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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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薔薇輝石(ロードナイト)19








「セレスティニア様・・・」

 呼ばれて振り返れば、王室直下の騎士達が十名程が武装した状態で、二人を取り囲むように相対する。

「こんな時間に、どちらへ?」

「・・・火急の知らせを聞きましたので。そのお手伝いに。」

「それは誰が証明を?」

「・・・わたくしの犬、では、証明にはならないわよね?」

「無論」

「王兄様の了承も得て向かったのだけれど。」

 

 ── ほら、わたくし達今まで一緒だったから。


 先刻まで斬り合いしていた影響か、未だ血の気が残るような、威圧する程の美しい笑みでセレスティニアが笑う。

 鬼女に生贄にでも出されたかのような顔で、それでも必死でその怯えを内におさめようと足掻きながら。騎士達が力を入れて立ちはだかった


「あ、なたには、王族への危害を加えた疑いがかけられております。」


 その言葉に、思わずセレスティニアは、きょとんとした表情を浮かべる。

「わたくしが?」

「えぇ。」

 全くの寝耳に水、だ。思わずクロウを見れば、真底嫌そうな顔をしている。もっとマトモな理由で呼び出してくるなら、対策も立てようがあるのに、と軽く舌打ちをする。

 とりあえず、一応確認、と言わんばかりに、セレスティニアが尋ねる。

「誰を?」

「そこまでを明示する許可は、でておりません。」

「・・・・・。」

 まぁ、予想通りだ。

 くわえて、

「お連れするのは貴女ダケで。そこの警備の者には王城待機でお願いしたい。」

 すればその言葉に、クロウが小馬鹿にした様な表情を浮かべる。

「・・・了承すると思うか?」

「・・・・・。」

 徐に抜刀して見せれば、それこそ想定していたこととは言え、騎士達が怖気づいた様に、くっと息を飲んだ。騎士たちが構える剣の切っ先が小刻みに震えるのを見て、シオンが小さくため息をつく。

 どうにも、ここの──全て、と、呼ぶほどの騎士を見てはいないが、少なくとも、王族護衛、即ち、近衛兵に関しては、もう少し何とかならないものだろうか、と。

 このまま、クロウが一網打尽して、それで済むのも一つだが、それはそれで、後々リィンに迷惑がかかる可能性がある。

 んー、と僅かにセレスティニアが俯いて、

「待って。」

 威圧的な殺気だけで、もはやろくに相対することも出来ない騎士達を見かねたフリをして。シオンはクロウに制止をかけて、そして、ふっと力を抜いた。


「わかりました、応じましょう。」

「───・・・っ!?」


 思わず、クロウがセレスティニア──シオンを振り返る。

 愉しげに笑みを浮かべるシオンが、刀を納めながら。

「帯刀は許されて?」

「なりません。」

「ふぅん・・・。」

 ペロリと、唇を舐める。『朝風』と『夕凪』を腰から脱いて、クロウへと押し付けた。大事なものだからこそ、彼になら任せられる。

 その意味を込めて、静かに微笑んでみせては、シオンが結んでいた髪をほどく。豊かな髪がふわりと舞う。

 クロウが僅かに眉間に皺を寄せて、彼女の肩を抱く。

「セレス、ティニ──・・・」

「ほら、さっさと行きません?」

 それを振り払うように、シオンがふいっと顔を背ければ、


「待て!」

「───・・・っ!!」

 腕を掴まれた、顎を取られる。

 視線が交わる。

 クロウの必死な表情が、シオンの目に映る、から、


「クロウ・・・」


 細められた目が、彼を真摯に見つめる。滅多に呼べない名前を、『シオン』なら、恥ずかしくてできないような、甘い声で呼ぷ。

(それだけは、ちょっと、嬉しい・・・。)

 愛しい人を見る幸せにあふれた、優しい眼差し。頬を抱いて、額を合わせる。

 クロウが目を見開いて、息を飲んだ。僅かに染まる耳元。

 その顔が嬉しくて、シオンがその唇に舌を這わせた。


「───・・・っ!」

 人前で淫靡な触れ合いを怒る彼女が、幸せそうな表情のまま、更に唇を重ねていく。

 食むように、愛撫するように、その唇を愛されて、クロウの指先がびくりと強張る。ざわざわと背筋が泡立つ。

 辛うじて、周囲を囲む困惑した気配に、現実を指摘されて、それでも何が正解かが分からず。ただ、甘んじてシオンからの行為に、ともすれば、急激に高まる身体をクロウは必死に抑える。

 キスを繰り返したまま、シオンがくっとクロウの裾を引けば、ペタリと、引かれるままにクロウが地面へと座り込む。


 すれば、益々嬉しそうに、シオンが、その膝の上に跨がって、くる、から・・・


「───・・・っ!!?」

 彼女が、大好きな髪を梳く様に指を這わせて。もはや自身を抑えるのに必死とも言えるクロウへ身を寄せながら、シオンがその首筋に腕を回した。


「いい子ね・・・。」

「・・・・・。」

 クロウがその手をシオンへ伸ばすより先に、シオンが唇をゆっくりと離した。セレスティニアの、表情に戻して、それでも、愛おしい人を見つめる目だけは変わらずに。

 そうして、その身体からスッと立ち上がり、シオンが唇に人指指を当てる。

  

「だから、ちゃんと、おうち待ってて?」

「───・・・っ」

 念を押されて、クロウがぐっと唇を噛み締める。

 そうして、

「お待たました。」

 行きましょう、と。セレスティニアが背を向けて、誰よりも先人を切って前へと歩いていく。

 ハッとしたようにその後に続く騎士を見て、誰が騎士を率いてるのやら、と、悪態をつきたくなるのを、クロウはぐっとこらえた。


 そうして、王城へ進む彼女の背を見送りながら・・・





 一人、残されたクロウが、熱い溜息を吐く。そして、気配を感じる空間に向けて舌打ちをする。

「・・・いんだろ?」 

「い、います、けど・・・」


 声をかけられて、トラヴィスが音も立てずにクロウのそばへと下りてくる。

 一部始終を見ていたのだろう、吊られたように頬を赤らめて、

「い、いやー・・・、シオンさんも、中々やりますなぁ、ドキドキしちゃったわ、ボク・・・」

「・・・ドキドキしてる場合じゃねぇよ。」

「・・・それにしても、何の理由で連れてかれたんでしょう?」

「・・・ただのいちゃもんだろ?」

 そろそろセレスティニアをこの場にとどめておく理由が苦しくなってきたのだろう。そこに、先日巻いた『ノヴル=オルガヌスへの移住希望』のやり取り。さぞかし利用価値のある種だと思ったに違いない。

(まぁ、ウソだけど。)

 大方移住の後ろ盾をエサに、セレスティニアを利用するつもりか。セレスティニアを利用するのか、それとも誰でもよいのか、までは不明だが・・・

(だとするなら、贅沢なものだわ、ホント・・・)


 思わず舌打ちしながら、クロウが『朝風』と『夕凪』を握りしめる。彼女がああまでして着いて行った理由も、何となくわかる。

 この状況で接触してくるのはいうならば、それは、当初炙り出す予定の『悪党』ということだろう。ならば、当然だが、一人で接触はさせたくはなかった。

 ただ、隠しもせずに王権を使用しての単独要請に力付く、はちょっとタチが悪い。

 最も、この場合の力付くというのは、少し違う。力付くで来たところで、クロウがいる限りは何人たりともセレスティニアを無理やり引っ立てる、という事は出来ないだろう。

 まあその場合、後ほどの問題として遺恨が残る可能性はある。それがどう影響するかクロウ自身の中では、


(知ったこっちゃない。)


 と、判断したのだが、セレスティニア――シオンは、そうではなかった、という事だろう。

「・・・・・。」

 仮に、帯刀せず、一人でさっきの騎士十人相手にした場合、それでもシオンなら制圧は無理でも、逃げ切ることは可能だろう。


(まあ、その可能性はほぼゼロだね・・・。)


 彼女はそういう性格をしていない、と。クロウは小さくため息を吐く。

 と、するならば、と・・・。

 念のため、エルヴィスにはすでに彼女を追う様に指示済みだ。


 二人であれば、何があったとしても・・・。


「・・・・・。」


 それでも、本音は、違う。


(やっぱ、無理やりでも付いて行くべきだった。)


「・・・・・。」

(・・・あんな、ことまでして、油断させて・・・。)


 クロウが、少しだけ、唇を尖らせる。

 普段、自分があんなことしたら、目くじらたてて怒るのに。否、それ以前に・・・


(向こうから・・・、とか滅多にないし。ましてや、あーんなちゅーも、膝の上に載って腰擦りつけてくるのも、基本してくれない、のに・・・。)


(それ、なんで今・・・!?)


 いっそそんな事が出来るなら。今までの演技の中ででもいいから、ベッドの、上でして欲しかったと。心の底からの、本音をこぼして。

 まあその瞬間、演技も仕事も吹き飛ぶ可能性はあるけれど。

 より悶々としてきた、体に、ちょっぴり前かがみになりつつ・・・。



 ああ、でも、可愛かった。


 しかもちょっと、いや、かなり、やらしかった。



 実は結構緊張してた事に、合わせた唇が震えてた様で気付いて、思わず抱き締めたくなったし。あと十秒長かったら、地面に押し倒すか、そのまま抱えてお持ち帰りするかの二択だった、なんて・・・。


 クロウがぼんやりと考えていれば・・・

 

 


「・・・で、ボス?」

「・・・え?なに?」


 トラヴィスがご丁寧に、そっぽを向いて声をかけてくる。



「・・・立てます?」

「・・・・・。」



「・・・うん、あと、五分くらい、頂戴?」

「・・・ですよね。」


 耳まで真っ赤にしたクロウが、やっぱダメだな、と。


 そのままかっくり、座り込んだまま、肩を落とした。

 


 


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