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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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薔薇輝石(ロードナイト)17



 ハルメニアを守るようにして二階から飛び降りたシオンが、地面に転がりながら、すぐに身体を起こして、彼女を確認する。

 僅かに身動ぎして声が漏れる様に、シオンが安堵の息をこぼした。駆け寄ってきたハルメニアの養父とその付き人が、震えながら彼女に縋り付く。


 と、


「・・・・・っ」


 背筋を凍り付かせるような気配に、シオンが僅かに背後に視線を送った。

 そのまま立ち上がって後ろを向けば、十代半ば頃の年齢の二人。子供と大人の中間程の彼等。どちらも身なり良く、貴族令息・令嬢の様な成りをしてる。


 それぞれ、共に同じブロードソードを携え、引きずるようにして、歩いてくる。

 自分よりも、断然年若い、大人と子供の境界線とも言える年齢の二人に


 リュウシンにも近い、底冷えのする、気配を感じて・・・


「行け・・・。」

「え?」



 養父も、子供らに気付いてそちらに視線を送る。それよりも、と

「行ってくれ。俺だけじゃあどれほどの足止めになるかわからない。」

「え?そ、それは・・・。」

「ハルメニアが狙われてたら、これ以上守りきれない!」


 シオンがニ刀をぬいて、構えた。切羽詰まった声に、メルリット家の当主が慌てたように立ち上がる。付き人を促して、ハルメニアを抱きかかえる。

「離宮まで振り向かずに突っ走れ!絶対止まんじゃねぇぞ!」

「───・・・っ!」

 シオンの叫び声に、弾かれたように二人が走り出す。

 その背にチラリと視線を送って、二人が一度立ち止まった。

 それを、


「先に、コッチの相手、してくんねぇか?」

「「・・・・・。」」

「物事には、順番ってもんがあるだろ?」

「「・・・・・。」」

「遊ぼうぜ?」


 朦朧とも言える、焦点がぼやけた視線。

 薄い反応に、こちらの提案に対して是なのか非なのかすらがわからない。


 ただ。


「「・・・・・。」」

 その、二人分の視線がゆらりとシオンを捕らえる。 

 せめて、と。

 シオンが挑発するように、人差し指を動かす。ニヤリと、精一杯、笑う。

 すれば、



 二人が、剣を合わせた。

 甲高い金属音が響く。


 二人がぐっと構える、そして、


「───・・・っ!」

「「・・・・・。」」

 放たれた矢のように、距離を詰めた二人の剣を、間髪、『朝風』でシオンが弾いた。

 そのまま繰り広げられる両者からの連撃を、紙一重で交わし、受ける。想定以上の速さと重さに、ぐっと奥歯を噛み締めた。

 不意に狙った足払を『夕凪』で押さえ、頭上の振り下ろしを、『朝風』で受ける。

 ギリギリと鍔鳴り。涼しい顔で二人の、深淵の底のような黒い瞳が、シオンを引きずり込もうと覗き込む。

「・・・く、そ!」

 根負けした様に、シオンが、ぐっと背後へ下がる。すれば、それを追うように二人が詰めてくる。

のを、


 ペロリと唇をなめる、息を吐く。

 シオンからも、二人の方へと近付けば、すれ違う様にその背後へと回り、


 一太刀──を、二人がお互いの背後に剣を伸ばし、防ぐ。


「───・・・っ!」

 シオンがぐっと眉根を寄せたその一瞬に、二人の目が射抜くように、笑う。

 咄嗟に、シオンが背後へ飛ぶ、よりも、速く。


「がっ!」

 二人の蹴りが、シオンの腹へとめり込む。小さく息を吐いて、シオンが大きく背後へと飛び、距離を取る。

 二人は追従することなく、その手を止めて、シオンを見つめた。


 血交じりの唾液を吐き出し、手の甲で唇を拭ったシオンが、それでも臆する事なく二人を見返す。器用に『夕凪』を回し、肩に乗せれば、


 『朝風』を真っ直ぐに構え、二人を、指す。


 疾駆。

 地を這う様に、シオンが距離を詰める。

 両の刀で、それぞれ二人の剣と相対する。


『緩急つけろ。隙じゃねぇ、緩急だよ。』

 

 連撃の後、間合いを、ゆるりと、開け、そして息を吐く、速度を上げる。突きの速度を少しずつ上げて


『追うのは相手の視線。それで行動の先読み。手や足は視界の端で情報を拾え。』


 ピクリと反応した二人の視線の、端に映る剣が空を割く気配。

 伏せて交わして一方への斬り上げ


 とーん、と。


 大きく背後へ飛んだ一人が、軽やかに地面へと着地するのを見て、シオンが小さく舌打ちした。

 荒い息、肩で呼吸する。

 なのに相対する二人は、呼吸一つ乱れていない。

 

 ふと、二人が視線を絡ませる。じっと見つめ合い、そして


「・・・・・っ!」


 底冷えのする、笑みを、シオンへと向ける。


「アソボウ。」

「モットアソボウ。」


 感情の乗らない目に反して、二人の唇は弧を描く。深淵の底の様な真っ黒な目が、シオンを求めてギョロギョロと蠢く。

 人の形をした、人でないような存在に、虚勢でも、シオンは笑みを貼り付ける。

「・・・ああ、誘ったのはコッチだからな、付き合ってやるよ。」

 すれば、感情が移さない眼が細められて、形だけの笑みがますます深くなる。

 ブロードソードを引きずって、二人がシオンへと走り出した、


 その時


 燃え盛る建物から、何かが躍り出て、二人とシオンの間へと転がった。

 地面に這いつくばる様に息を吐くその身体が、上体を起こそうとするのを、不意に二人が支えた。


「全く・・・」

 ため息交じりの声は、

「やっぱり全然ダメよ、ダメ。ワタシ一人ではとても無理ね、ちょっと残念。」

 言葉に反して、どこか愉し気だった。


 傷と煤だらけの身体のまま、すっと立ち上れば、前髪をかきあげて、覗くのは、緋色の目。


「―――・・・お、まえはっ!?」

「ああ、オブシディアンのお嬢さん?」

 お久しぶりね、なんて。顔見知りの様な挨拶を告げれば、品定めをするような目をシオンに向けて

「んーどうしよう、ウチは魔族専門を銘打ってるけど・・・」

「・・・・・。」


 ぺろりと、赤い唇を、舐めて


「こんだけ大変だったし、せめてアナタくら貰ってってもいいわよね・・・?」


 瞬間、赤い唇の女が、シオンの見据えた目が得物を捕食する目に変わる。混乱するシオンに、再び深淵の瞳を持つ二人が、ブロードソードを構えた。

「オブシディアン、なら、魔人と同じくらいいい商品になるかも。ねぇ?貴方の大好きな大隊長サンを相手する時みたいに上手に咥え込めれば、可愛がってもらえるから―――」

 



「させるわけねえだろ。」

「―――・・・っ!?」


 背後の、燃え盛る屋敷が大きく崩れると共に、ゆらりと人影が浮かび上がる。白銀の髪も隊服も、煤に汚れたまま、それでも目立った怪我一つなく。

 クロウが小烏丸を抜き放ったまま、怒気に震えるあかい眼で、相対する三人を睨んだ。


「やだ、もう出て来れたワケ?本当に厄介。」

「ナニ人のモンこっそり掠め取ろうとしてんだよ。」

「ホントよ。攫う間の時間稼ぎって思ったのに。」  

「・・・殺すか。」

「んー、でも今日はオシマイ。」


 赤い瞳と唇の女はニヤリと笑う。


「目的としては、まあ、成功。ついでに別口の仕事を達成できればよかったんだけど?まあ、『毛色の違う大隊長』サンならまだしも、『オブシディアン』のお嬢さんにまで、足止めされるとはねぇ・・・。」

 商売あがったりだわ、なんて肩を竦めて見せて。燃えさかる炎に照らされたまま、

「とりあえずは、ここまでね。ふふ、また会いましょう、お二人とも。次は商品としてお会いしたいわ。」

「御免だね。」

「まあまあ、そうおっしゃらずに。必要ならお二人でお勤めできる先を斡旋してあげてもいいのよ?」

「クソくらえ。」

 女からの最悪な提案に、クロウとシオンがそれぞれ返事を返せば。

「振られちゃったわね、寂しいから行きましょうか、フィー。」

「「・・・・・。」」

 すれば、ふっと、消えるように、三人の気配と姿が消える。

 その速さにシオンが息を飲み、クロウが、僅かに合図を送れば、いつの間にかこちらに来ていたトラヴィスとエルヴィスが、三人の気配を探るようにして後を追う。


 燃える音だけ聞こえる、空間で、シオンがはあっと息を吐く。


「・・・・・。」

 背後で崩れ落ちたまま炎と煙を上げる屋敷を眺めれば


「ごめん・・・。」 

 クロウがシオンの頬に付いた傷を親指でそっと撫でる。

 ピリッとした痛みに、初めてそこに傷があったのかと気付いて、それでもシオンが首を振った。

「別に、大したことじゃねぇよ。」

「・・・そう。」

 それでも少し痛ましげに、クロウはシオンを見やる。

 

 直接相対したことはない。それでもクロウは、『フィー』と呼ばれた二人を知っていた。

 『人災』の一対、双子のフィー、フィー兄妹きょうだいとも呼ばれている。

 もとは騎士の一家柄に生まれた二人が、どうしてここまで堕ちたかは覚えていない。


 兄の『オディウス=フィー』と妹の『ドュール=フィー』


 あまり表に出てくることはなかったが、それが今回魔人奴隷の商人と行動を共にしているのは・・・


(厄介だな・・・。)


 そしてなにより・・・


「赤い、眼だったな。」

「・・・うん。」

「知ってるのか?」

「いや、初めて会った。」

「そうか・・・。」


 クロウ以外の、初めての『緋』(あか)。

 魔族の其れとも、中央種のそれとも、違う。

 

 それは、一体何なのか・・・。


「ボス・・・」

「早かったね。」

 不意に、トラヴィスとエルヴィスが現れる。苦虫を嚙み潰したような二人の顔に、クロウは察して息を吐いた。






「とりあえず、離宮へ戻ろうか。そこで話も聞くよ。」


 懐紙で小烏丸を拭うと、クロウはようやく、鞘へと納めた。

 








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