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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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薔薇輝石(ロードナイト)22





 王兄アゼレヴィルの下にハルメニアの無事が報告されて、彼は一つ、大きく安堵の息を吐いた。

 椅子へと深く座り直す。

 保護を求めてきたメルリット家当主とハルメニアに離宮の、一室をあてがい、アゼレヴィルは執務室のテーブルへと肘を置いた。

 

 酷く疲労した様子のアゼレヴィルの下へ、トラヴィスが姿を見せずに声をかける。


 メルリット家焼失の場に、赤い目をした奴隷商人の女と、『人災』フィー兄妹の出現。


 その報告に、アゼレヴィルは思わず眉根を寄せた。

 あれから、赤い目の奴隷商人──ヴェラドンナは姿を見せてはいない。

 それほど時間も経ってはいないが、なんとなく気になる。あの狡猾な女が、意味のないことをするとは、到底思えないから。


(何が、目的だ・・・。)


 驚嘆すべきは、極短時間であれど、『人災』の襲撃を、オブシディアンの姫が一人で防ぎきったことだ。

 短い時間ではあったとはいえ、あの酷く美しい、勝ち気にも取れる笑みが浮かんで、思わず唇を吊り上げる。


 と、


「なに笑ってんだよ、気持ち悪ィ。」

「・・・そろそろ、その不敬な態度を、リィンに抗議をしても許されるか?」

 音もなく入り込んできたクロウに、苦笑いを浮かべ、アゼレヴィルは別の意味でため息を吐いた。

 クロウの横に、トラヴィスも下り立つ。

 仮にも王兄を前にしても、クロウは酷く不機嫌な様を隠しもせずに舌打ちをする。

「知らねぇし。言いたきゃもうすぐ来るから勝手にしてくれ。」

「・・・ナニ不貞腐れてんだコイツ?」

「あ、飼い主に置いてかれたから拗ねてんで───・・・あだぁ!」

 ニヤニヤしながらクロウを見上げるトラヴィスを、クロウが容赦無く蹴り飛ばす。正直、痛いではすまない勢いで、トラヴィスが地べたへ転がる。


「・・・・・。」

 置いていかれた、というのは本当らしい。


 何やら適当な理由を示して、呼び出された、というのはアゼレヴィルの耳にも届いていた。

 王ではなく、王妃に。

 綺麗な娘ではあったが、その目は何処か怯え、くすんでいたようにアゼレヴィルは覚えている。


 そんな事を考えながら、ふと、我に返った。


「ちょっと待て、今、リィンが来る、とか言わなかったか?」

「言った。」

 クロウが己のものとは違う刀を二振り──『朝風』と『夕凪』を、予備の紐で腰にくくりつけながら頷いた。

「そんな大切な事を何故今──」

「元々そのくらいにでコッチに来る予定だった。」

「予定だった、と・・・?」

 魔人が軍の中に常駐していない、ノヴル=オルガヌスにおいて、遠く離れた人物との連絡手段は、電話でしかない。ただ、それが普及しているのは一部の軍であり、通話が確立しているわけでもない。

 一方で魔力行使ができる魔人たちが軍に存在しているルミナスプェラでは、知識や技術力が高い魔人がおり、彼等の力もあり、通話可能な距離も制度も高い。


 元々、滞在一週間で、状況に変化が無い場合は、リィンが直接動くことになっている。いくらルミナスプェラの客人としての立場と言えど、あの『様子』のセレスティニアが長くのさばるのは、それこそリィン自身の管理能力の問題にもなる。その辺りを考慮し、あの『悪女』の成りで動き回るのは期間限定としていた。

 元々在国日数もその程度の予定、うまくいけばもう少し早めに切り上げる、という考えもあったが・・・。


「リィンが来るのはいつだ?」

「さぁ?あと一時間程度か?」

「早いな!」

「うちのたぬぱんが頑張れれば。」

「たぬぱん?」

「まぁ、魔力行使が出来次第。」

「・・・・・。」


 クロウが素っ気なく言えば、アゼレヴィルは、はぁっと息を吐く。

「やはり、すごいな。ルミナスプェラは。」

 感嘆の息を吐くアゼレヴィルに、クロウが僅かに醒めた視線を向ける。

「やはり最強名高い国は違う。」

「いや、アンタんとこはそれ以外。」

 不意に、クロウが告げた台詞に、アゼレヴィルが眉根を寄せる。

「アンタ自身の私兵はいいよ。だけど、王の近衛?ナニアレ?やる気あんの?」

「・・・・・。」

 この国に来てからクロウがずっと感じていた事だ。あまりに騎士、兵士の個人技術や心構えが低すぎる。

「元々アンタがこの国の軍の統括だったんでしょ?今は違うのかどうか、別に興味はないけど。王の側で命張るのが仕事の割には諦めも早いしね。」

「・・・・・。」

「まさか、気にならなかった?」

「・・・いや。」


 もはや何度目かわからないが、それでも、深く大きなため息を吐いて。


「気付いていた・・・。」

「だよね。」

「戦争が終わり、・・・平和になった証拠だと言い聞かせていた。」

「・・・・・。」

「だが、他国の者に指摘される様では、な・・・。」

 アゼレヴィルが天を仰いだ。


「アンタは、一線退いてるわけ?」

「・・・・・。」

 

「俺が出張ると、弟が困るだろう。只でさえ、今回お前等が来ると分かって少し強く出たからな。」

「アンタの態度の問題なんじゃない?」


 すっぱりと、容赦なくクロウは指摘する。


「・・・・・。」

「断固として弟が王だって譲らなきゃいい話でしょ?」

「・・・・・。」

「王もアンタも、隙みせてっから周囲に好きなように言われて、勘ぐられて、面倒な事になってんだよ。」

 反論も出来ない言葉に、アゼレヴィルは、小さく笑った。 


「・・・容赦、無いな。」

「機嫌悪ィから、オレ。八つ当たりだよ。」

「八つ当たりか・・・。」


 さらりと言ってのけるクロウに、隣でトラヴィスがハラハラしている。一国の王族に対しての姿勢ではないことは今更ではあるが、やはり見ていて緊張が増すのは否めない。


 それでも、ぶっきらぼうな言葉は、アゼレヴィルに何かしら響いたのか・・・。

「もう少し、弟と、話すべきだったか・・・。」

「話すべきだったか、じゃねぇんだよ。話すんだよ。」

「・・・・・。」

 アゼレヴィルの口振りに、それでもクロウが眉間に皺を寄せて反論する。


「アンタ等の不和の噂から発展してんじゃねぇの?ならとっとと話すなりなんなりしろよ、面倒くせぇな。」

「・・・ちょ、ボス!流石に言い過ぎ!」

「そうだよ!自覚あるわ!なのにナニ格好つけてんの、コイツ!?イライラしてくる!」

「そのイライラは飼い主不在のせいでしょうが!落ち着きなさいってば!」

「うるせぇよ!そっちも自覚あるし、言われると余計に腹立つなテメェ・・・!」

「し、しま、締まってる!締まってるからぁ!!」

 最終的にクロウが、トラヴィスの首筋を掴んで抱え上げ。追加の八つ当たりに勤しむ事で収まる。


 ただ、その様を見つめながら、アゼレヴィルは僅かに目を閉じ、今は亡き妻を、弟を、思った。


 どうして、ここまで・・・






「申し上げます。」


 騎士が一人、敬礼をしてアゼレヴィルの元にやってくる。

 アゼレヴィルが無言でそちらに目を向ければ、セルゲイの訪問を告げてきた。


 通すように促せば、暫く後、少し息を切らせたセルゲイがアゼレヴィルの元へとやってくる。

 少し焦った様子に、アゼレヴィルが僅かに首を傾げる。セルゲイもまた、一度クロウとトラヴィスがいることに目を開き、そして、セレスティニアが不在としていることに、



「セティア、は・・・?」

「・・・・・。」



 不意に、セルゲイが、セレスティニアを昔の愛称で呼んで


「ちょ!?」

「おい!!」

 

 トラヴィスとアゼレヴィルが思わず彼を制止するような口ぶりでセルゲイを止める。火に油を注がれた様な『狂犬』を、恐る恐る、と言った様に見れば




「・・・知らねぇよ。」




 予想通り、不機嫌さに拍車がかかる。その瞳孔が、ぐっと引き絞られる。


「むしろコッチが聞きてぇわ。」


「適ッ当な嫌疑かけやがって」


「碌な仕事してねぇクセに」


「人の大事なもん簡単に持ってくわ、簡単に愛称で呼ぶわ・・・」

「いや、そこは家族なんだから───」

「十年以上もほっといて肝心な時に側にも入れなかった相手に家族言われても迷惑だ。」

「・・・・・。」


(エ、エグい・・・。)


 側で見ていたトラヴィスが、もはや胃もたれしそうな、勢いで腹を抑える。本当に、肉体的にも精神的にも攻撃力が半端ない。絶対にこの人を敵に回したくない。むしろ味方でも怖い。


(ハルオミくん、凄い!)


 と、何故か、セルゲイは、痛ましげな顔でクロウを見る。その目を訝しげに見返して

「・・・なんだよ。」

「君も、兄と同じか」

「は?」

 クロウが不機嫌に言い放つ。セルゲイは、くっと奥歯を噛み締めた。


「宝石の・・・『オブシディアン』の名を持つ一族の───・・・。」


 それはお伽噺と言われればそうなのかもしれない。だけどセルゲイは初めてその話を、オブシディアンの古書から見つけた時に、惑う自身の心を、決めてしまった。


「『魔力を持たない弱き者。しかし、その魅了に全ての魔族は、その者を愛し守り慈しむ。』」

「・・・・・。」

「おかしい、と思ったんだ。魔族の天敵とも言える『朝風』や『夕凪』が我が家に伝わっていること。そもそも何故『刀』を手にあれだけの武力を『人』が操ることができた?」

「・・・・・。」

 それに関しては、確かにクロウも感じたことがある。『シキジマ』に関しても同じだと。

 あの排他的な種族が、どうやって魔人の技術を基本とする『刀』の技を構築したのか、と。



「何より・・・」

 セルゲイは僅かに震えた声で、


「セティア、は・・・あまりに、周囲を魅了、しすぎる・・・。」

「・・・・・。」

「小さい頃から、人も魔人も、皆、彼女を欲しがっていた。皆、セティアが大事だった。」


  ─── 何よりも、セレン兄さまは・・・



「セルゲ───」


 ふと、黙って聞いていたアゼレヴィルが、それ以上は、と。その口を止めようとして、口を開くより・・・






「だから、なんだよ?」




 クロウが、語気を強めた。





「テメェが逃げた理由を、あの子のせいにするつもりか?」




「あの子を見捨てた理由を、どうせ誰かが助けてくれるから、とでも言うつもりか?」



 


 ああ、完全にキレている、と。


 トラヴィスが思わず自衛の為に短刀の束に手をかけてしまっているのと。同じ理由で、アゼレヴィル、セルゲイが同様に腰の物を握りしめている。



 それすら、クロウは気にもとめず。

 言うまでもなく、ざわざわと沸き立つような殺気を抑えることもせずに、

 



「・・・テメェは、二度とあの子の前に姿見せんな。」





「てか、あァ・・・」





 その殺気が収縮される。

 一点に凝縮された、その殺意が、



「・・・・・っ!?」



 一方向へと、向かう。



















「この場で殺しておけば、二度と姿見ないで済むか・・・?」













 











「ちょ・・・!?冗談でしょ!?」

「待て!!」 


 とても、冗談とは、言えない言葉と、間髪入れずに抜き放った小烏丸に、トラヴィスが慌ててクロウを見、アゼレヴィルがクロウとセルゲイの間へと立ちはだかる。

 その目と態度が告げるクロウの本気と、まさかそこまでの暴挙をするまいと言う感情とで、どう動くか戸惑う。



 ザッと、クロウが一歩、一歩と近付く。

 三人が息を飲む。

 







「それは演技?それとも本気?」






 パン、と響く手の音に、皆の気配が散らされる。皆の視線がその方向へと向く。


「演技なら重畳。見事に演じきったわ!褒めて上げる。」

「リィン・・・」

「聖女、様!」

 間髪入れず登場したリィンに、トラヴィスがすがるような視線を向ける。呆然としたようなアゼレヴィルに、リィンがひらりと軽く手を振れば、次いでクロウの方を見る。


「でも、ま!ちょっと、やりすぎ。」

「・・・セレスティニアに狂ったマヌケを演じろって言ったのはそちらでは?」

「そうだけど!そうなんだけど!マヌケ通り越して狂犬よ!!最高!」

「・・・ん?最高?どっち?」


 リィンとクロウのやり取りに、呆気に取られたような顔をしているのはアゼレヴィルと、セルゲイだ。

 一方トラヴィスは、二人のやり取りに、苦笑いを浮かべる。


(うわ、強引!それで押し切るつもりだ!)

 

 本来なら問われる不敬も不躾も、他国内で許可のない武力行使も。作戦下の内容故と、押し通す。


「個人的には推して上げたいんだけど!流石にこれ以上はシオンさんも含めて守れなくなっちゃうから!はい、舞台はおしまい!」

「・・・ち。」

 すれば、何の意味か舌打ち混じり。小烏丸を収めたクロウが、馴染んだように敬礼をしてリィンを迎えた。

 

 

「ぶ、たい・・・?」

 未だ感情が、追いつかないのか、セルゲイが呆然と呟く。

 ようやくその場が収められて、トラヴィスが膝から崩れ落ちるように座り込んだ。僅かに鼻をすする。ちょっと、ちびったかもしれない、と。


 アゼレヴィルも、ようやく肩の力を抜いたようにして、セルゲイを見る。

 

「話が途切れてしまったが、どうしたセルゲイ?何か急ぎの用件があったのではないのか?」

「え?あ・・・あの・・・。」

 声をかけられたセルゲイが、ハッと我に返った様に、その視点をアゼレヴィルに合わせる。


 それでも未だ同様を隠せないのか、二度、三度と、視線を彷徨わせるから、リィンが申し訳なさそうに、

「ごめんなさい、セルゲイ様を通して謁見を申し出ようとしたんだけど・・・。」

「・・・・・。」

「まさか、うちの駄犬が想像以上に役者で驚いたわ。」

「・・・・・。」

 鼻で笑ったリィンに、それでもクロウは、片眉だけを上げて応じる。

 それを呆れた様に笑いながら、


「とりあえず、お邪魔しているわよ、アゼル」

「リィン・・・。」


 王兄アゼレヴィルを軽く愛称で呼びながら、リィンはひらりと軽く手を振った。


 






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