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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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薔薇輝石(ロードナイト)18








 『ノヴル=オルガヌス』王セルサスは、幼い時から、自身を大事にしてくれる兄が大好きだった。何をするにも兄の背を追い、くっついて回った。

 兄が王であることよりも、戦士であることを望んでいるのを察した時、自らが王になれるよう自身の父親へと働きかけた。

 ただ、同時に、一番近くで見ていた兄故に、全てに於いて勝てないと、誰よりも強く実感していた。


 始まりはかけっこから。

 剣技、戦術、馬術。

 そうしてや王になると決意し、学んだ帝王学、政治、経済人心掌握術。 


 果ては、人の愛し方、でさえ。


 何一つ兄には勝てないと実感した時、自身が王で合って良いのかとも自問自答した。

 同時に、それほどの才を持ちながら王たる道を選ばなかった兄を、少し悲しくもあった。


 程なくして、人外戦争が始まり、兄は国から遠く離れた戦場へと向かっていった。

 兄が国から離れた瞬間、自身の周りに群がる様々な思惑を抱えた有象無象に、気持ちが段々とすり減ってくる。

 その中には、純血主義の重鎮もいて、しきりに、この世代適齢の中央種純血である女性を王妃に、と促してきた。


 彼女は兄の妻だった。


 既に一人子供を設けている。

 彼女似て愛らしい娘だった。夢に描いたような、幸せだった。その光景を遠目に見て、何故か、仄暗い欲求が込み上がるのを、抑えきれなかった。


 抑えきれなかった、だから、奪った、はずなのに。


 褥で抱き寄せた、覚悟を決めたその目に、怯んだのは自分の方だった。


 兄を羨み、妬み、その幸せを奪ったはず、なのに。


 最後の最後で、幼い頃から自分を一途に守ってくれていた兄の笑顔が剥がれなかった。

 兄の思いと、彼女の決意に情けなく崩れ落ちる自身に、彼女は優しく微笑んだ。

 だから、触れなかった。

 ただ、毎夜抱き締めて眠った。それでよかった。


 彼女は既に身ごもっていたから。


 生まれた男児を、兄の子を、自身の子として認め、王太子にして。

 惑う彼女の唇に指を当て、子を貰う代わりにらいつか戻る兄の元へ、必ず返すと約束をして・・・。



 ─── その約束は、守れなかった。

 


 花のさく庭園で、王子の成長を見つめていた矢先だった。

 王宮の警備を容易に越えて、来たのは魔人の一人。戦時中の相手の勢力を削ぐことであろう。王を狙ってきたのは、言うまでもなく。

 とっさ抜いた剣は、魔人が片手を閃かせただけで真っ二つに折れた。ぐんと距離を詰める魔人の赤い目が、迫り、覚悟をした。


 同時に、安堵した。


 この国には兄がいる。


 自身が死んでも、彼が王になって


 愛する王妃と、子と共に


 この国を発展させてくれるだろう。


 未練は、なかった、のに。



 鮮血が上がった。

 自身の、ではない。

 王妃の──彼女の。肩から背中にかけて大きく一文字、もはや真っ二つに近い勢いで離れた身体が、崩れ落ちる。


 彼女の体を抱き締めて、庭園に飛び散る血の花に、絶叫していたのは覚えていた。

 次に気付いた時、乳母に抱えられて泣きわめく王子と、数人の騎士たちに寄って切られた魔人の骸が、地面に転がっていた。


 兄への手紙は自分が書いた。

 いっそ恨んで欲しかった。

 なのに、兄王からの手紙は、コチラを労るような言葉で溢れていた。

 泣いた。

 泣きわめいた。

 いつでも、自分は兄の幸せの、足手まといにしかならないのかと、辛くて、苦しくて、泣きわめいた。


 帰ってきた兄の、憔悴しきった顔を見つめることしか出来なかった。どうしようもなくて逃げれば、周囲からは、兄との不和を指摘された。兄から恋人を奪い、死なせた王と。

 その、スキを、ついたように。王太子がいるならもう、誰でもよいだろう、と。

 見目麗しい混血の美しい娘を王妃に添えられた。

華やかで美しい娘が、両手を広げて自分を受け入れるのを、半ばヤケになって、ベッドへと押さえ込んだ。

 そうして産まれた息子と娘には、もはや罪悪感しかない。




 どうして、どうして、と。



 自分の感情を、ただただ抑え込むのに、必死だったセルサス王に、



 深淵に沈んでいた王妃の、暗鬱とした瞳が自身を見つめるのには気づけなかった。



 










 王妃イゼライカ=ハーゼル=ネルゼリア=オルガヌスは、幼き頃から、ただ家を栄えさせる為だけの、しつけと教育だけをうけて、育ってきた。

 先代が放蕩の末に出来た娘。

 中央種の純血の嫁を持ちながら、西方種の側女に入れあげたあげく、その腹から産まれた娘のみを残して路地裏で身ぐるみ剥がされて死に絶えた、クズ。

 周囲から疎まれて産まれてきた娘は、混血のハズが、西方種の特徴のみを強く受け継いで出てきた。純血を重んじる周囲で、純血が育まれるような場所で、混血として生まれてきてしまった故に、周囲の侮蔑と嫌悪の視線に晒されながら。それでも周囲の期待に応えようと、ただ藻掻いて、藻掻いて必死に生きてきた。

 それでも、どれだけあがいても、足掻いても。

 所詮混血と、誰からも認められない現実に、


 イゼライカは、徐々に壊れていった。

 

 唯一の純血の、王妃が死に。


 それでも、一粒種は残された。


 彼が成人すれば、また、純血の血を注ぎ込む。すれば王家の血はまた蘇るからと。周囲が安堵したように笑う。


 そうして据え置かれたイゼライカ。



(じゃあ、私達、は?)


 それまでの、つなぎ。

 予備、ですらない。

 ただ、いざとなった時の、盾代わり、に。


(あの、王妃の様に、その身で立ちはだかれ、と、いうことでしょうか?)


 泣きわめくのも、もう、飽きた。


 ならばせめて、と。


 守るものは、自分の腹から産まれてきてしまった混血の娘と息子。ただ、二人。


 そのためなら、


(そのためなら・・・)



 鬼となる。 

 蛇となる。


 イゼライカは、玉座の上で、悪女のごとく、ちいさく嗤った。




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