薔薇輝石(ロードナイト)14
「相手は『王族直下』の奴らですね。ただ、そこまでの腕じゃなかったです。個人差大きいのかな?」
「これだけ早くに戻って来たからわかるでしょうけど、『離宮』じゃないんですわ。」
「今僕たちを覗いてたのは、他でもないここにいる『王サマ』って事です。」
「大方、『離宮』での騒ぎを把握して僕たちの出方を見たいって事ですかね?報告聞いて何やら考え個込んでる印象でしたよ?」
夕食を済ませた頃、迎えの馬車が城の入り口へと止まり、先ほどと同様、使者である騎士が迎えに来る。
すでに身支度を整えていたセレスティニアが、クロウと共に室内で騎士を迎えた。
室内に通されるや否や、騎士がちらりと室内を見渡す。すれば、本来セレスティニアが寝るであろう天蓋のベッド上で、くつろいだ様に横になっているエルヴィスを見て僅かに目を見開く。
その様子にセレスティニアが
「疲れちゃったのよ、だから寝かせてあげて?ね?」
と、静かに笑う彼女に、騎士は特段何を言うまでもなく、目を伏せ、そのまま二人を促した。
セレスティニアの手を取ったクロウがエスコートをしながら、騎士の先導の元、城内を進む。
と、
「セレスティニア殿」
城の大扉の前で声を掛けられ、セレスティニアが振り返る。相手を認めれば、静かに最上級の礼を示し、同時にクロウも一歩下がり一礼を返した。
それを受けて『ノヴル=オルガヌス』国王セルサスが頷く。
礼を解いたセレスティニアが笑みを浮かべてセルサスを見据える。その真っ直ぐに見つめる目を受けきれなくて、セルサスが僅かに目を伏せた。
「これから――・・・。」
「えぇ、王兄様の元へ伺いますわ。」
セレスティニアが、特に隠しもせずに、返答すれば、王は小さく眉根を寄せる。公にではないが、王と仲違いしているとも知られている相手の元へ、しかもこんな時間に伺う。
それが何を示すのかを分かっているのか、と。王の騎士が憎々し気な目でセレスティニアを見れば、その視線に対し、クロウが制するような目を向けた。
赤い目がその騎士を射貫いて、姿勢には出さないが、騎士が明らかに射竦められた様な怯えた表情を浮かべる。
ふっと視線を逸らした騎士が、そのままセレスティニアと目が合って。彼女が向けたその微笑みに今度は思わず息を飲む。
自分に付くほどの騎士が、この二人に容易に揺さぶられているのを見て、王が忌々し気に舌打ちをする。それを気取った騎士が僅かに慌てた様に、姿勢を整え、一礼して誤魔化した。
「それでは、セルサス様」
「・・・ああ。」
優雅に一礼してセレスティニアが背を向け、クロウがその手を取った。
そうして、二人が視線を交わし、その顔を寄せ合う。セレスティニアがその耳元で何かを話し、すればクロウが薄っすらと笑う。そうして正面を向いたセレスティニアに対して、
クロウが背後に視線を向け、挑発するように冷ややかな笑みを向けた。
「・・・・・。」
セルサス王が小さく息を飲み、隣の騎士がぐっと剣の束に手をかけるのを、先ほど同様、視線一つで、制して見せて
城門が閉められた後、クロウの耳に
「―――・・・っ!!」
誰かの金切り声が聞こえた。
馬車に揺られながら、セレスティニアとクロウが隣り合って肩を寄せ合う。その手が触れ合い、愛おし気にお互いを撫で合うのその姿を、馬車の窓越しに見て、王兄の騎士が眉根を寄せる。
この後、王兄の元へと侍り、褥を共にする、というのに。
離宮に付けば、クロウのエスコートのまま、浴室へと案内される。
付き人がセレスティニアの更衣の手伝いをしようとするのを、クロウが制する。困惑する侍女達に対して、大きな傷があって気にしているから、と。クロウが適当な理由を告げれば、
「構わん。」
その場に訪れた姿に、その場の全員が、最大級の礼を示す。
「今更浴室でナニをしようと咎めぬわ。」
王兄アゼレヴィルがクロウを見ながら、寛大さを示す様に手をふる。それに感謝の意を示す様に、セレスティニアが深く一礼すれば、
「王兄さま・・・」
「必要ならこの俺が手伝うが?」
「・・・お戯れを。」
優雅に笑ってかわすセレスティニアに、アゼレヴィルが微かに笑って、そのまま踵を返した。侍女達にも外へ出るようにと促す。
「楽しみは後に取っておこう。」
「・・・・・。」
そうして、誰もいなくなった浴室内で、クロウが大きく息を吐く。珍しい様に、セレスティニアが彼の頬にそっと触れれば、
「・・・・・っ」
強く、抱きしめられる。
「どう、した・・・?」
思わずシオンの言葉でクロウを呼べば、
「・・・ヤバイ。思いの外、我慢出来ないかも。」
多分、大丈夫だと思う、けど、と、前置きした上で。
シオンと、なによりエルヴィスから告げられた報告から、導き出した内容に、クロウが心の中で自身にも言い聞かせても。目の前の、美しすぎるセレスティニアを見て、どうしても不安が抜けきれないクロウが、
「一応言っとく。」
「ん?」
「・・・アイツが本気でお前を抱こうとしたら、その瞬間、ぶった斬るから。」
「落ち着け、大隊長。」
瞳孔が完全に開いた目で見つめてくる様に、シオンが、はぁっと溜息を零す。
それでもまるで駄々っ子の様に、ぎゅうぎゅうとシオンを抱きしめてクロウが呪詛の様にブツブツ言い始める。
「あー・・・。いい、やっぱもういい。任務なんて関係ない。オレ以外がお前に触れるかも、とかマジありえねぇ・・・。」
「仕事しろって言ったの、お前だろうが。」
「知らない。もうどうでもいい。全員殺ればそれで済む。」
「・・・・・。」
死ぬほど物騒な台詞を、それこそ子供のように言い放つクロウに、呆れればいいのか、笑えばいいのか。
それでもシオンは、そこまで開き直ってしまうクロウからの想いに、少しだけくすぐったい感情も拾っていた。
(存外、コッチも絆されてんな・・・。)
シオン自身にも一抹の不安がなかったわけではない。
只でさえ、こんな行為は嫌いだ。断言出来る。抱きしめ、触れ合い、暴かれるのも、クロウだからこそ安堵し、許し、快感を拾える様になっているのだ。
ただ、これは全く想定していなかったことでは、なかった。
クロウの守りと二人の献身。それでも、セレスティニアが身体を求められる様な状況に、なったとして、
『万が一、セレスティニアが、クロウ=シキジマ第四大隊長さん以外に、襲われ暴かれそうになったら・・・』
コレは、ルミナスプェラを出る前に、リィンがシオンに告げた言葉だった。
リィンは真摯な顔で、シオンの手を取って告げた。
『どんな手を使ってでもいいから、逃げて?』
『必要なら、誰かを殺してでもいい。ワタクシは貴女が大事。その時は、国同士の問題、なんて忘れて?』
『大丈夫、どんな手を使ってでも、貴女が傷付くことなく生きててさえくれれば、ワタクシが守ってあげられるから。』
目の前のクロウも、あの時のリィンも、シオンに同じ様な言葉をくれる。
それが、自分を、どれほど強くしてくれていることか。
しがみついてくるクロウの背を、とんとんと、シオンが優しく撫でる。決してトラヴィスやエルヴィスの前では出さない、クロウの不安を、シオンは喜んで抱き締める。
「心配するな、ばか。」
「・・・・・。」
「何かあったとしても、お前のところまで戻ってくるから。」
「・・・何かあってほしくないんだけど。」
「そうしたら・・・まぁ、いいや。お前が煮るなり焼くなり、なんとかしろ。」
「───・・・っ!」
まさかの、物騒なお許しに、クロウが思わず、と言った顔でシオンをまじまじと見る。
すれば、久しぶりに見た、酷く男前な、表情をして、シオンが笑うから。
「・・・いいの?」
「最悪、お前と逃げてやる。」
「・・・ちょ、待って。それ、最高なんだけど。」
「仕事はしろ。」
「・・・逃げちゃうなら皆殺しでよくない?」
「それとこれとは別だ、バカ。」
「・・・ふっ」
「・・・ククク。」
浴室で、声に出して、二人で笑った




