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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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薔薇輝石(ロードナイト)11




 高らかな騎士の宣言に、セルゲイが顔を青くする。

「・・・セレスティニア。」

「いいえ。」

 呼ばれる何かがあるか、と、暗に問うセルゲイに、セレスティニアは短く否定してみせた。


 最も、


「特に、思い当たることは・・・。」


 とは言っても、自身を偽ったり、こそこそ嗅ぎ回ったり。


(それが全てバレているなら、思い当たるコトだらけになるけどな。)

  

 

 セルゲイが提示した理由も念頭に置きつつ、クロウが扉を開ければ、背の高い西方種の男が、威圧的な眼差しでクロウを睨んだ。それに対し、クロウは涼やかにその目を見返す。

「セレスティニア様は何処か?」

「・・・・・。」

 そう慇懃無礼に尋ねる騎士の整えられた身なりに、クロウが、家政人メイドの主が兄王アゼレヴィルであると察した。

 問いかけに対しては無言で室内を促す。すれば、セルゲイと共に中で寛ぐセレスティニアに、騎士がぐっと表情を曇らせた。至急を促す理由は、あまりよいものではないらしい。


(まぁ、なんにせよ・・・。)

 セレスティニアが立ち上がって騎士の前へと進み出る。

「如何様でしょう?」

「王兄アゼレヴィル様からの御達しである。今すぐに離宮へ参られよ。」 

「ええ、ですから何用で?」

「王兄アゼレヴィル様の御達しである。」

 まるで言葉遊びの様にはぐらかす騎士に、セレスティニアは無言のまま、笑顔を返した。が、心の中では


(用件を言えって言ってんだよクソったれが!)

 

 残念なのは、それに該当するセレスティニアらしい表現が出てこない事だ。

 溜息を一つだけこぼして。

 セレスティニアがクロウを呼び、行きましょう、と頷く。

 と、そのやりとりを聞いた騎士が、不意にクロウを指差し、

「貴様は呼ばれてはいない。」

「・・・・・。」

 瞬間、クロウが眉根を寄せる。

「・・・彼女の警護をはずせ、と?」

「言葉の通りの意味なだけだ。」

 ぐっと怒気を増したクロウに、それでも一流の騎士らしい男は、スッと目を細め、

「セレスティニア様の安全は、我等が保証する。」

「それをどう信頼しろと?」

「その身で味わうか?」 

 クロウの挑発を素直に受けて、よほど腕に自信があるのか、茶髪の騎士が笑みを浮かべたまま剣の束に手をかけた。それを、

「待ちなさい。」

 セレスティニアが静かに制して、クロウの肩に手をかける。そして一礼する騎士の前に立ち、

「わたくしのみで伺いますわ。ただ、少しお時間をください。支度を整えたいのよ。」

「・・・わかりました。」

「ありがとう。」

 そう告げて、軽く微笑むと、クロウの方に向き直り、

「手伝ってくれるでしょう?」

 と、意味深に微笑む。先程までの殺気も剣幕も嘘のように引かせて、クロウがその手の甲を唇で触れる。

 踊るような優雅な動きで、クローゼットの前に立ち、ふと、ちらりと騎士の方へ視線を送って、

「お着替え、見張る必要が?」

「可能ならば。」

「あそれほど大変なことなのね。」

「ともすれば追って沙汰が必要な程には。」

「あら怖い。」

「ただ、しばらくの身の安全は保証されましょう。調べもなにもすんでいない状況ですので。」

「そう。」

 なら構わないわ、と。セレスティニアがクロウが選んだドレスに頷く。

 そのまま、騎士と、セルゲイの目の前で、クロウがセレスティニアの前に大ぶりのショールを当てて、ドレスのファスナーを下ろした。

 その胸元を腕で押さえて、極力肌を晒さないように配慮しながら、ゆっくりドレスを脱がせていく。


 布擦れの音の中、セレスティニアがふと回されたクロウの腕に頬を寄せた。と、それが合図のように、顎を取られ、唇が合わせられる。

 舌が絡まり、濡れた音が立てられるのを見ていられず、セルゲイが思わず視線をそらして、


「セ、セレスティニア・・・!」

「・・・あぁ、ごめんなさい。いつものクセで。」


 彼女の淫靡な様に、それでも騎士は表情一つ変えないままつぶさにセレスティニアを観察する。その様子をクロウが唇を離さないまま、気配だけで拾う。

 先程確認したその剣の柄の紋章は、王の紋章ではない。王兄の、私兵の紋章だ。王からの命令ではなく、王兄からの、というのは間違いないらしい。

 本来王城の客人であるセレスティニアに、直接呼び出しが出来るほど兄王の立場は高くない、と踏んでいたが・・・。

 初日の宴に列席していなかったが、クロウは一度リィンの警護でノヴル=オルガヌスに来た際に、顔を見たことがあった。中央種純血らしい容貌。戦場に立っていたせいか、王よりもがっしりとして、鋭い眼差し。何より威圧感がある。

 王として国を治めるよりは、戦場で駆け抜けている方が似合う男だったというのは覚えていた。


 王族の呼び出してに出る、という形なので。

 ドレスは持参した中でも品のある慎ましやかなものを選んだ。

身体にフィットするタイプなのは変わらないが、首元までつめた、白のノースリーブ。同色の肘まで覆う手袋。それに赤いペンダントとイヤリング。


 そして、腰の二刀。


 出来上がった姿は、露骨なまでに攻撃的な主張が見える。誰もが知る、自身の色で染め上げたセレスティニアを背後から抱きしめて、クロウが、威圧するような殺気を二人に向けた。明確な意思表示だ。


 彼女を傷付けたら許さない、と。 


 その明確な殺意は、彼女の姿に込められて、これから会う相手にも届くであろう。

 その殺意に圧倒されて、セルゲイはぐっと息を飲む。その背に汗が伝う。いくらオブシディアンとて、戦いから離れた彼と、常に戦線で戦っていたクロウとでは、その技量も覚悟も違う。

 騎士の方はその殺意に引くことはなく、冷静な態度を貫いている。それでも、僅かに反応を示したのを、クロウは見逃さなかった。


(あぁ・・・)


 意図して、嗤う。


 いざとなれば、殺せるか、と。

 

 そして、その確証は、彼女を守るための鎧になる。

 

 クロウが再度彼女を抱きしめれば、セレスティニアがゆっくりと振り向いた。その黒い目が彼を見つめる。彼女が、ふわりと、柔らかく笑う。

 それを合図に、クロウが少しだけ目を伏せて、名残惜しそうに離れていく。


「お待たせ致しました。」

 クロウに向けた笑顔とはまた違った、セレスティニアの意味深い笑みに、騎士が無言で頷き、手を差し出した。どうやら帯刀に関しては了解を得ているらしい。ならば少しは、安心か、とクロウが懸命に己を納得させようとする。


 セレスティニアの手が騎士に置かれた瞬間、


 それでも、堪えきれないと言ったように、クロウが、射殺す程の目でその男を見る。


(やっぱり、無理に、でも・・・)


 と、


「お待ちください。」

 今まで口を閉ざしていたセルゲイが、ぐっと前へでる。

「私も、一緒に参ります。」

「・・・貴方が?」

「私なら、アゼレヴィル様もお許しくださるのではないでしょうか?」

「・・・・・。」

 騎士が、無言で考え込む。一考の余地があるほどには、アゼレヴィルとセルゲイは、それなりの関係があるらしい。

 すれば、騎士が、

「わかりました。まずはお連れしましょう。その上でお通ししてよいか、閣下にお伺いを立てます。」

「わかりました。」

 すれば、セルゲイがクロウに振り向く。

「耐えてほしい。」

「・・・・・。」

「わたしでは、君の足元にも及ばないが・・・。」

「・・・・・。」

「それでも、アゼレヴィル様に掛け合うことはできる。」

「・・・・・。」

「必ず君の下に戻すと、誓おう。」

「・・・・・。」


 いつも凛として己を貫くシオンの、その兄弟にしては、弱々しく感じていた。おどおどと、何かに怯えるようなセルゲイをみくびっていなかったといえば、嘘になる。

 だけど、今、そのクロウを真っ直ぐに見るその目が、普段のあの子を連想させて・・・。


「・・・・・。」

 クロウが無言のまま、軽く、一礼するように、目を伏せる。

 その姿にセルゲイは、小さく微笑んだ。

 入り口で待つセレスティニアと騎士の元へと小走りに近寄り、

「お待たせしました。」

 静かに伝えると、扉が開かれる。


「・・・・・。」

「───・・・っ」

 振り返った、シオンのその目が、僅かに細められるのを見て、






 クロウは、これ以上無い程歯痒い思いで、


 その背を見送った。




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