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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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薔薇輝石(ロードナイト)25






 玉座の間。


 王宮で最も権威ある場所であり、王が政を行うに当たってその権威を振るう場所として示されている。

 ノヴル=オルガヌスでもそれは同様に。

 それを象徴すべく建設された造りは、豪華絢爛の名に相応しいものであった。

 金をふんだんにあしらわれた玉座。その背後には、大きく見事なステンドグラスアートに、王家の紋章が画かれた旗が左右に飾られている。

 両柱は重厚な造りになっており、一つ一つに神や王を題材としたレリーフが彫られていた。


 玉座へと伸びる、真紅の絨毯の道を歩みながら、

セルサス王は


(これで、最後か・・・。)


 僅かに目を細めた。

 王として秀でたことは無かった。それでも、成し遂げたものは幾らかあったと自負はしていた。

 それでも・・・


(何故、満足することができないのだろか・・・。)


 最後に、誰かの笑顔を見たのはいつだっただろうか・・・。


 子供たちは──特に、下の二人は・・・


(笑って、くれていたのか?)


 自慢の子供達、そう告げた彼等の、最後に見た笑顔はどうだっただろうか?


(妻は・・・、あの、人は・・・)


 笑った顔が思い出せない、のは・・・。


(王でありながら・・・)


 最後の最後に浮かぶ顔が、兄ではなく、国でもなく、


(そう呼んでもいいのかわからないが・・・)


 ── 家族だ、なんて・・・


 皮肉過ぎて嘲笑える自分に、セルサス王は唇を歪めた。

 そうして、玉座にあと数歩で辿り着く、より先に、踵を返した。

 体ごと体当たりをしに行くように、サルヴァドールにぶつかっていく。

 王兄と違って剣技は得意ではなかったが、それでも、今後ろを歩く反逆者よりも上背も体格もあった。

 幸い、その身体は容易に仰向けに転がり、その腰から一振りを奪うことに成功した。


 だから、せめて、と


「共に逝くか?サルヴァドール・・・」

「殺せ!!」

 

 朗らかな顔をして、セルサス王は剣を閃かせる。周りの騎士たちの剣が、我が身に届く方が早いだろう。


(それでも、すぐには息絶えてはやらぬ・・・。)


 この、偉大な場と引き換えにするのだから、と。せめて一矢報いてやるのだ、と。




 眼前に迫る剣を前にして、


 セルサス王が、笑えば、



「セルサス様ァ!!」

「───・・・ッ!!?」


 耳をつんざく、自分を呼ぶ叫び声に、セルサスは思わず耳を疑った。 

 今の今まで、気付かなかった大事なものに、イカれた脳が見せた幻聴かと。

 なのに、視界の端で、自分の妻が泣きながら駆けてくるのが見えて


「来るなァァアアア─ッ!!」


 剣を振るうよりも、彼女を守る為に、声を振り絞った。

 王妃に気付いた騎士の剣が背後に向かう。

オルソットの騎士達だ。混血の王妃など、きっと容易に切り捨てるだろう。

 

(ダメだ・・・ッ!!)


 奥歯を噛み締める。全力で振りかぶり、やっとの思いで奪った剣を、王妃を狙う騎士の背後に投げつける。大鎧で覆われた背部には、突き刺さることもなく、ただ、僅かに怯ませたダケのそれでは、足止めにもならない。

 ならば、と


 滑るようにその脇をすり抜け、振りかぶる騎士の前にセルサスが、その身を、



 躍らせ、彼女の盾にしようと、



 して───・・・




「ぐっ!」

「がはっ!」

「うぐ!」


 王妃の背後から空気を切り裂く勢いで投擲ナイフが飛来する。それぞれが見事なほどに、王妃にそして王に斬りかかろうとしていた、三人の騎士の間接、及び眼球へと突き刺さる。 

 

 同時に、挟撃する様に、玉座の背後から走り込んだシオンとトラヴィスが、サルヴァドールの周囲の騎士達を切り捨てる。

 

 まずは、八人を、戦闘不能に。

 次いで、サルヴァドールを生け捕りに、エルヴィスが手早く縄をうつ。


「な、なぜ、ココに!?」

 予想だにしなかった彼等の出現に、誰よりもサルヴァドールが叫ぶ。

 すれば、東方種の純血が、その長いまつ毛に縁取られた眼を楽しげに細めて、


「さぁ?コッチが聞きたいね!」

「───・・・ッ!」


 そう告げて、嬉々と戦場に躍り出るその姿を、歯ぎしりをしながら睨見つける。

 

 一方でシオンは・・・


「まさか冗談で仄めかした事が本当になっちまったな。」

 そう言ってニンマリと楽しげに笑う。カツラと違ってつけている物だから外すに外せない長い髪を、いい加減鬱陶しげに背後へ払い除ける。


 すれば、隣で


「・・・勘弁してくれ、ホント。」

 はぁ、と小さくため息。

「ん?」

「お前のせいで計画もクソもあったもんじゃないわ、もう・・・。」

 クロウが珍しく、シオンの行動に悪態をつきながら、小烏丸を引き放った。

 そのいつもよりも更に不機嫌な話し方に、それでもシオンは酷く満足げに鼻を鳴らす。

「・・・なんだよ。もうやめたのか?大隊長ごっこ?」

「・・・ごっこじゃないでしょ。本職ですケド。」

 僅かに唇を尖らせたクロウが、さーて、と小烏丸をかまえた。

「エルヴィスは後方警戒とそこのジジイよろしく。あと、単純計算で、半分は持ってくから。残りトラヴィスと頼むわ。」

「アレ、ボス?王サマと王妃サマと王太子サマは?」

「知らねぇ。勝手に出てって戦略ぶち壊した王族なんざクソ喰らえ。」 

「待って待って!!それせめてオフレコで言ってよぉぉおおおーっ!!!不敬罪で処刑はやだぁぁあああー!!!」

「丁度いい、トラが請け負えよ!計算修整な!」



 ── 俺が単独で半分だろ?

 


 ペロリと、好戦的な笑みでシオンが返せば,呆れた様なクロウがさらりと返す。

 


「・・・可愛いこと言っちゃって。」

「見惚れて斬られてんじゃねえぞ?」

「んー、それはないけど。なんか、イタズラしたい。」

「・・・先にテメー斬っとくか?」


 軽口に一段落が付くと同時に、オルソット家騎士の一斉槍術が繰り出される。が、既に読んでいた二人が、槍衾のような一撃が、完全に決まるより先に、クロウの左手から投擲ナイフが三本、宙を切り裂く。 

 

 それにより崩れた左の一角から、シオンがその身を低くして潜り込み、崩しにかかった。


 隊列を組んだ騎士達は、基本通り、一列目は槍、二列目から剣を構えている。更に言うなれば、二列目以降からは盾持ちだ。剣線が通りにくい


 鎧装備なのに、盾持ち。


 その理由は足にあった。王宮までの移動や内部での探索、戦闘に機動力が削がれるのを嫌ったのだろう。

 足元は膝当てまでで、腿あてはしていなかった故か。


(まぁ、生半可な相手なら?それで十分だったかもしれねぇけど?)


 クロウは、ペロリと好戦的に唇を舐めた。


(相手がオレと、あの子なのが、残念だよねぇ?)


 シオンが『夕凪』を主軸に、主に剥き出しの大腿部を狙う。一人二人落とせば、自身の体を支えきれない騎士がぐらりと揺れる。隣の騎士が、その身体に押されてバランスを崩しかけた。その隙間を縫ってシオンが背後へ周り、その騎士の足を払えば、数人が将棋倒しになる。


 崩されかけた一角を補おうとする相手を、更に横からぶちのめそうと、クロウが踏み出した。

 刀に風がからまる。


 その動きに反応した騎士の一人、



 しかも、その鎧を着込んだ上半身を



 真っ二つに、両断。




「───・・・っ!!」

 圧倒的な暴力は、最も注目を浴びる瞬間に魅せるのが、良い。


(まずはその精神を屈伏させやすくなる・・・。)


 彼の力と技、そして、残虐さに、騎士達が萎縮し始める。


 むしろそれに関しては、味方である筈の王や王太子ですら、息を飲んだ。ちなみに王妃は早々に気を失っている。不幸中の幸いだ。

 

 銀の髪に自身の瞳と同じ鮮血を浴びて、クロウが笑う様に、騎士達の戦意がまたたく間に失われていく。背後で見ていたサルヴァドールですら、小さく息を飲んだ。



 そんな中、一人だけ


「気持ちはわかるけどな?余所見してんなよ。」


 圧倒的すぎる力に魅入られた騎士達に、拗ねるような口振りで、シオンが刀を振るう。その剣を弾き、叩き落とした後、重い鎧ごと蹴り飛ばせば、足元に転がった騎士をそのまま足で押さえつけて、クロウが床に転がった彼等の指を落とし、足を削ぐ。


「手を抜かないできちんと戦闘不能にして。」

「・・・相変わらずバカみたいなことしやがって。」

「別に大したことしてないよ。」

「・・・・・。」

「てか、むしろ、その『余所見しないで』は、是非オレにも・・・。ベッドの上で・・・。」

「余所見しねぇだろ。お前は。」

「そうだけど!そうなんだけど!一回くらい言われてみたい!」

「テメーこそ真面目にやれや!!」

 会話の内容は至極下らないが、やっている事がえげつない。

 鬼のような所業に、残された騎士達が攻めあぐねる。もはや半分以下にまで減ったところへ、



 激しい音がして、扉が叩き壊される。



 

「神妙にせよ!抵抗をやめ、投降せよ!」



 その声に、聞き覚えがあって、シオンが扉の方を見る。


 翻る旗は王族の旗。


 それを持ち、高らかに宣言するのは、シオンとも面識のある、王兄アゼレヴィルに使える騎士の男だった。

 機動力を優先したのだろう、オルソット家の騎士達よりも明らかに軽装な彼らが、すでに点々と返り血を浴びた姿で玉座の間へと乱入してくる。

 そのままオルソット家の騎士達を抑え込み、サルヴァドールの身柄をトラヴィスと共に抑え込む。


 そうして、あっという間にその場を制圧すると、王と王妃、そして王太子の前にその旗を掲げた騎士が膝を付き、最大級の礼を払う。


「遅くなり、申し訳ありません。ご無事で何よりでございます。」

「君は・・・」

「王兄アゼレヴィル様直下王家近衛第2部隊隊長のアレス=ガラハッドと申します。」

「そうか・・・。」

 騎士アレスの声に、王が僅かに頷く。

「アゼレヴィル様はもうすぐいらっしゃいます。」

「兄が・・・?」

 セルサス王がそう聞き返し、僅かに目を見開いた時、


 玉座の間の、壊された扉の向こうに、完全に武装したアゼレヴィルと、そしてリィンが立っていた。

 アゼレヴィルがセルサス王たちの姿を認めると、そのまままっすぐに進み出る。


 セルサス王の前に進み出た彼は、彼の騎士であるアレスがスッと身を引き、その脇へと膝を屈すると、それと入れ替わる様に王の前で膝を付いた。


「王よ・・・。」

「兄上・・・。」

「ご無事で・・・。」


 心底安堵したような顔のアゼレヴィルに、セルサスが、思わず、弟の顔で泣き出しそうな顔をする。それを見たアゼレヴィルもまた、弟を見る兄の顔で、


「よかった・・・。」

 小さく顔をほころばせる様子を、傍で見て見ていた王太子であるアーディーもまた、ふっと息を吐いた。セルサス王が抱きかかえていた王妃は未だ目を開けないが、王は彼女を大事そうに抱えている。その姿を見て、アーディーは、これ以上、この不憫であった義母が一人で泣くようなコトにはならないだろうと、息を吐いた。


(いや・・・。)


 もう、させることはしない、と自分でも心に決める。


 そして、王兄の騎士達が次々とオルソット家の騎士達を外へと連行している中、ようやくリィンが血染めに濡れた床をぺたぺたと気にせずに歩いてくる。その背に付き従う様にクロウが拭った刀をしまい付添う。


「こんにちわ。セルサス様。」

「リィン殿・・・。何故、ここに・・・。」

「まさか、こんな場面に出くわすなんて、ね。ちょっと申し訳ないわ。」

 と、彼女にしては心底そう感じたのか、罰が悪そうに眉根を寄せる。

「別に、ね?アナタたちの国のゴタゴタを揶揄しようとか、それに付け入るスキを、なんてことは考えてないの、本心よ。」


 ―― ただ、ワタクシの御面会空いてがココにいるって聞いたから。



 そう言って、リィンは、騎士達によって床に押さえつけられたサルヴァドール=エルン=オルソットの前へ歩み寄り、






 愛らしいカーテーシーを見せつけた。







「こんにちわ、サルヴァ―ドール=エルン=オルソット様。」

 

  ―― 突然の訪問にもかかわらず、お時間頂いて嬉しいわ。



 揶揄するようなリィンの言葉に、サルヴァドールは、ぐっと奥歯を噛みしめた。

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