) 


 昔見た、幼いセレスティニアを抱きしめるセレンを思い出して、そっと目を細める。

 彼女への想いを受け入れ、傍にいられない自分を理解し、それでも、彼女が一人でも前をむける様に。



『 我が弟と妹の未来の為に 』

 


(それを貫いたのか・・・。)


「まぁ、でも、俺は、違うだろうなって思ってる。」

「そう。」

「あぁ。」

 なら、それでいいのではないか、と。リィンは静かに頷いた。

 本人に取って、特別な意味がないなら、それは能力ではなく、個人個人の持つ、『魅力』と大差はない。その生き様がその能力に合わなければ、セリアンの言う通り、意味はないのだから。


 今目の前に立つシオンを見ていれば、彼女の兄の言うことを大事に生きてきたというのがよくわかる。ゆえに、彼女は人を惹き付け、魅了するのだろう。

 そして──・・・


「これで、もう終わりか・・・?」

「うーん、そうね。ワタクシはもう少しセルサス王と話はしなくてはいけないし、その間の警護は今第四大隊長さんにお願いしなきゃいけないから──」

「じゃあ、もう少し、か。」

「別にシオンさんは先に帰っても構わないわよ?」

「・・・・・。」

 すれば、シオンが少し不貞腐れたような目で上目遣い。


「ここまで来て、最後に除け者にしないでくれ。」

「あら、確かに。それもそうね。」 

 すんと、告げるシオンに、リィンが頬を緩める。背後でクロウが顔を僅かに伏せながら肩を震わせているのがシオンの視界に入り、思わず舌打ちをする。


 ふと、クロウが扉の向こうへと目を向ける。

 僅かに、廊下が慌ただしい。


 聞き覚えのある声がして、相手を察知したクロウが、苦々し気な顔をする。

 それに気づいたシオンが、目をまたがせながら同様に扉へと目を向ければ、





「セルサス様!アゼレヴィル様!」



 扉の向こうに現れた姿に、リィンが苦笑いを浮かべる。





「ま、置いてきたとはいえ・・・」



 ── 流石に来るわよね?


 


 そこには、息を切らせた、セルゲイの姿があった。




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