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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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薔薇輝石(ロードナイト)24









 ノヴル=オルガヌスは建国当初から続く三つの家名がある。その一つが『オルソット』だ。

 数少ない純血の家柄でもあり、中央種の血筋を守っている。

 現在の当主、サルヴァドール=エルン=オルソットは齢五十八にして、未だ家の全権を握る。長子の娘に純血の婿を取り、自身の跡取りとして育てた孫は七つになる。


 サルヴァドールは、完全な純血主義、完全な旧アーリアン派だった。

 

 セルサス王の宣言は忌々しいにも程があった。それでも、ルミナスプェラの軍事力は脅威なのは事実だ。あの頃の強行的なルミナスプェラの動きには目を見張るものがあった。周囲を旧アーリアン派に囲まれて、それでもそれを宣言する力と、仮にそれを周辺諸国が高圧的に撤回を促したとしても、最悪一戦交えたとしても辞さないほどの決意を以って。

 

 ゆえに、あの時は黙秘した。ギリギリと歯噛みしながら。

 いつか来る、反逆の日に、全てを覆す為に。


 オルソット家ではなく個人として伝手のある『イ=ラウ』と秘密裏に繋がり、自国を旧アーリアン派に戻す為に画策した。


 王と王兄が仲違いをするように仕向け

 秘密裏に国内で奴隷商人を保護し

 魔族が同列であるはずがないと貴族間には流した。


 王兄の娘は純血だ。いつか自分の孫の嫁にと利用するつもりだった。故に王太子をそそのかし、わかりやすい目印を持たせた。


 着々と準備を整えた。

 そうして、チャンスが来た。


 オブシディアンの姫が来るという。


 同時にルミナスプェラ軍の個人戦力最強とも言われる、マガイモノのマザリモノも。


 この国にさえいれば、いかようにもその身を抑えられる。

 サルヴァドールはほくそ笑んだ。

 

 そうして待ちに待った日に、サルヴァドールは震えた。執務室の王を抑えた瞬間、サルヴァドールは歪な笑みを浮かべた。


 正真正銘、この国の権力を権力を握った瞬間――




( これで、この国は私の物だ・・・!! )










『 ああ、そう。じゃあ、アナタは、この国を自分の物にしたいって事だね? 』





『 ふうん、じゃあ、全力で頑張ってみなよ? 』





『 そうすれば、可愛い可愛い孫の頭に、王冠を乗せてあげるコトができるかもねぇ・・・? 』







「・・・・・っ!?」

 一瞬、脳裏に浮かんだ淡く長い髪の男の映像に、サルヴァドールは眩暈がしたようにふらつきを憶えた。足取りがおぼつかなくなる。咄嗟、王を拘束している執務室の机に手を付く。


「大丈夫ですか?」

「・・・大事無い。」

 

(なんだ、今の映像は・・・。)

 サルヴァドールは眉根を寄せる。両足に力を入れる。何か、何かを思い出しそうになって、彼は思いっきり首を振った。何を思い出したところで今更だ。やることは変わらない。

 

 執務室の机に座り、その左右をオルソット家の騎士に見張られた状態のセルサス王に、サルヴァドールが詰め寄る。

「お考え直しは、して頂けそうか?我が王よ・・・。」

「お主はまだ私の事を『我が王』と呼ぶのだな。」

「・・・・・。」

 皮肉気なセルサスの声に、サルヴァドールは言葉ではなく、ニヤリと笑みを返す。それに対して、セルサスは首を振った。

「何故だサルヴァドール・・・。お前はオルソット家の当主として、あれほど献身的に私を支えてくれたではないか?」

「・・・そうですとも。すべてこの国のため。」

「ならば何故、今はこのような暴挙に出ている?」

「これを暴挙と呼ぶのは今だけ。百年・・・否、十年後には、これを偉大なる反旗の翻し、と呼ばれるでありましょう。」

「反旗、なのだな。」


 セルサス王が肩を落とした。信じていた男の裏切りをこれ以上ない程に、無念と言わんばかりに。

 と、そこへ、騎士の一人がサルヴァドールの元へと駆けてくる。


「申し上げます!」

「どうした?」

「王太子と王妃様の身柄が抑えきれず、王宮内を潜伏している様子と。」

 瞬間、サルヴァドールの顔色が変わる。あそこは確実に抑える必要があると、精鋭を送ったはずだと眉根を寄せる。

「何故だ!?」

「あの場に、『オブシディアン』はおりましたが、詳しくは・・・。」

「・・・あの姫が?」

 怪訝そうにサルヴァドールが首を傾げる。いくら『オブシディアン』とは言え、戦争からも遠ざかり、その腕を鍛える機会も減った一族など、と。

「・・・待機している部隊を呼べ。そいつらで王太子と王妃を炙りだせ。『オブシディアン』は、危険ならば無理して捕らえる必要はない。」

「・・・それは――」

「殺せ。」

 敬礼した騎士がすぐさま命令を遂行するために出ていく。その背を眺めるセルサス王がつぶやいた。

「戦争をするつもりか・・・?」

「まさか。」

「『オブシディアン』の姫はルミナスプェラの客人だぞ?それに、わが国には彼女の兄もいるだろう。」

「我が国のオブシディアン殿は、まだ来て日が浅い。この国の流儀という物を説明すればきっとご納得いただけるでしょう。」

「だが――・・・」

「『オブシディアン』の姫君――まあ、当人も姫と呼ばれるのは拒否しておりましたな。彼女も、まあ、じゃじゃ馬でなければ命を落とすこともないでしょう。」


 それよりも、と。サルヴァドールはセルサス王に向き直る。




「この国の舵取りのご相談を。」

「・・・・・。」


 セルサス王は、黙したまま、目を伏せた。


「場所を、移さないか?ここでは、狭すぎる。」

「どちらへ?」

「どうせ逃げも隠れもできないのだ。ならば、せめて、玉座の間にて話を聞こう。」

 そう告げた場所は、王宮の三階にあった。ニヤリと笑うサルヴァドールが、

「まぁ、よいでしょう。」


 ソレに応じた時、セルサス王もまた、静かに頷いた。


 この話し合いがどう転ぶにせよ、自分はそこで死ぬのだ、と。





















「王は執務室ですな。騎士は五十名程。あと、そこに何やらちょび髭の頭肩そうな背の低いおっさんがいました。」

「間違いない。彼がサルヴァドールだろう。」

 トラヴィスの索敵捜索の結果に、王太子アーディヴェルが頷く。

「王宮の入り口は同様に約百五十名程、重装備ですね。王兄の兵士が来たところで多分侵入するのに時間がかかりそうです。」

「・・・・・。」

「あと、追加で二十名程、王宮内をうろついてます。多分これは、コッチ探しています。」

 謁見の間から出てきた六名――王太子、王妃、シオン、クロウ、エルヴィスにトラヴィス、彼等は王宮から脱出すべくルートを探していた。

「通常こういう時って王族専用の脱出ルートとかあるんじゃないのか?」

 シオンの提案に、クロウが首を振る。

「その場合、概ねが自国の反逆を想定されてません。建国からの重鎮が相手なら、多分そのルートは押さえられていると思った方がいいでしょう。」

 クロウの冷めた目がシオンを見下ろすから、


「・・・お前、いい加減その話し方やめろ。」

「なんのことで?」

「―――・・・っ!」 


 あくまでも『客人』と『警護人』としての立場を崩さないクロウに、シオンはぐっと歯噛みする。

 面白くなさそうに、シオンがじとっと意味深な目を向けても、クロウはひらりとそれを交わし、


 そして、


「中庭から外へと抜けるルートは?」

「それも抑えられてましたね。」

「例えば、最小戦闘で抜けられると仮定する場合は・・・」

「最小単位が二十人、しかも完全武装となりますのであまり現実的ではないかと。」

「ま、ボスならできちゃいそうですけどね!」

「・・・・・。」

「冗談!冗談ですから!お願いだからやらないで!生存者ボス他一名になっちゃうから!」

「・・・しないって。」

 

 一瞬、それもありだな、なんて考えたことはさておいて・・・。


 クロウは静かに考える。

 正規ルートは無論の事、一般的に考えられる予備の脱出ルートも予想通りに押さえられている。

 最善策は、安全を担保に考えるなら、脱出の上で離宮への避難ではある。が、それは今回は難しそうだ。

 何より・・・


「・・・ちっ。」  

「なんですか、ボス。やぶからぼうに!」

「いや、ここの近衛兵は何処行ったかなぁって・・・。」

 ちらりと、クロウが王太子の方へと目を向ければ


「いや、今日は外交も外遊もない日だからな。数える程度しか、つめてはおるまい。」

「・・・・・。」


(逃げた、か・・・。やられたか・・・。)


「その配属提案をされたのは?」

「・・・オルソット家、だな。」


 クロウが言いたいことを理解し、アーディーが肩を落とした。


「大分前からの計画的犯行、ですかねぇ。」

 トラヴィスが少し同情する様に王太子や王妃へと視線を向ける。しかし、アーディーは

「いや、これは、我等の怠慢と言わざるを得まい。」

「・・・・・。」

 肩を落としつつ、今はもうそれを嘆いている場合ではない。何とかしなくてはならないと、気持ちを奮い立たせる。


「ちょっと聞きたいんだが・・・。」

 ふと。

 不機嫌顔のまま、それでも、とシオンが手を挙げる。

「一応、聞くが・・・三人はどうやってここまできた?」

「・・・・・。」


 三人が、顔を見合わせる。


「ボクとエルは、まぁ潜入がお仕事ですからね?基本どこでも潜り込めるし出れますけど、それと同様な事は多分厳しいかと。」

 トラヴィスの返事に、エルヴィスもこくこくと頷く。


 そして、クロウは・・・


「・・・流石に正面からは来てません。」


 それでも、


「まぁ、手薄のトコの柵越えて。木とバルコニー使って、二階から進入して。索敵しつつ、こっちは、消しながら。最後だけ扉の鍵が頑丈過ぎたんで、まぁ、蹴破りましたが・・・。」

「簡単に言ってるけど、参考にすらなりませんから!」

「・・・・・。」

「パルクールと鬼ごっこの極みだなオイ。」


 二人以上に参考にならねぇ、と舌打ちしたシオンだったが、ふと、考え込む。


「・・・二階、更に、上、か。」


 ポツリとシオンが呟いた言葉に、クロウも僅かに考え込んで、

「・・・まぁ、脱出を捨てた場合の選択肢としては、ありか。」

「だろ!?」

 思わず飛びつく様にしてシオンがしがみつけば、

「───・・・っ」


 珍しく息を飲むのは、クロウの方で。


「・・・・・。」

「・・・・・。」



 

 シオンが覗き込んだその赤い目が揺らぐ。見慣れた、クロウの感情の動きに、






「・・・な?」

「・・・・・っ。」


 安堵したように、シオンが満面の笑みを浮かべた。

 


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