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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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薔薇輝石(ロードナイト)15






 準備を整えたセレスティニアが、アゼレヴィルの寝所へと通される。彼女にとって以外だったのは、クロウも一緒に、という事だった。

 驚く自分と反して、クロウは、想定していたと、言わんばかりに頷く。ただ・・・

(そう考えてても、アレかよ・・・)

 先程までの駄々っ子っぷりを思い出して、セレスティニアの表情を繕いながら、シオンは小さく笑う。

 そうして通された場所は、王族の寝所らしく、広々とした部屋だった。間接照明が、照らすその場には騎士はおらず、ただ、アゼレヴィルだけがくつろいだ様子でベッドに腰掛けていた。


「来たか・・・。」

「お待たせ致しました。」

 透けるように薄いナイトドレスで、優雅なカーテシーを披露して魅せる。

 すれば、酷く満足気に唇を歪めて、アゼレヴィルが、天蓋付きのベッドにセレスティニアを引き込もうと腕を引いた。

「───・・・っ!」

 思わずその手を掴むクロウに、アゼレヴィルが

「貴様に、その権利はない。」

「・・・・・。」

「忠犬なら、そこでおとなしく見ていろ。」

と、言い放つ。

 わかってはいても、それでも、うまく、手を離せないクロウに。

 ふと、目を合わせたシオンが、


(大丈夫・・・)

 と、唇の形で伝え、頷けば、やっと、奥歯を噛み締めて、クロウが手を離した。


 そのまま腕を引かれたセレスティニアが、アゼレヴィルの膝の上へ、跨るように腰を下ろす。

 震えそうになる、肩を足を、必死に堪えて。セレスティニアが大きく息を吐いた。


 アゼレヴィルの、硬い、掌が、セレスティニアの腰に指を這わせる。

 ふと、見上げてくる視線に、


「お前は、何処まで知っている。」

「・・・何処まで、とは?」

「俺の事を。」

「・・・さぁ?セルサス王のお兄様、としか。」

「嘘だな。」

「・・・・・。」

 探るような、覗き込むような目で、アゼレヴィルがセレスティニアを見上げる。

「俺は知ってる。貴様の事を。」

「何のことでございましょう?」

 そう言ってとぼけるセレスティニアに、アゼレヴィルが意外な言葉を零した。


「人外戦争で、鬼人の如く戦う乙女がいると。」

「・・・・・。」

「貴様だろう?セレスティニア=ハルベルテ=シオン=オブシディアン。」

 人外戦争時の、シオンを称した表現。セレスティニアが鼻で笑うように、

「・・・昔の、話ですわ。」

「どうかな?」

「───・・・っ!」

 不意にセレスティニアの手をアゼレヴィルが掴んだ。

 未だに刀を握るシオンの腕は、細くも、酷く筋肉質だ。その、決して女性らしからぬ鍛えられた腕に、アゼレヴィルが一つ口付けを落とす。

「いい腕だ。抱かれるだけの女が、この腕にはなれまい。」

「・・・これでもオブシディアンでしたから。」

「過去系、ではなかろう。この身体、別の意味で味わいたいものだ。」

「・・・・・っ」

 伺うような、試すようなアゼレヴィルの視線に、セレスティニアがくっと息を飲めば、



「・・・・・。」


 鯉口を切る音に、セレスティニアがピクリと反応する。

 クロウが、徐に小烏丸を抜いた。


 一瞬、まさか、と目をむくシオンが、だけど、彼を制するよりも、気配を探るようなクロウの動きに、言葉を飲み込む。

 クロウがベッドのはしを蹴ったと思うと、軽々と壁を蹴って、宙へと駆け上がる。抜き放った一刀を天井へと突き刺し、


 そして───


 ふっと息を吐いたかと思うと、クロウの刀速が上がる。


(魔力、行使・・・!)

 

 シオンが目を見開いた。


 容赦のない天井への連続突きに、彼へ、滴るほどの血の雨が振り注いだ。

 魔力行使をしたとはいえ、神業の様な連撃に、シオンの目がキラキラと輝く。


「・・・仕留めた、のか?」

 驚きのあまり、思わずアゼレヴィルが零した言葉に、目を細めて嗤うクロウ。

 直ぐ様アゼレヴィルが指示をすれば、扉の向こうの騎士達が驚いた様に天井裏へとあがる。


 しばらくの後、報告されたのは、間者の串刺し死体が見つかった事。


「・・・・・あっ!」

 ふと、シオンが、エルヴィスが言っていた言葉を思い出す。


 アゼレヴィルが、離宮にまで忍び込んだ彼女の腕を褒めた上で、

『今は、一人うろうろしているのがいるがな。お前もかち合ったかもしれんが、中々捕縛できぬので少し困っている。』

 と、言っていたこと。


 騎士達が再び室内から立ち去った後、アゼレヴィルが、ふうっと、一つ、大きな溜息をついた。

「流石は、『白銀』。聞きしに勝る忠犬だな。」

「・・・・・。」

 すると、アゼレヴィルがイタズラを思いついたような顔で、


「お前も混ざれ。」

「え!?」


 咄嗟、アゼレヴィルの言葉にセレスティニアが驚いたように、焦るように王兄へと振り返る。

 聞き間違いかと、思わずクロウとアゼレヴィルを交互に見やれば、反してその言葉に、酷く嬉しそうな、淫靡な笑みで応えるクロウに、


「・・・・・っ!?」

 思わずシオンが怯えれば


 クロウが、満面の笑みを浮かべて、シオン、もとい、セレスティニアを背後から抱き締めた。緊張のあまり、身を固くした彼女に、それでも、と。


「あー・・・」


 安堵したように、深く深く、息を吐く。


「よかった・・・。」


 このまま『待て』されてたら、と酷く剣呑な表情をして、アゼレヴィルを見るから、


「なんだ?そんなに時間経ってないだろう。」

「時間じゃねぇ。この子が他の男とベッドにいるってダケでブチ切れ案件。」

「・・・存外心の狭い男だな。」

「心が広い狭いの問題じゃねぇだろ!」

 クロウの砕けた態度も言葉遣いも、特に気にした様子もなく、アゼレヴィルは枕元の水差しに手を伸ばす。

 その様を、きょとん、とした顔でシオンが見つめるから、その頭をなでなでしながら、


「これでまともに話ができそうなんで?閣下。」

「───・・・っ!」

「あぁ、そうだな。」

 

「・・・まだ数人潜んでいる可能性は否定できぬが、それはこの様に三人で戯れているさまを見せつければ誤魔化すこともできよう。なにより、あれほどの手練れが獲れたのはありがたい。」


 ── 貴様のおかげだな。


 素直に感謝を告げるアゼレヴィルに、クロウがシオンを抱き締める手を緩めることなく、

「確かに王族直下だけあるわ。探すのに少し時間がかかった。」

「・・・気付いたか。」

 王族直下のものであることすら見抜いたクロウに、目を見張りながら、アゼレヴィルが感嘆の溜息をつく。

「ノヴルの『覗き』は大陸随一ってね。うちの『猫』も世話になったし?その仕返し。」

 クロウが唇をペロリと舐める。

 ノヴル=オルガヌスの王家直下の刺客は、あの手この手で各国の重要箇所へ忍び込み、ありとあらゆる情報を収集してした。

 無論、戦時中はアゼレヴィル自身もそれらを駆使して情報を収め、策略を練ってきた立場としては、この刺客達の能力の高さを誇りに思っていたが。

 まさか、刺客を送られる立場になって、これほど辛苦を舐める事になるとは思わなかった、と。苦笑いを浮かべる。

「あの短時間で、な。見事だ。」

「そりゃどうもー」


「ぇ・・・?な、なに?」


 二人の会話に、一人、状況が飲み込めず、きょとん、とした顔でシオンが二人を見つめる。その顔を目を細めて眺めながら、クロウが頬に一つキスを落とした。

「・・・ごめんね、嫌だろうけど、もうちょっと頑張って?」

「な、なにを・・・。」

「不本意ながら、・・・まぁ、三人で、ココにいるの。」

「どういう事だ?」

「三人で色々ヤッてるって誤魔化しながら、ね?密談というわけですよ。」

「三人で、ヤるって・・・密談を?」

「・・・うん、そうくると思った。いいよ、それでいい。オレにさわられながら、膝の上で揺さぶられて密談すると思ってて?」

「・・・そう、か。」

「できなければ、俺とサシで彼女に───・・・」

「許すわけねぇだろうが。」

「・・・・・。」

 流石に殺気を放つ理由にはいかないが、仮にも王兄に対し、問答無用の舌打ち混じりな言葉。アゼレヴィルは呆れた様に溜息を吐く。

「なるほど、噂は強ち間違いではない、と。」

「・・・るせぇ。」

「『聖女』が悶絶していたのは、お前等か。」

「・・・やっぱ繋がってたのかよ。」

 今度はクロウが、ため息混じりに告げれば。アゼレヴィルはニヤリと笑って肯定を告げる。

「セレスティニア。」

 身体を起こしたアゼレヴィルが、セレスティニアの耳元に唇よせる。一瞬、クロウが米神をピクつかせたが、ぐっとたえる。

 彼女がじっと、正面から見据える視線をアゼレヴィルに向ければ、


「セルゲイには、何の罪もない。アイツもアイツなりに悩んでいたんだ、許してやれ。」

「・・・・・!」

 耳元に落とされた言葉に、セレスティニアが目を見開く。その顔を見て、アゼレヴィルがセレスティニアに再度顔を寄せる。

「セルゲイは、うまく利用されたな。彼を使ってお前を呼んだのは、俺ではない。」

「な・・・。」

「セレスティニアを手籠めにするか、はたまた、魔人殺しの目的で呼び出したと言われたようだが・・・。」 

「・・・・・。」

「丁度、セルゲイのタイミングが悪い時が合ってな。」

「・・・・・。」

「それを利用されたのだろう。」

「───・・・っ」

 ぐっと、この場にはいないセルゲイに、痛ましげな視線をシオンはむけた。

 同時に、少し安堵もしていた。兄にも、きちんと彼を理解してくれるような相手がいるということを。

 不意に、背後から首筋に唇を寄せてくるクロウに、前からアゼレヴィルの視線を感じて、咄嗟にその顔を押しやる。

「いまは!やめろ!」

「・・・慰めたかっただけなのに。」

「いらねぇ、ばか!」

 思いの外ぶっきらぼうなセレスティニア──シオンの言葉に、アゼレヴィルが一瞬呆気に取られたような表情をして、だけど、嬉しそうに笑った。

「なるほど、そちらが本当のそなたか。」

「あ、やべ・・・。」

「その方がそなたらしいな。美しくも強く、しなやかな身体と心の持ち主らしい。」

「・・・・・。」

 アゼレヴィルの口説く様な言葉に、セレスティニア───シオンが、むぅ、と口を閉じる。

 二人の様子に、不機嫌さがより増したクロウがぐっとシオンを強く抱き締めるけど、構ってたら話が進まない、と。シオンが、アゼレヴィルの方に視線を、向ける。

「兄さまに、何があったんですか?」

「・・・魔人奴隷搬送のタイミングにかち合った。」

「魔人、奴隷?」

「勘違いするなよ?」

 その視線が僅かに歪むのを見て、アゼレヴィルが心外だと言う様に釘を差した。

「この国には魔人奴隷専門の輩が潜んでいてな?ソレに目をつけた。奴等を利用すれば、簡単に魔人奴隷が、捕まえられる。ルミナスプェラと連携を取れば、その奴隷をすぐにリィンの元へ送り、治療もできる。」 

「そんな、ことを・・・。」

「まぁ、最近は怪しまれているのか、距離をおこうとされているがな・・・。」

 少し苦々しげに笑って、アゼレヴィルはベッドの、うえで膝を立てた。


 ふと、彼の元妻の事を思い出した。

 確か彼女は、戦時中に魔人に殺されている。


「・・・貴方は、恨んでいないんですか?」

 シオンが、暗に、その、妻の死のきっかけを伝えれば、

「・・・恨んでいない、と言えば嘘にはなる。」

 アゼレヴィルは、少し切なげに目を伏せた。

「愛していた。心の底から。ゆえに子をなし、家族となることを望んだのだ。」


「・・・その嫁さん」

「・・・・・。」

「弟に譲ったのはなぜだよ。」

「おい!」


 徐に、クロウが容赦の無い問いかけを言い放てば、シオンが思わず叱責するように叫ぶ。が、構わないと、アゼレヴィルがシオンの髪を撫でた。存外優しい目をする男に、謝罪の意味を込めて、無言でされるままにする。

「王家というのは、面倒なものだな。周囲が純血を尊べば、それを蔑ろにすることは出来ない。ソコに個人の意見など、差し込めなかった。」

 情けない、と。英雄とまで謳われた男が、自らを嗤う。

「・・・純血、適齢の娘は彼女だけだった。一人だけ男児をもうければ、それで。と請われて拒めなかった。彼女も納得してくれたその後は二人で王家から離れて静かに暮らそうと。」

「・・・・・。」

 二人の小さな願いは、結局叶わなかった。その人は殺され、アゼレヴィル自身も、未だに王家から離れられないでいる。

 シオンが、

「・・・娘、さんは」

「知っていたか。」

 シオンが小さく頷けば、アゼレヴィルは切なそうな目でセレスティニアを見た。

「俺が王家から離れられない以上、娘もアイツと同じ道を歩む可能性がある。ならば、まずは早々に俺から離したほうがいい。」

 それは、苦渋の決断でもあった。自分から離して、純血なのを隠すように、誤魔化せるような一族に、養子に出した。自らの存在を伝えることなく。


(・・・まて、よ。)


「・・・王家の、指輪は、貴方が?」

 その行動に矛盾を感じて、シオンがアゼレヴィルに問いかける。

 王兄を示す指輪をハルメニアに渡すのは、せっかく純血も王族であることも隠そうとしているアゼレヴィルの行動を無駄にする。



「・・・なんだ、それは?」

「え?」


 シオンの言葉に、アゼレヴィルの表情が、変わった。

「・・・アイツが、王族と分かるような物を、送ったつもりはないぞ?」

「・・・・・。」 

 それは確かか、と真摯に見据えるアゼレヴィルにシオンは間違いなく、と頷く。トラヴィスとも確認した。それを見間違えるはずがない。

 そして、ハルメニアは、確かに告げた。『大事なもの、お守りだ』と。指輪の存在は当主でもある父親も把握していた。


 その話に、アゼレヴィルが無言で考え込む。

 

「俺からの贈り物は、全てセルゲイを通して渡して貰っていた。」

「・・・兄さま、が。」

「アイツが単独でそういう事をする、とは、思っていない。と、すれば・・・。」


 王族の指輪だ。簡単に手にはいるものではない。


「・・・・・。」

 と、なると、浮かぶのは限られてくる。



 しばらく、無言の時間が流れる。



「単刀直入に聞くけど、さ?」

 それまで黙っていたクロウが、アゼレヴィルを見据えた。

「アンタは、黒幕が誰だと思ってんの?」

「・・・・・。」


 セルゲイを、使ってこの国にシオンを呼んだ。

 

 ハルメニアに王家の指輪を渡した。


「ソイツは、なにをしたいのよ。」

 問い詰めるように、クロウが言い放つ。

 覚悟を決めたような表情で、アゼレヴィルが目を開き、口をひらこうとした、



 その、瞬間

  


「急ぎ、知らせが来ております!」

「何事だ。」

 扉の向こうで、切羽詰まった声が聞こえた。アゼレヴィルがベッドから下りる。








「メルリット家、襲撃!」




 燃え盛る炎が、周囲を、赤く、染めた。

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